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Sóc Trang省の華人ーメコンデルタ最大の文化の混沌

ベトナムで最も華人人口率が高いSóc Trang省

メコンデルタの華人シリーズ、第二弾はSóc Trang(以下「ソクチャン」)省の華人についてです。ソクチャン省はメコンデルタの南沿岸地域に位置する省で、ソクチャン省人口は約120万人、内華人62,389人(2019年人口センサス)と、人口に占める華人率は5%強、これは絶対数ではベトナム最大の華人集住地であるホーチミン市よりも「比率」としては大きい、ある意味「ベトナムで最も華人人口が多い省」なのです。また、メコンデルタ全体の華人人口の約42%がソクチャン省に住んでいることにもなります。これら数字から、ソクチャン省における華人の多さがわかるでしょう。

ソクチャンはメコンデルタの南に位置

ただその華人人口をはるかに超えるクメール人もいて、加えてそうは言っても過半数を占めるキン族(ベト人)の人口もありと、他民族が混ざり合った地域として知られています。この辺りは以下に紹介しました下條先生の著作に非常に詳しいです。詳しくは是非同著書を読んでみて下さい、大変おススメです!

Sóc Trang省華人の会館、旧跡

そういう地域であるソクチャンには、中心であるソクチャン市始め、郊外県にも多くの華人会館、旧跡が残されています。例えばソクチャン市内にあるこちらの和安會館(Chùa Ông Bổn-Hoà An Hội Quán)。ここはどこ出身の人の会館というよりは、華人全体の会館になっているよとは、同会館内にいたおじさんの言葉。とはいえ、やはり他のメコンデルタ地域の例に漏れず、最も多いのは潮州出身者だそうです。

蓄臻- 和安會館- Chùa Ông Bổn-Hoà An Hội Quán

続いてこちらは上記會舘と川を挟んで対岸にあった関帝廟。横浜中華街などにもあるので日本でも有名ですが、三国志で有名な関羽は華人、特に在外華人にとって商売の神様、そして自らの守り神として絶大な信頼と信仰を集めています。その信仰は広東、潮州等々出身地を超え、天后(こちら別note記事の解説参照)と並び華人全体の神様の地位を確立していると言って過言ではありません。

真ん中に関羽、左に周倉、右に関平を従える。

また少し南に下ったところにあるMỹ Xuyên県にも大きな潮州会館があります。このあたりはかつて河川貿易の要所だったらしく、この会館がある近くの市場は昔は華人商人たちが多く売買を行っていたそうです。ただベトナム戦争後この地域を離れた人も多く、現在ではかつてほどの存在感はありません。それでも、海外華人からの送金や資金援助を得て修復されている会館の数々は、非常に立派なたたずまいで地域の人の信仰を集めています。

Mỹ Xuyênにある潮州会館

特にこの潮州文化が色濃く残る地域は、沿岸地域でもあるVĩnh Châu県です。ただこの地域はまたそれだけでも非常に濃い文化と歴史がありそうですし、まだ十分に見ることができていないところ、もう少し時間を取って現地を訪れ、別記事にしたいと思っています。

Vĩnh Châuはソクチャン市より更に南の沿岸地域

ベトナム人、クメール人、華人が混ざりに混ざる文化

と、ここでは華人の存在を強調して来ましたが、多民族が混ざり合った地域として知られています。華人と名乗る人たちも「まあ、自分も皆Lai(混血)だけどね」と「Lai」である、混ざっていることが常態であるのがある意味の大きな特徴でです。

その中でも、大変存在感を以て残るクメール文化、クメール寺院の数々は大変印象的で、それと併せて文化が混ざり合う感覚が、このソクチャン省を非常に魅力的にしています。

それゆえに主要民族の団結はベトナム政府として、そしてソクチャン省人民委員会としても大きな課題。街の中心にあるロータリーにはベト人(キン族)、クメール人、華人の少女三人が手に手を取り合う大きな像が建てられ、各民族の融和を象徴しています。北部で華人が公的な言説の中で語られることすらほぼ無かったハノイから始めてこの地を訪れた時に、この像を見て非常に大きな衝撃を受けたのを覚えています。

三民族融和を象徴する少女像

地元に残る味から見える華人文化の影響

ここからは地元の名産品、特に食べ物から見た華人文化の影響について見てみましょう。ソクチャン省で有名なお土産と言えば、バィンピア(Bánh pía)。これは潮州起源の潮州式月餅が土着化してできたお菓子。ピアが潮州語でお餅やお菓子を表す言葉(つまりほぼbánhの意味)なので、同じような意味の二単語が繰り返されてできた言葉、名称なんですね。

更に全国的にどこまで有名かわかりませんが、これまたソクチャン省で有名な麺料理であるBún nước lèo。クメール文化由来の甘い感じの味付けがベースになりつつも、華人が好んで食べる焼き豚が入り、そしてベトナム人(キン族)も好む野菜が入るなど、肉あり、野菜あり、魚ありのこの麵自体のごった煮感が、まさに文化融合の産物とも解釈できます。

ソクチャン省名物の麺料理Bún nước lèo

地域の人たちの食事に残る異なる文化の影響は、民族のアイデンティティーなどの変化よりも根強く、もしかしたら一番しぶとく後世にまで残るのかもしれません。だって美味しいものは食べ続けたいというのは、国や文化を超えた人情ですからね。

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。