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ベトナム人は、段取り悪いもの勝ち?

なんで先にやっておかないの?

ベトナムにいると「ベトナム人は何でもっと段取りよくやらないんだ!」「もっとさっきのことを考えてやれば、こんなに締め切り前にバタバタしなくても良いのに!」と文句を言いたくなるケース、そう感じる方は日本人には多いのではないでしょうか。計画を立てて、それに忠実にやり、事前にやれることは先回りして早めにやっておき、最終的に期日通りに成果を出す。これが多くの日本人がビジネスや仕事の中で求められたり、求めたりしていることでしょう。でもベトナム人は、そういうふうに先のことを考えてるような感じがなかなかしません。

例えば最近、ベトナム側の公的許可を取らなければいけないことがありました。その手続きが非常に面倒くさかったし、近年その面倒くささに拍車がかかっていることは、日本人(外国人)は多く経験されているはずです。その手続きの非効率さはまたさておいて、その過程で何度も何度も政府側の返答を待つ状況があったので、この間に「先にやっておけることはある?ねえ、ある?」と何度も確認したのに、手続きを直接やってくれているベトナム人は「特にないよ、まぁまずはその結果を待って」と言うばかり。ところがその手続きの一つのステップの結果が来た途端、ようやく真剣に考え出したのか「あれが必要、これが必要」と言われたりして「なんだよ、それ!あんなに長く待たされている間に、それやっとけばよかったじゃん!」と私が怒りだす、そんなことがありました。こんなシーンは皆さんのベトナム生活・ビジネスシーンの中でもあるのではないでしょうか。
(勿論そういった急に必要になる書類が、ベトナム人でも想像のできない、斜め上からの無茶な政府要求であることもありますが。)

計画性に負けない「対応力」

ただ、これを単に「ベトナム人は仕事ができない」と考えるのは短絡的に思えます。それはそういうふうに困った状態になった時からのベトナム人の対応力は、とても素晴らしいものがあるからです。なんだかんだで遅れたり、なんだかんだで出たとこ勝負になったりしたことを、まぁなんとかまとめてしまう。その場での対応力、フレキシビリティは日本人にはないものだと思います。例えば、ある会議で急に話を振ったり、スピーチを振ったりします。そんな時、日本人は事前準備原稿がないとついオロオロしてしまったり、時に「事前に予定せずに、急に振るなんて失礼だ!」などと不機嫌になる方もいたりします。一方、ベトナム人は時に堂々と、時に「あら、困ったわ」との表情を見せつつも「そんなに喋ることあったの?」と思うくらいアドリブで沢山話せることがよくあります。用意はしていない、用意がない状況に結構強いなあと感じます。つまり変化に強い、対応力があるということですね。

変化が前提、変化するのが当たり前なベトナムの歴史

これはなぜかなと考えると、ベトナム社会、その変遷の歴史に思いを馳せたりします。ここ100年、200年単位のベトナムの歴史は激動のものでした。阮朝、フランス、日本、アメリカ、中国と、それぞれに統治・支配されたり、それぞれと戦ったりしながら展開されてきた歴史の中で、数十年単位で落ち着いて生活を送る日々はあまりになかったでしょう。また平和が訪れたドイモイ以降のベトナムも(これは良いことですが)急激な経済成長を遂げ、それはそれで変化の激しい社会を経験して今に至っています。

そんな中では「変化することが当たり前、先回りする方がばかばかしい。だってどうせ変わるんだから」と言う思考パターンにベトナム人がなるのも無理がないかもしれません。だって事前に段取りをし、前もって何かやっておく人の方が、社会が変化し過ぎると損をしてしまうわけですから。そういった「段取りの良い」人たちが生き残れず、そうでなくその場のその場の対応力で何とかしてきた人が社会的にのし上がってきた、そういう社会とも言えるんではないでしょうか。そして、確かに変化が速い今の世の中、その「対応力」がゆえにベトナムが先に行っている分野もあるように思います。そうして対応力で生きてきた男性と、対応力で生きてきた女性が結婚して子供を産み、子供は更に対応力に磨きがかかり…は言いすぎかな(笑)。

とは言え時には腹も立つ、でも…

もちろん段取りが悪いゆえに明らかに損してる場面も結構見られ、「ベトナムのやり方がイイね!」とばかり言うつもりは毛頭ありません。自分自身も何だかんだ日本で生まれて育っているので、この段取りの悪さ、行き当たりばったりな振る舞いにはイライラさせられることがしばしば。とは言え、こういう風に背景を理解して、或いは理解できずとも理解しようと努めて、ベトナムの人たちと向き合いながら仕事をすると、もう少し心を穏やかに仕事できるかなぁと思うところです。そして、変化に動じず対応していく臨機応変な振る舞いは、自分ももっと学んでいかなきゃなあ、とも思います。


11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。