【#20】異能者たちの最終決戦【失恋】
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青田はガラス戸から中を窺うと女の子二人の様子は落ち着いていて、どうやら話は一段落ついたようだった。彼は顔だけ出して訊いた。
「話はすんだかな?」
二人はうなずいた。
「あっあの、東都とだけ話したいんですけどいいですか?」
紗耶香は言った。
「あ、ああもちろん大丈夫だよ」
青田は顔を引っ込め東都を呼ぶ。
「おーい君と話したいってさ。俺はタバコでも吸ってるから」
東都は浮かない顔をしながら入ってきた。さも迷惑してるという体で。
「何だよ、話って?」
「東都はどこまで知ってんの?」
紗耶香はすっかりいつもの紗耶香を取り戻していた。
「どこまでって、…知っていることは全部お前らに話したよ。なにも隠してないし、知りたくもないよ。できれば関わりたくないんだけどね。なんか相当ヤバイらしいじゃん?お前らなにしたの?おっと、俺は関わりたくないんだった」
紗耶香は麻里を見る。
麻里は頷く。
「別に教えてもいいけどね」
「え、お」
意外な紗耶香の返答に言葉がつまる東都。
「私らつきあってんの。レズなの」
あっけらかんと紗耶香は言った。
東都は自分の人生でこういったレアケースに遭遇するのは自分の下半身の恒常的な勃起症状以外に経験がなかった。なので、まずそれは冗談かと思ったが昨今のLGBT報道とその論争の影響受けそれを言うのははばかった。彼は長澤麻里の手前、良識のある進歩的な人間の様に振る舞いたかったが、冗談の線は消えてなかったので、どっちの場合でも彼女らを傷つけず、くわえて自分が間抜けな結果に陥らない言葉を選ばなければならなかった。彼は5秒ほど頭をフル回転させた。結果、東都の口から出た言葉は最低なものだった。
「で、どこまでいったの?」
彼は言ってしまった瞬間愕然とした。俺は馬鹿だと。紗耶香は即答する。
「全部」
「全部?」
彼は魂の脱け殻の様に繰り返した。
麻里を見ると、彼の目を見て頷いた。
そして、吐き捨てるかのように紗耶香は言った。
「私達ね、ホテルでエッチしている所を盗撮されたの」
東都は全てを理解した。
それから少し間をおいて、自分が失恋したことも知った。
だが、悲しくはなかった。淋しくもなかった。
それは麻里に恋心を抱く過去から未来の全ての男達が仲間だったから。
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