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本を道具として思考をゆらす【未来するブックサロン「呼問」】

皆さんは、ふだんどのくらい本を読まれますか?
私は読みたい本を手元に置くものの、読み始めるのが遅いため、うず高く“積読”してしまうタイプです。

「本」と「対話」を手掛かりに、先が見えない現代社会を様々な角度から見つめ直し、『問い』によって豊かな未来を構想する『未来するブックサロン 呼問』プロジェクト。

令和5年3月、イノベーション・ハブ・ひろしまCampsで、「共読と対話で『問い』を生み出し、『異』をつなぐイノベーション~ビジネスから日常まで。編集思考の可能性~」と題したイベントが開催されました。
経営学、そしてビジネスの視点を織り交ぜながら、呼問の本質的な価値を探ります。

冒頭、「簡単に答えが出せない時代」に「正しく悩むにはどうすればいいのか」を悩まれていた山崎さんに共感し、「その悩みにこそ編集力が役立つと感じたことがプロジェクトの始まりです」と切り出された編集工学研究所 代表取締役社長の安藤昭子さん。
まずはパーパス経営という視点から、呼問との意外なつながりを紐解きます。

一橋大学ビジネス・スクール客員教授で、「パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える」(東洋経済新報社)の著者でもある名和高司さんから、「“超えて、つながる”ネットワークがもたらすイノベーションと組織力~呼問モデルの社会的意義について~」と題してお話していただきました。

新しいイノベーションを起こす組織の形態として「DAO組織」(Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織))にパーパスによる「つながり」を加えた「DACO組織」(Decentralized, Autonomous but Connected Organization)を提唱されている名和先生。
そのつながりを生むキーワードが「編集力」です。

名和先生の講演を受けて、さらにパネルディスカッションへと続きます。
名和先生のほか、安藤さん、株式会社POLA執行役員の荘司祐子さん、県庁の山崎弘学さんとともに、呼問の内容をさらに深めました。

左から、安藤氏、名和先生、荘司氏、山崎氏

自社への信頼や共感を育むために、お客様とわたしたちに加えて地域や社会とのつながりが大切になってくる。

荘司氏

以前から、心理的安全性に基づく社内のつながりを築くため、本と対話を活用されてきたPOLAさん。本を“隠れ蓑”にすることで、価値観を丸裸で交換することがとても楽なのだとか。

本音の交換には媒介物(本)が必要で、意味のある出会い、深い出会いをつくるために志をつなぎ編集する。そこからイノベーションが生まれていく。
呼問そしてCampsへの期待を投げかけられ、苦笑いを浮かべる山崎さんでした。

「共読」と「対話」のワークショップ

休憩を挟んで、実際に本を使ったグループワークに挑戦です。
「ブックサロン」を冠する「呼問」ですが、本をあまり読まない人も参加しやすい工夫がされています。

まずは、「ひろしま10の問い」から考えたいテーマ(問い)を選び、それに付随する5冊の選書のうち、自分の気になる本をピックアップ。タイトルだけでなく、帯、著者、紙質、デザインなど、気になるポイントはいろいろです。

選んだ本はすぐに開かずに、表紙や目次を眺め、「著者が伝えたいことは何かな」と想像しつつ、その本に入っていくためのキーワードになる言葉、自分が気になったフレーズを抜き出します。

さらにそのキーワードに対して、それを言い換えたり補足する言葉や自分が連想する言葉をつなげていき、言葉のマップを描きながら、対話により互いの価値観を交換していきます。

ひとつの正解を求めて本を読むこともあるかもしれませんが、共読と対話を大切にするこのワークショップには正解はありません。他者との交わりのなかから自分の中に新しい視点が生まれる感覚がつかめるといいですね。

読み始めるまでのハードルが高い私でも参加しやすそうなこのワークショップは、今年度もCampsで開催されます。
詳しくはこちら↓から、広島県のホームページをご覧ください。


EDITORIAL NOTE —小林のつぶやき

積読37センチ(執筆時時点)の小林です。

徐々に共感の輪が広がり、今後の活動が楽しみな呼問ですが、今日はもう一つ、「本」を通じて賑わいを創出し、知を創発していくという公設民営書店プロジェクトをご紹介します。
呼問の知恵袋である編集工学研究所と丸善雄松堂が福井県敦賀市と手掛ける「ちえなみき」です。

