風呂の話

 今は全自動も増えたけれど昔のお風呂はそんなことはできなかった。沸かしている事を忘れて放置したりすると熱湯になってしまう。

 ある夜、父に電話がかかってきて、当時高校生のわたしに声をかけた。
「一緒についてきてくれ。万が一の事があったときには人手があった方がいいから」
 そして父が経営する賃貸アパートへ向かった。

 アパートに到着すると、二階の部屋からもうもうと大量の白い色の煙?みたいなものが出ているのが見えた。
 この大量の煙?は風呂場から出ている。どうやら風呂が沸かしっぱなしになって沸騰してしまっているらしい。大量の煙?は大量の湯気なのだ。それにしても凄い量の湯気だ。
 部屋の中では何が起きているのかわからない。最悪のケースとして、入浴中に急死していることも想定されるので警察に連絡して警官立ち会いの上で一緒にドアを開けて中に入った。

 部屋の中には誰も居なかった。どうやら部屋の主は風呂を沸かすのを止め忘れたまま出かけてしまったらしい。
 ともあれ最悪の事態ではなかったので安心したけれど、天井も壁も床も湯気のせいでびしょびしょだ。布団も電気器具も畳も箪笥も皆ずぶ濡れなので、これでは部屋の主が帰宅しても部屋が使い物にならないだろう。

 とりあえず最悪の事態に備えての緊急事態要員として駆り出されていたわたしは解除となって家に戻ることになった。

 その後、どういうやり取りがあったのかはわからないけれど、部屋の主はその後もずっと同じ部屋に住み続けていていたので父との間で円満に解決したのだなと思った。

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