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【RIZIN.30】黒光りのエリートVS苦労人のお祭り男

 私が格闘技と出会ったのは、まだ幼稚園児の頃だった。きっかけは90年代以降における格闘技ブームの火付け役となった旧K-1である。その頃、私が特にお気に入りだった選手は、正道会館所属のアンディ・フグだった。アンディに憧れて空手を始め、一時期は格闘家を目指していたほどだった。つまり何が言いたいのかというと、私は格闘技ファンなのである。

 かつてはキックボクシングも総合格闘技も当たり前のように地上波で放送され、そのブームは隆盛を極めていた。その辺りの話もいつかしたいが、今回の本題は過去ではなく現在の格闘技ブームについてである。
 現在の格闘技ブームの火付け役であり、今尚そのブームを牽引しているのは紛れもなく『RIZIN』である。2021年9月19日にRIZIN.30が開催されるということなので、大会の見どころなどを今回は紹介していきたい。


【武田光司 VS 矢地祐介】

 まずは第5試合の武田VS矢地を詳しく見ていこう。

 武田光司といえばやはりRIZIN.27で久米鷹介との死闘を制して判定勝ちを収めた試合が非常に印象的だった。個人的にはRIZIN.27だとメインの浜崎朱加VS浅倉カンナか、この武田光司VS久米鷹介をベストファイトに推薦したい。
 RIZINでは朝倉未来や萩原京平、金太郎などアウトローな選手が割と若者に人気で注目度も高い傾向にあるが、見た目だけならこの武田も負けてはいない。黒光りするほどに焼けた肌と岩のような強面、そしてその豪快なファイトスタイルから彼を初めて見る人は「この選手もTHE OUTSIDER出身の元ヤンか?」と思うかもしれない。しかし、意外にも武田はレスリングエリートなのである。武田選手の詳細な経歴はWikipediaを参照してほしいが、非常に理想的な格闘家としてのキャリアを積み上げている。プロ戦績も13試合で12勝1敗と大きく勝ち越している。12勝の内訳が(T)KOが2試合、一本が3試合、判定が7試合とその見た目からは予想もできないほどの堅実さが伺える。
 そしてまだ26歳というのが驚きだ。まさかの年下。若く伸び代もある選手なので、ここで矢地祐介を完封することができれば、次はライト級王者のホベルト・サトシ・ソウザとの一戦も間違いないだろう。もともとはRIZIN.28でトフィック・ムサエフが来日できなかった場合、ホベルト・サトシ・ソウザの相手はこの武田だとされていたくらいである。

 対する“元祖”RIZINのお祭り男・ヤッチくんこと矢地祐介は崖っぷちである。かつては山本“KID”徳郁の正統後継者として日本を背負って世界と戦っていくことを誰もが期待していただろう。RIZIN参戦後からUFCでの経験もあるダロン・クルックシャンク、ベテランの北岡悟や五味隆典に勝利して怒涛の5連勝。誰もがこれからの日本格闘技ブームは矢地祐介が背負っていくものだと思っていた時期があっただろう。
 暗雲が立ち込めたのはRIZIN.12でのルイス・グスタボ戦からだろう。そこからRIZIN.14でジョニー・ケースにも負けて2連敗を喫した。ここまでならまだなんとかなった。「世界の壁はまだまだ高いか……」ということで納得もできた。止めを刺したのはRIZIN.17におけるVS朝倉未来での敗戦である。ここで完全にRIZINの主役が矢地祐介から朝倉未来に変わってしまった。主人公交代である。
 それを印象付けるかのように、RIZIN.22ではホベルト・サトシ・ソウザとのマッチが組まれる。サトシはこの前にライト級トーナメントの一回戦でジョニー・ケース相手に惨敗している。朝倉未来に負けて主役の座を引きずり降ろされた矢地祐介と、柔術界の至宝として優勝を期待されながらもトーナメント一回戦で情けない姿を晒してしまったサトシ。まさしくRIZINライト級での生き残りをかけた戦いだった。結果、矢地は負けた。試合内容はサトシの復活と成長を期待させるだけのものだった。
 次戦のRIZIN.24でも大原樹里相手に判定負けを喫しており、誰もが完全に矢地祐介は終わったと思っただろう。何よりもライト級にホベルト・サトシ・ソウザという強くて優しくて愛されるスターが誕生してしまったのだ。矢地の帰る場所はもうRIZINにはない。そう思っていた。

 そして今回の武田光司VS矢地祐介の対戦である。二人がいかに対照的であるか、この対決がいかにドラマチックであるかわかっていただけただろうか。
 コロナ禍で海外から選手を呼ぶことが難しい中、日本人代表として文句なしにライト級王者であるサトシに挑戦するために試合内容も含めて期待されている武田光司。ここで若手のホープに負けるようでは今後のライト級戦線に絡んでいくことは難しいであろう矢地祐介。ホベルト・サトシ・ソウザという圧倒的王者に挑戦することになるのは、果たしてどちらになるのだろうか。


【余談の時間】
 ちなみに矢地祐介は2016年にサトシと同じくボンサイ柔術のクレベル・コイケとパンクラスで対戦経験がある。結果は3R一本負けとのこと。

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