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再びベトナム人になるには?:越僑とベトナム国籍再取得の悩み

2023年、noteでは(遅まきながら)明けましておめでとうございます。今年も折に触れて自分が関心のある、気になったテーマについて書いてみたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

在外越僑とホーチミン市の対話

さて今回は、テト正月前に行われるのが定例の、ホーチミン市と在外越僑(在外ベトナム人)との対話を巡る報道から、ベトナムの越僑、そして国籍取得・再取得について考えてみたいと思います。テト正月を母国で迎えようと、在外に住む多くの(元)ベトナム人がベトナム、特に南部ベトナムに帰ってくる時期を見計らって毎年行われるこの対話集会。今回は「国籍再取得」を巡る話題がメディア記事となっていました。

上記VN Expressが引く「在外ベトナム人に関する国家委員会」(Ủy ban Nhà nước về người Việt Nam ở nước ngoài)データによると、現在海外在住のベトナム人は約130か国に約530万人、2021年には180億ドル(約2兆3400億円!)と世界でもトップ10に入る巨額の外国送金を受ける国です。内、53%はホーチミン市に入ってきているとのこと。

そして以下別のTuoiTre記事(なぜかオンラインにはありません)では在外越僑の数が約500万人いる中、ベトナム国籍を有している人の数は僅か1万人程しかいないことを「非常に少ない」としています。その手続きに、特に「国籍を放棄したかどうか」を確認する作業に3~4年を要しているとして、その途中であきらめてしまう人がほとんどだとしています。

Tuổi Trẻ2023年1月8日記事より

ベトナムでの二重国籍は可能か?

越僑の人たちは、海外脱出後、難民等のステータスを経て定住国の国籍を得ている場合がほとんどです。その国籍を捨てて、ベトナム国籍を取りたいと思ってる人はかなり例外的と思われ、多くは二重国籍としてのベトナム国籍再取得を目指しています。

1998年国籍法では曖昧であった二重国籍の考え方ですが、2008年国籍法では、幾つかの状況においてベトナム人の二重国籍取得が認められるようになりました。幾つかの条件のうちの一つでは「ベトナム公民の妻、夫、実父、実母又は子をもつ」という条項もあり、これは主に在外越僑を念頭に置いた施策とみられています。法改正当時の報道(上記TuoiTre参照)でも当時の司法大臣へのインタビューで「越僑の二重国籍扱いは?」と質問が相次ぎ、多くの解説が大臣からなされています(日本語での解説はこちらも参照)。より多くの越僑のベトナム帰国、あるいはベトナムへのビジネス投資を促進する上でも、国籍を認めようと言う流れになったものとみられます。二重国籍が取れれば、ベトナム国民が持つIDカードも取ることができるそうです(以下記事参照)。

私事ですが、私もベトナム人の妻と結婚しましたわけで、子供の国籍問題は気になるところ。上記表現をそのまま理解しつつ、その条件を以て「国家主席の許可を得れば」子供のベトナム国籍も取れるように読めます。ただ実際には、冒頭のニュース記事にもあるように、かなり煩雑な行政手続きが待っているようです。(しかも、日本側が22歳以降重国籍を認めていないので、仮にベトナム側で国籍が認められても22歳時にどちらを取るかの選択を迫られてしまうわけですが。)

そもそも国籍再取得をしたいのか?

ただ、そもそも越僑の皆が国籍再取得をしたいかというと、そうとは思えません。命の危険をなげうって海外に脱出したボートピープルの歴史をみれば、ベトナム国籍を取りたいとは思わない、むしろ祖国を敵対視する姿勢もまだ根強くあります。特にアメリカに多く移住した南ベトナム出身者を中心に、以前ほど過激・目立つ形ではなくとも、今もそういった思いは残っています(多くの研究がありますが、こちら古屋博子先生文章などご参照)

なので、この問題は500万人規模在外越僑全体の問題とは言い切れません。冒頭記事では「全ての在外越僑の願いです」と、ホーチミン市に来た越僑代表が訴えていますが、母国に帰ってきたい、帰ってくる用事(ビジネス)がある人たちにとっては願いでしょうが、実際の割合としてはどのくらいなのでしょうか?2005年には以下のような調査が行われとはいうものの、これもベトナム政府側の調査ですのでどれ程越僑全体の意を反映しているかはわからないかなあとも。

ただ海外脱出第一世代が高齢化し、祖国への思いに駆られる人は多いでしょう。またその子供、孫世代は、自身のルーツとベトナムでのビジネスチャンスを生かすため、国籍取得をしてより自由にビジネス展開したい、或いは不動産を買って…なんて思う人もいるのは確かなようです。その際にベトナム国籍があれば何かと便利でしょう。

今も増える在外ベトナム人、今後の趨勢は?

それにしても気づいたのは在外に住むベトナム人の多さ。上記2008年国籍法当時の報道ではその数を「300万人」と言っているのに、より最近のデータとして紹介した公式見解の数値では530万人。十数年で倍にもならんとする増え方です。コロナ禍などありつつも経済発展してきているベトナム、その中でもやはり海外に出るベトナム人は多い、増えているのだと改めて考えさせられる数字です(ちなみに日本の外務省が発表する海外在留邦人数は2022年で130万人)。

数値の定義がハッキリわかりませんが、日本に来るベトナム人も急増している中、この数には日本で年単位で働き、或いは滞在するベトナム(法務省統計で2022年6月には47万人)も入っているかもしれません。数年間の出稼ぎも多いでしょうが、彼らの中で日本に定住する人たちは、越僑と呼ばれるようになっていくでしょう。そういった新しい越僑は上記したような難民バックグラウンドの方とは全く違った考え方を持っているでしょう。

そう考えると「越僑」「二重国籍」などと言っても、日本からもそれほど遠い話ではないかもしれませんし、そういう在外ベトナム人からみたベトナムというのも、この国を理解するための重要なファクターだなあと改めて感じました。



11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。