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第6話:米国の品目別非特恵原産地規則《卑金属及び同製品分野(HS第72類~第83類)》

(2021年3月、JASTPRO令和2年度 調査研究報告書『非特恵原産地規則 ~ 米国、EU及び我が国における主要製品分野に適用される非特恵原産地規則の概要と比較~』第3編第1章として公開。2022年1月2日、note に再掲。)

 日・米・EUの非特恵原産地規則の中で品目別規則を有するのはEUと米国のみです。そのうち、EUの品目別規則は法的拘束力のある附属書22-01とそうでない調和規則提案とに分かれます。一方米国は、NAFTAマーキング・ルールとして北米域内の貿易にのみ適用される表示用の規則とそれ以外の地域との貿易に適用される実質的変更に係る判例法とに分かれます。例外的に極めて簡素な規則を維持している我が国では、完全生産品に加え、原則としてHS項変更を伴う加工によって原産性を付与します。

 卑金属及びその製品は、HS第15部(第72類から第83類まで)に分類される物品で、「卑金属」とは、鉄鋼、銅、ニッケル、アルミニウム、鉛、亜鉛、すず、タングステン、モリブデン、タンタル、マグネシウム、コバルト、ビスマス、カドミウム、チタン、ジルコニウム、アンチモン、マンガン、ベリリウム、クロム、ゲルマニウム、バナジウム、ガリウム、ハフニウム、インジウム、ニオブ、レニウム及びタリウムを含み(第15部の注3)、第72類から第76類まで及び第78類から第81類までの各々には、卑金属の塊、棒、線、シート等の物品並びにこれらの製品を含みます。ただし、卑金属製のある種の特殊な物品は、その構成金属に関係なく第82類又は第83類(これらの類は特殊な物品に限る。)に属します。

 卑金属・同製品は、HSが関税徴収及び貿易統計作成を主目的として策定されていることから、多用途に使用され貿易量の大きい鉄鋼及び鉄鋼製品は第72類と第73類の二つの類にまたがって分類されるのに対し、その他の卑金属になると第81類で一つの項(タングステン等)、一つの(1ダッシュ)号(クロム等)に分類されるものまであります。したがって、単なる分類変更は金属製品を横断的に規律する基準にはなりにくく、関税分類そのものに手を加えた上でのスプリット項、スプリット号変更基準が散見されることが特徴として挙げられます。

1. 実質的変更に係る判例法・事前教示事例

(1) アルミニウム箔事案: 2020年4月6日付、HQ H302201 OT:RR:CTF:FTM H302201 TSM

事実関係

 本件はアルミニウム箔に係る事案である。A社はドイツから特定のアルミニウム箔を輸入する予定である。米国への輸入後、アルミニウム箔は食品、医薬品又は技術製品の包装として使用される。例えば、これらのアルミニウム箔材料は、ブリスター・パッケージ(ベース或いはリディング)又はパウチを作成するために使用され得る。

 輸入されたアルミニウム箔は、20μmから90μmまでの様々な厚さにあり、塗布或いはラッカー仕上げ、被覆又はそのまま(塗布も被覆もなし)のこともある。対象となるアルミニウム箔は、中国原産のホイールストックからドイツにおいて注文に応じた厚さでロールされる。変換プロセス(例えば、塗布又は被覆)はドイツでも行われる。本件アルミニウム箔の製造工程の詳細は、以下のとおりである。

 •  A社は、中国原産のアルミニウム箔をドイツに輸入し、アルミニウム箔の生産に使用する。申請人は、ホイールストックは、アルミニウム箔の製造に使用される粗原料であり、加工せずにそのままの状態では消費材として直接的に使用するには適していない旨主張する。

 •  ホイールストック材料がドイツの工場に到着すると、必要に応じて中間的な焼き戻し(以下「アニーリング」又は「アニーリング工程」という。)が行われる。この単純な焼き戻しは、圧延のために材料を完全に柔らかくすることを意図している。場合によって、このステップはホイールストックの供給者によって行われることもある。

 •  材料が柔らかく焼き付くと、ホイールストックは、ローリングミルで圧力が加えられて、作業ロールと呼ばれる金属ロールへの工程を経る。これは冷延工程で、アルミニウム箔が薄いゲージ(厚さ)に達すると材料はより破れやすくなり、破損を避けるために二重に巻かれる。

 •  二重巻付工程は、アルミニウム箔の2枚のシートを貼り合わせ、作業ロールを通す。言い換えれば、A社は金属の2つのコイルをミルに供給し、同時に作業ローラーを通過させる。二重巻付工程の後、アルミニウム箔はそれぞれ二層のホイルとして2つのコイルに巻き付けられ、最終的に二層コイルが4つの単層コイルに分離される(顧客の注文次第でそれ以上の分離もありえる。)。

 •  アルミニウム箔は、圧延工程で硬化されるため、材料を更なる使用及び加工に耐えるように軟化させるためのアニーリングが必要となる。金属を軟化させることに加えて、アニーリング工程は、圧延の結果として箔に残された潤滑油を除去するという利点も有する(これは、後続の変換工程の中で塗布及び積層の接着を助長する)。

 •  2019年7月8日付、申請者書簡によると、圧延工程及びアニーリングによるアルミニウム箔の生産はサーモメカニカル工程であるため、金属及び合金の化学組成に影響を与えないと述べている。また、ホイールストック材料の全体的な化学組成は箔の圧延工程中には変わらないが、製品及び顧客の要求に応じて、アルミニウム箔の微細構造は圧延及びアニーリング工程によって大きく変化する旨述べている。

 •  冷間圧延は、粒子を平面化し(すなわち、典型的な転位/亜結晶粒構造を形成し)、特定の圧延組織を生成し、更に粒子の分子を粉砕し、整列させる。圧延工程に続くアニーリングは、圧延された材料を変形/改変された粒子構造の再結晶化を促進する温度に加熱し、それによって化学組成に影響を与えることなく、材料の柔軟性と延性を回復することを含む。合金組成に加えて、粒子(サイズ、サブ構造及びテクスチャ)及び分子(構成成分及び分散分子)の微細構造要素が材料の性能を制御する主要な要因である。

 •  こうして仕上げられたアルミニウム箔は、米国に出荷されるか、塗布、ラッカー仕上げ又は積層によってさらに加工(変換)される。

適用される法令及び分析

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