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【短編小説】異世界転生した俺が異世界モノの小説家になった話

さて、表題にある通り俺は異世界に転生した。周りはスライムとゴブリンがうごめいているファンタジーな世界なわけなんだが、ここでは俺はただの非力で腹を減らした人間に過ぎなく、生きていく糧が必要だった。俺は街を歩いていて人込みができているのに気づいた。彼らは熱心に壁新聞を読んでいた。中には笑いながら読んでいるエルフもいた。俺は気になって壁新聞を見ると、新聞小説らしきものがあった。内容はトロールの屁に驚いたゴブリンが肥溜めに落ち、オークが引く荷馬車に轢かれて死ぬというしょうもない話だった。彼らの話を聞いてみるとハバナイという国民的作家による新聞連載小説で、この人混みができるくらい人気な作品だという。俺はすぐに文具店に向かい紙とペンを購入した。

俺は出来立てホヤホヤの小説をあの新聞を発行している出版社に持ち込んだ。担当の人間は文字通り爆笑しながら俺の処女作を読んだ。だが途中で呼吸困難に陥り最後まで読んでもらうことは出来なかった。俺はただ学生時代にうちこんだサッカーについて書いただけなのに……。

新聞で連載が始まりたちまち人気作家になった俺はもう生活の糧に困ることは無くなった。ただ一つ懸念があるとすれば毎週ハバナイと思われる人物からの誹謗中傷のくそ長い手紙が届くくらいだ。

俺はこの世界で小説家として書きに書きまくった。ネタに困ることはなかった。ただ俺が今までいた世界をそのまま書けばいいだけだったからだ。数年経ったある日、新聞の書評欄に俺の新作のレビューが載っていた。こう書いてあった。

「彼の描く「地球シリーズ」の最新作は正直マンネリを感じた。これまで、その豊潤なイマジネーションで創り上げた世界観で私たちを笑わせ続けていた作者だが、結局のところほとんどの登場人物が金とSEXしか考えてない類型的なキャラクターで占められていて、そこで発生する多くの問題もコミュニケーション不足に起因するものばかり。私はその代わり映えしない内容にまたかと思い本を閉じてしまった。」

俺は事実を書いただけだ。それなのにマンネリと言われた。俺は傷ついた。そして久しぶりに声を出して笑った。


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