「ちえなみき」の空間コンセプトは「World Tree~世界樹~」
「世界知」がテーマの1階フロアは、上から見るとまさに大樹の枝が延びているようなデザインで、実際に歩いても本棚の森に迷い込んだような錯覚に襲われます。

何だろう?
面白そう!
触れたい!!
そんな好奇心を駆り駆り立てられ、思いもよらない一冊に出会い、何かが変わる。運営メンバーが「トポス」と表現するその体験は、目当ての本を探す図書館とは違う刺激に溢れています。

引き出しに隠すように置かれた本や高い棚にあって手が届かない本もあり、そうした3次元の展示に興味が惹きつけられます。
さらにここには新書だけではなく古書も織り交ぜて陳列されており、超レアなお宝書籍を見つけた時は思わず声がでるかもしれません。

北前船の寄港地として栄えた敦賀は、市民のみなさんもどこかオープンな気質があるようです。
「共読知」コーナーでは、アートが得意な店員さんがデザインしたブックカバーが販売され、市民のみなさんが本の紹介コメントを書き記し、本の角に挟むこんなかわいいメッセージは子どもが手作り…
ワクワクする感覚って人を惹きつけるんですね。

船の帆をイメージした内装が、北前船の寄港地・敦賀らしさを演出!

「日常知」がテーマの2階フロアは、読書が苦手な人にも親しみを感じてもらえるように、身近な暮らしと本を結びつけ、明るくポップにデザインされた表紙が目を引く選書も多く並びます。
広めのテーブルでは打ち合わせやワークショップが開かれ、集中した作業向けのデスク(USBとコンセント付き!)では勉強に勤しむ学生さんの姿も。子どもの話声や笑い声も響く空間は、ここに集う人たちの解放感で満ちています。

市民の皆さんによるワークショップも開催!

そんな「ちえなみき」を生み出した敦賀市役所のキーマン、都市整備部長の小川明さんと都市整備部 都市政策課 交流拠点整備室室長補佐の柴田智之さん、そして「ちえなみき」を運営する丸善雄松堂株式会社 Research&Innovation本部 本部長の鈴木康友さんに話を伺いました。

左から、敦賀市の柴田さんと小川さん
「ちえなみき」を運営する丸善雄松堂の鈴木さん

このプロジェクトは、敦賀駅前の再開発から始まりました。
「どうしたら賑わいを生むことができるのか」
中高生が勉強できるところがない。雨の日に子どもを連れて行けるところがない。本を買える店が減っている。
街の声を聞きながら思案を巡らすなかで、「知」や「まなび」をコンセプトにした「ちえなみき」がデザインされていきました。

売上げの大きい雑誌や漫画などは扱わない、より本質を求める公営書店を「知への投資」と呼ぶ小川さんと柴田さん。全国津々浦々、様々な施設や書店を視察し、市議会(委員会)でも本を持ち込んで熱くプレゼンされたそうです。
「全社を挙げてのプロジェクト」と鈴木さんも誇る「ちえなみき」は、土日ともなると1日1,500人以上の人が訪れる、まさに賑わいやつながりを生む施設となっています。なかなか見つからない本でも「ここにならあるかも」と訪ねて来られるお客さんもいるのだとか。
こんなに本が並んでいるのに、子どもの笑う声やカフェを楽しむお客さんの話し声も自然に聞こえ、むしろそれが心地よく感じます。

児童書コーナーにある知育ゲームは、大人でも悩むレベル。

「ちえなみき」に込めた関係者のみなさんの熱い想いに共感する人が徐々に増え、今では全国から大注目される施設です。「ここまでの施設に育ったのは、細かいことを言わず職員に任せたから」という敦賀市長も共感者の一人ですね。
哲学書を読み漁っていたという柴田さん、イノベーションが起こるところに「異人」あり。

京都から特急サンダーバードで1時間ほどの「ちえなみき」に、ぜひみなさんも足を運んでみてください。

『いま、い“こ”』 小林祐衣

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