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時間が止まった場所。

東京には、昭和の名残のある場所が複数ある。
南千住、吉原ソープ街、などなど。
まだまだいっぱいあるでしょう。

南千住に行ったのは、東京の珈琲四天王「カフェ バッハ」に来店するためでした。駅を降りると、大宮とか取手とか、どちらかと言うと地方都市みたいな顔をした街並みがひょこっと現れる。

渋谷や新宿とは違って建物の間と間が開かれていて、ゆったりとした景観がある。遠くにスカイツリーが見えるため、ここが東京であることは疑いようもないのだが、どことなく寂しさを感じる。

バッハに入ると、ワックスで髪をこれでもかと固めた店員さんが挨拶してくれた。ここにずっと来たかったこと、上京5年目にしてやっと来れたことを伝えた。

ライトブレンドを頼んだ。私は一番好きな豆はキューバなのだが、最近はどこも見かけない。大体グアテマラやコロンビアだ。キューバの味を他の豆で出すとなると、ライトローストにするのが手っ取り早いのだそう。なのでこのブレンドにした。うまい。ふわっとした味わいの奥にコクがあって、懐かしい味を覗かせた。

周りを見渡すと、ほとんど高齢の方がお客さんだった。ここに来るまでを見返しても、駅を降りた時は若い人がいたけれど、誰ぞも姿を消して僕の周りにはジジババばっかりになっていた。

バッハもそういうコンセプトなのだろうが、ワックスの固め方といい、接客といい、服装といい、昭和の名残があった。恐らくそういったものを好む人々のために開かれた店でもあるのだろう。昭和から続いている珈琲喫茶というものは、どこか時間が止まっているのだ。変わったのは値段だけ。

帰り道、若者とジジイが喧嘩をしたみたいで、警察官とパトカーが複数来ていた。怖いもの見たさで近くを通ったけれど、どうも両成敗で済みそうだった。
視線を感じて後ろを振り返ると、トイプードルを抱えたおばあさんに出会った。思わず「あ、可愛い」と言うと「可愛いでしょ~」と孫を自慢するみたいに愛でていた。そのおばあさんは20年以上利用しているスーパーマーケットが工事期間に入ったことをずっとぼやいていた。

この町は時間が止まっているのかもしれない。そう思った。昭和の名残があるのではなく、昭和のままでいたい人々のための街なのだろう。あの時代をそのまま愛でて、あの時代に内包される温かみを享受するために、敢えて昭和のままでいる。そんな感じだ。


今泉京介です。小説、エッセイ、詩、色々と書きます。よしなに。