輝け不思議なプライド胸に

「初日の出見に淡路島いくけど、くる?」
母親からの突然の誘いに驚いたが少ししてすぐに
「行こうかな…」
と返事をしたのが大晦日の夜

誘いに驚いたのは
家族で初日の出を拝みにいくなんていう行事を生まれてから28年間で一度もしたことがないからで
その自分史上初めての突拍子のなさに少し面食らったからだった
なぜ突然ここにきて初日の出を見にいくのかという疑問はあったが
まあほとんどの物事は注目していないと突然起こるようなものだよな
ともっともらしいのかそうでないのかよくわからないテキトーさで納得することにした

それにしても少し気を抜いていると
取り残されてしまうような超スピードで駆け抜けるこの年の瀬にこの人たちは今しがた落ちたばかりの太陽を迎えに行こう、待ち伏せしようというのだ
2023年をスタートダッシュで初めようと

温温だらだらと逆精神と時の部屋になりゆく自室でどうかゆっくりと進んでおくれこの時よと願うばかりの僕には寝耳に水すぎた
いやはや見習うべき活力

出発は早朝
母、父、祖母、弟と車に乗り込み発車
走行中は少し前から気に入って聴いているPhoenixの新譜をかけさせてもらった、どことなく場違いなフレンチポップが申し訳なさそうに車内に響いた
しばらく聴いた後
「なんか海っぽいね」
弟が言う
正直このアルバムが海の事を歌っているのかなんて全く知りもしないがなんとなく嬉しかったので
「ありがとう」
と意味不明な返事をしたり

そんなこんなで1時間程走るとトンネルに差し掛かった
星空を振り切り明るいとも暗いともつかない光の中へ
アイリスインしていく、暫くの間どっちつかずの光を浴び続け不思議な感覚に慣れてきた。かと思えばトンネルを抜けすぐさままた暗転。
少しの間視線は闇を泳ぐ、、
段々視界が開けていく、
…橋だ。
世界最長の吊り橋(確かそうだった気がする)
明石海峡大橋
大きな橋のたもとを渡り窓越しに一面広がる真っ黒をみて少しぞっとする

橋を半分ほど渡った頃バックミラーには
さっきまで走ってきた大陸がうつる
離れて見る神戸の大陸は昼間のうち吸った光を十分に蓄えめらめらふつふつとしていて
暗闇をまとう街並みのその隙間から漏れる輝きはまるで明日を待っているようだった
皮膚の上にじわりと滲んだ毛細血管のような光の筋を眺めていると街が生きているようにも見えた
巨大生物、超生命体、もののけの類

命名:大怪獣アカシヤデナホンマ

大怪獣アカシヤデナホンマの口から飛び出したいくつかのクルマたちはその長い舌に沿って思い思いのスピードとそれぞれのBGMで夜を渡ったのだ
窓を開けると飛び込んで来た風の轟音と少しの潮の匂い
Phoenixのアルバムも思えば海っぽく聴こえてきた
2023年はもうすぐそこなのだ


橋を渡り切り高速道路を降りる
どうせなら砂浜で見ようということになり海浜公園へ
公園の駐車場にちょこんと車を停め砂浜に出てみると意外と沢山人が集まっていた
皆一様に太平洋の方を眺めている。その最後尾に着いて
こんなにも年越しをクラウチングスタートで迎える人がいるのかと驚いた

空はもうずいぶん白んでいたが日はどこにもない
みんながあちらを向いているのだからきっとあちらからおいでなのだろうと一際明るい方を見ながらお日様が顔を出すところを今か今かと待ち侘びた


まだか、、でない、まだか、、でない
分厚く覆い被さった雲のせいで今年は日の入りが遅いらしい


まだか、、でない、まだか、、でない
さっきよりは明るくなってきたけどなあ


まだか、、でない、まだか、、
待ち侘びる
気がつけば僕もすっかりクラウチングスタートの体制をとっていた

まだか、、でない、まだか、、あ!


目の前の家族が連れていた犬と目が合った。
寒いよね。
さっき買っておいたコーヒーも冷めてきた


まだか、、でない、まだか、でな…あ!あれは!


きらり


出た!ついに!!

「「「おおお〜〜!!」」」

どこからともなく歓声が上がる

すごいぞ!眩しい
雲の隙間から漏れた漲る赤色に"燃えている“という事を確かに実感する。なんだかすごいパワーだ
待ち侘びたぞ2023年。
ありがたやありがたやと拝みながら
今ならすごいパワーに背中を押してもらえるぞと今年の抱負を考えてみたりした
さっきまで逆精神と時の部屋で惰眠を貪っていたとは思えない活力
ありがとう太陽 眩しいね犬さん

そうしてひとしきり拝んだりありがたがったりした後
帰ろうかと振り返るとこんなにいたの!?と思うくらいのひとだかり
いつのまにかいっぱいになった駐車場へ俺たちは初日の出待ちをしたという謎の連帯感だけを掲げたいくつかの集団がいっせいに歩き出す
少し歩いた頃家族とはぐれていることに気づく。一緒に話しながら歩いていた弟に
「この人混みじゃわからんな」
というと
「俺たちも人混みの一部だよ」
と趣旨ズレの返事をもらった

まあ確かに
思い思いのスピードで歩く人達とそれぞれの会話に花を咲かせている様子をみると紛れもなく自分もその一部だよなともっともらしいのかそうでないのかよくわからないテキトーさで納得をしてみたり


車に戻ると家族は待っていた。
ごめんごめんと車に乗り込みすっかり海っぽいアルバムへと変貌したPhoenixの新譜をかけて今度は明るくなった明石海峡大橋を渡る

窓を開けると飛び込んできた風の轟音と少しの潮の匂い
いくつかの車が思い思いのスピードとそれぞれのBGMで
大怪獣アカシヤデナホンマの口の中へ吸い込まれていく

すっかりクラウチングスタートで新年を迎えお日様にパワーをもらった僕は、
今年もまたそれぞれの生活の中に紛れながらめらめらふつふつとした光を、血液のような光を集めよう。
そうして大怪獣アカシヤデナホンマと共に2023年を駆け回ろうではないか!
などと思ったのでした。



皆々様昨年はお世話になりました
今年もどうぞよろしくお願いいたします


それでは

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