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第1編 第2章 原産地決定のための方式

第1節 実質的変更

1947年ガット

 そもそも、原産地規則について国際的に定めた規律は極めて数少ない。原産地をどのように決めるのかということに関しては、1947年ガット(General Agreement on Tariffs and Trade: GATT)の準備段階において、最恵国条項の適用のために物品の原産国を決定することは輸入締約国の国内法の規定によるべきとの議論があったとおり、ガットに原産地規則の内容に踏み込んだ規定は存在しない [1]。

京都規約

 国際規律として原産地規則の内容に触れたのは関税協力理事会(Customs Cooperation Council: CCC; 現在のWCO)による旧京都規約附属書D-1が初めてで、実質的変更に関する内容としては、改正京都規約個別附属書 K 第1章の勧告規定及び定義において:

「物品の生産に2ヵ国以上が関与する場合、当該物品の原産地は実質的変更基準に従って決定されるべき」(勧告規定)であり、「実質的変更基準は、商品に重要な特性(essential character)を付与するのに十分と認められる、最後の実質的な製造又は加工が行われた(the last substantial manufacturing or processing has been carried out) 国を原産国とする」(定義)

としてそのまま引き継がれた [2]。この定義は、次に述べるように「重要な特性」の部分を削除した上で、WTO原産地規則協定(Agreement on Rules of Origin: ARO)の「最後の実質的変更が行われた国」に収斂していく。

 こうした定義を含む勧告規定を除けば、実質的変更がどのように適用されるべきかといった具体的な規律については定めがない。例えば、旧規約においては関税分類変更、付加価値及び加工工程の3基準の利点、欠点を指摘するにとどまっていた。この理由としては、旧規約の策定の際にCCCが税関の技術的内容を協議する国際機関であって通商政策に深い関係を有する原産地規則の実質的内容にまで踏み込むことに躊躇したためと伝えられる [3]。また、京都規約の改正作業を行っている間にAROが発効したため、AROと重複する内容を改正規約に盛り込む必要もなかった。改正規約個別附属書 K 第1章は、旧協定に修辞上の修正を加えて若干のアップデートをしたものを残しつつ、実質的変更に係る3基準を明確に記載せず、これらの比較を行った記述さえも削除した。附属書 K 第1章の本格的な見直しは、AROの調和作業終了に合わせて行われることになっていた。しかしながら、調和作業の事実上の断念が決定的になったことから、WCOでは独自に、特恵原産地規則におけるノウハウの共有も含めて改訂作業に着手している。

WTO原産地規則協定(Agreement on Rules of Origin: ARO)

 1995年にAROが発効して、原産地規則が初めて本格的な国際規律に従うことになる。AROは実質的変更については概念的定義を採用せず、「最後の実質的な変更が行われた国(the country where the last substantial transformation has been carried out)」を原産国とする旨を規定 (第9条1(b)) した上で、実質的変更となりうる変更を、先ず関税分類変更基準を用いてHS品目表の項又は号毎に横断的に定めていき、関税分類変更基準では実質的変更を表現できない場合に限って「補足的な基準(Supplementary criteria)」(付加価値基準又は加工工程基準)を使用してもよいとした。関税分類変更基準を優先させるべきとの原則が強く出されており、調和作業の結果として補足的な基準を一切使用しなかったとしても協定上の問題はない。この指針に従った作業が非特恵原産地規則の調和作業に他ならないが、作業の完結が事実上、断念されたことは既に述べたとおりである。

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我が国との二国間貿易のみならず、第三国間のFTAの活用を視野に入れた日・米・欧・アジア太平洋地域の原産地規則について、EPA、FTA、GS…

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