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【旅日記】昭和レトロな渋温泉と和モダンの街、小布施を歩く(長野県/渋温泉)

長野観光を済ませて、今日宿泊予定の湯田中・渋温泉街に向かう。1時間ほど電車に揺られ、13時半に湯田中駅に着いた。

湯田中駅から渋温泉街まで歩くと30分くらいかかるので、普通ならバスで向かうところ。今日は時間があるので、ホテルのチェックインの15時までブラブラしながら時間を潰すことにした。湯田中温泉自体がちょっと寂れた温泉街という雰囲気を出していて、閉まっているお店や廃墟もちらほら見える。しかし、さすがは長野県、川の水がとにかくきれいだ。眺めているだけで癒やされる。

最初、渋温泉街のさらに先にある「猿座カフェ」を目指して歩いていた。しかし、坂道が続いてきつかったのと、その日は日差しが強く、額に汗がじんわりにじむ日和だったので、途中で行くのを諦めてしまった。道中、坂道をロードバイクで駆け上がっていく人がいて、ただただすごいなと感心した。

1時間以上時間を潰さないといけなかったので、「どうしようかなぁ〜」と渋温泉街をぶらぶら宛もなく歩いた。また、お昼ご飯を食べてなかったので、飲食店を求めてさまよい歩いたのだが、14時を過ぎていたので、どこもお昼の営業は終了していた。

特に宛もなく歩いていて、たまたま小古井菓子店というお店の前に来た。先客がおり、外のベンチでまんじゅうを食べている光景が見えた。お腹が空いていたこともあり入ってみることにした。パンやら、まんじゅうやら、色々なものが売っており、どれにするか悩んだ末、「香煎(こうせん)まんじゅう」なるものを買うことにした。

ショーウインドウ越しに「香煎まんじゅうをください」と商品を指さして言うと、お店の人に「皮は大麦を引いた粉で作られていて、中はしっとりした感じのあんこになっています。食べられそうですか?」と、親切にも心配してくれた。普通のまんじゅうとは違うと理解していたので「問題ないですよ」と答えて購入することにした。

お店から出て、香煎まんじゅうをパクりと一口食べると、めちゃくちゃ美味しかった。お店の人の言う通り、外側の皮は茶色く、大麦の香ばしさが感じられ、中はしっとりとしていて餡が包まれている。甘すぎず、なんとも言えない美味しさだった。

1つでは満足できなかったため、引き返して3つ購入することにした。お店に戻ると、お店の人も驚いて「お口に合いましたか」と聞かれたので「とても美味しかったので、戻ってきてしまいました」と頭をかきながら答えた。3個購入すると、今度は紙袋に入れてくれた。紙袋が好きだから、とても嬉しい気持ちになった。紙袋を片手に街をぶらぶらする。

今度はお土産屋さんに立ち寄った。地元で作られた焼き物が売られていて、一瞬買おうか悩んだがやめた。他には、「九湯めぐり(厄除巡浴外湯めぐり)」の祈願手ぬぐいが売っていた。九湯めぐりとは、手ぬぐいにスタンプを押しながら巡ることで、九労(苦労)を流し、厄除けのご利益があるとのことだ。9つの外湯すべては周れないと思うが、せっかくなので「祈願手ぬぐい」を買うことにした。

渋温泉は寂れているものの、どことなく昭和の香りがして風情がある。また、そこかしこに足湯や外湯が点在する。道が狭いので、佐川急便の車が来たとき、さっと脇に避けて歩を止めたことがあった。ドライバーの方が「ありがとう」という意思表示で手を挙げる。この無言のやり取りが良い。

そうこうしているうちに、チェックインの時間となり、今日泊まる予定の「渋温泉 春蘭の宿 さかえや」にやってきた。ちょっとお高めだが、1人でも泊まれるありがたい宿だ。他にも有名な宿があるが、どこも1人では泊まれない所ばかりだった。

宿の外観こそ、こじんまりとしていて古めかしそうに見えるのだが、中に入ってみるときれいにリフォームされており、まったく古さを感じることはなかった。ただ、和モダンといった雰囲気なので、昔の趣を残した古風な旅館を期待するとがっかりするかもしれない。宿泊する室内も1人では十分すぎる広さの和室でくつろげた。トイレットペーパーがダブルで、おしりを優しく包みこんでくれた。ダブルであることに感動した。

また、チェックインのときや食事の時に旅館のスタッフの人と会話した内容が、別のスタッフに連携されていることに気がついた。スタッフ間の連携やサービス精神旺盛な感じが、星野リゾートみを感じさせる。満足度が高い旅館で、もう一度来たくなる場所だった。

チェックインのときに、「人生が変わった師匠の教え〜著者 春蘭の宿さかえや 代表取締役 湯本晴彦」という本が置いてあった。最初はアパホテルみを感じてしまったのだが、調べてみると裏には涙ぐましい苦難の道のりがあったみたいだ。かつて、経営危機に陥ったことがあり、当時の旅館の中の雰囲気は最悪で、従業員が次々と辞めていったり、従業員同士の連携もうまくできていなかったそうだ。今の雰囲気からはまったく想像できない。

夕方、外湯につかりに出かけると、カランコロンという下駄が石段を打つ音がする。浴衣姿の宿泊客が外湯に出かけて、みんな下駄を履いているからだ。なんとも風情がある光景である。カメラを片手に写真をパシャパシャ撮っていった。一方で、夜中の外湯は赤まみれで、とてもじゃないが入りたいと思えるものではなかった。清掃直後の時間か、早い時間じゃないとダメだ。

