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ラストシーンのようなもの

 陽の光が降り注いだ。この街に。
 そうか、これがこの街の朝。こんなに尊く美しい景色だと、あの日の僕は知らなかったんだ。
 ああ、僕らは旅を終えた。
 旅立ちの日より、背が少し伸びた。目に映る景色全てが新鮮に見える。

 テラスから見下ろす緑の中に、ミアの姿を見つけた。

「ミア!」

 意識より先に声を上げる。ミアはこちらを見上げた。

「……ミロ!」

 僕の姿を認めて、こちらに手を振るミア。

「おはようミロ! 早起きだねっ」
「うん、ミアも」
「日の出を見たかったからね。でも、少しだけ寝坊しちゃった」

 ミアはぺろりと舌を出してから、姿勢を正し、ひとつ僕にお辞儀をしてみせる。

「ミロ様、今、お召し物をお持ちしますね!」

 そう言って、走り出そうとしたから。僕は思わず、

「待って!」

 呼び止めた。
 ミアは素直に立ち止まる。もう1度、僕の顔を見上げた。
 今日からは、また、王子と召使いに戻る。はやく、この旅が終わればと、毎日の様に唱えていた。城には不自由のない生活がある。このままの環境で生きて、このままの環境で死ぬことができる人生だったのに、この経験に、何の意味があったのかわからない。何度も投げ出したいと思った。だけど。

「僕、強くなるよ」

 そう言えるようになったのは。

「ミアがいなくても、生きていけるように……ううん、」

 息を吸い込む。あの、黒い空気の村を思い出した。全部吸い込んでやる。僕は、強くなる。

「ミアを守れるくらいに! この国の全てを、守れるくらいに!」

 ミアは目を丸くして、その後、吹き出すように笑った。

「ばーか! 10年早いわよ!」

 ……馬鹿にされたのに。僕は、つられて笑ってしまった。
 僕のこの旅に、後悔はない。この先に続く人生にも。きっと、素敵な旅路が待ってるから。
 ミアの歌うような笑い声を聞きながら、僕は空を見上げた。

 青かった。悲しいくらいに。
 この空を、この世界に生きるみんなが、青かった、と、言える世の中になるように。
 僕は誓う。君を守れるようになると。
 僕はこの旅を、後悔していない。本当だよ。

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