翌日、昨日と打って変わって、あいにくの曇り空。朝、朝ご飯を配膳してくれた方に「本日はどちらまでいかれるのですか?」と聞かれたので、逆に「どこがオススメですか?」と聞いてみた。「松本はいかがでしょうか?松本城など、見どころが多いですよ」とおっしゃっていた。「松本かぁ、何回か行ったことがあって良いところだけど、今日は行く気分じゃないなぁ」と思った。

チェックアウト時に受付でも同じ質問をされたので再び聞いてみると、「小布施や地獄谷温泉が良いですよ。この時期だと、地獄谷はお猿さんがなかなか出てこないのであれですが…」と別の場所を教えてくれた。地獄谷は、昨日途中まで歩いた坂を登っていくことになるので無理だなと思った。なので、次の目的地は小布施に自然と決まった。

渋温泉で一泊後、チェックアウトしてすぐ近くのバス停までやってきた。渋温泉は川沿いにある温泉街で、川のせせらぎを聞くと心地よい。また、川はとても澄んでいて季節になるとホタルも見られるそうだ。バスに乗って湯田中駅まで行き、旅館の方のおすすめ通り、小布施に向かうことにした。

湯田中駅で始発電車に乗り込む。止まっている電車は、東京メトロ日比谷線の車両なのに、行き先が長野駅になっている面白さ。車両はきれいでまだ使えるのだがら、長野電鉄みたいに車両を再利用するのはいいことな気がする。東京では乗れなくなった電車に乗れるので、電車好きにはたまらないのではないだろうか?あと、長野電鉄は30分に1本くらいのペースで電車が来るから観光しやすい。

小布施に降り立ってみると、閑静な住宅街という雰囲気と、江戸時代を思われる歴史的な建造物が混在した街だった。かといって古めかしい古風な感じは一切せず、むしろ和モダン的なオシャレさを滲み出している街、という印象だった。ラーメン屋まで木造のかっこいい建物で、店先には提灯がぶら下がった和モダンな店構えと来ている。

街中をぶらぶらしていると「桜井甘精堂 小布施本店」という店がたまたま早くから開店しており、入ることにした。栗を使った和菓子を推しているらしく、栗羊羹や甘露煮などの栗を使ったお菓子が並んでいた。せっかくなので、栗羊羹を購入することにした。

行くあてがあるわけでもなく、街をぶらぶらしていると、整備されていて雰囲気の良さそうな小道を見つけた。その小道を歩いていくと、立派な門構えが見えてきた。「高井鴻山記念館 東門」という立て札がかけられている。高井鴻山とは、小布施に住んでいた豪商で、「画家、書家、思想家、文人として江戸末期一級の文化人」だったようだ。葛飾北斎の作品などが展示されており、当時の建物が残っている。それがそのまま記念館になっているようだった。

時間が早かったので、東門には人がおらず、入館チケットを買うために門をくぐって中の道を歩いていく。受付がある建物に入り、周辺にある美術館にすべて入館できるお得なチケット「おぶせ三館共通券」を購入した。売店にもなっており、小布施の歴史をまとめた書籍も販売していた。小布施について何も知らなかったので、合わせて購入することにした。

チケットを購入後、当時の住まいにそのまま入ることができ、見学させてもらうことにした。当時の雰囲気がそのまま保存されているようで、江戸時代にタイムスリップしたかのような感覚になれる。また、ところどころにコレクションの品と思わせる浮世絵が飾ってある。

高井鴻山記念館を後にして、先ほどの小道を歩き進めていくと、「信州小布施 北斎館」という葛飾北斎の肉筆画を中心に展示している美術館が見えてくる。小布施と葛飾北斎のつながりがわからなかったのだが、83歳の頃に高井鴻山を訪ねて、初めて信州小布施にやってきたらしい。今で言う移住にあたる。

「北斎と感情」という企画展をやっていたので見てみることにした。葛飾北斎というと富嶽三十六景の荒々しい波の向こうに見える富士山を描いた浮世絵(版画)が有名だと思う。実はこの他にも、読本の挿し絵も描いていたそうだ。今回の企画展は、主にこの読本に描かれた感情豊かな登場人物たちの挿し絵をまとめて展示していた(撮影OKと書かれていたが、ホントかなぁとと思ってちょっとだけ写真を撮った)

途中、葛飾北斎の生涯についてまとめた動画が上映されていて、立ち見で観た。葛飾北斎という名前で有名だが、晩年になると版画以外にも肉筆画を試してみたりとチャレンジャー精神溢れる人柄であることがわかる。また、晩年は「画狂老人卍」と名乗っていたそうで、良い意味で若い頃の気持ちを忘れない中二病みたいだなと思った。

小布施駅に向かう帰りがけ、せっかくなのでお昼を食べていくことにした。道中で発見したラーメン屋が気になっていたので、その店を訪れることにした。「長野土鍋ラーメンたけさん」という店で、土鍋のラーメンを出してくれるらしい。

信州といったら信州味噌だと思ったので「土鍋味噌豚骨 あっさり」を注文した。しばらくすると、グツグツとまだ沸騰した状態で土鍋に入ったラーメンが出てきた。まず、スープをすすると名前の通りくどくなくあっさりとしていて、どこか優しい味がする美味しいラーメンだった。

小布施は隠れた良い観光スポットだった。

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