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第2話 米国の品目別非特恵原産地規則《農水産品分野(HS第1類~第24類)》

(2021年3月、JASTPRO令和2年度 調査研究報告書『非特恵原産地規則 ~ 米国、EU及び我が国における主要製品分野に適用される非特恵原産地規則の概要と比較~』第3編第1章として公開。2022年1月2日、note に再掲。)

 日・米・EUの非特恵原産地規則の中で品目別規則を有するのはEUと米国のみです。そのうち、EUの品目別規則は法的拘束力のある附属書22-01とそうでない調和規則提案とに分かれます。一方米国は、NAFTAマーキング・ルールとして北米域内の貿易にのみ適用される表示用の規則とそれ以外の地域との貿易に適用される実質的変更に係る判例法とに分かれます。例外的に極めて簡素な規則を維持している我が国では、完全生産品に加え、HS項変更によって原産性を付与するので、農産品・農産加工品ともに容易に加工によって原産国となりえます。

1. 実質的変更に係る判例法・事前教示事例


 米国のMFN税率適用、政府調達、原産国表示における共通の原産地規則として引用される関税特許上訴裁判所(現在の連邦巡回区控訴審)1940年判決(United States v. Gibson-Thomsen Co、以下「ギブソン・トムセン判決」という)は、米国のマーキング要件の適合性を争ったもので、「日本製の刻印があるブラシの柄に米国製の荒毛を取り付けた場合に、ブラシの柄の最終的な購買者はブラシ製造者であり、ブラシの購入者である消費者ではない」として、ブラシとして日本製の表示は必要ないとの趣旨であったようです。この判決の中で、「本条は、新たな名称、特性、及び用途を持つ新たな物品の米国での製造に使用された輸入材料には適用されない」との判断が示されました(27 C.C.P.A. at 273)。これは輸入品のドローバック(再輸出戻し税)に係る1907年の米国最高裁判決(Anheuser-Busch Brewing Assn. v. United States, 207 U.S. 556(1907)、以下「アンハイザー・ブッシュ判決」という)を別の言葉で言い換えたものでした。

 米国の原産地法の「実質的変更」基準の起源として知られるアンハイザー・ブッシュ判決では、以下のように判示されています(注1) 。

「製造は変化(change)を想起させるが、全ての変化が製造であるわけではない。そして、物品のすべての変化は、処理、労働及び操作の結果である。しかし、Hartranft v. Wiegmann, 121 U.S. 609で示されたように、更に何かが必要である。変更(transformation)がなければならない。すなわち、新たな、かつ、異なる物品は、他との区別を示す名称、特性又は用途を持って現れなければならない(a new and different article must emerge, ‘having a distinctive name, character or use’ )。」

 アンハイザー・ブッシュ判決の要旨は、原材料の輸入者が米国内で「新たな物品の製造」のために当該材料が使われた場合に当該物品の再輸出時に当該材料に課せられた関税の払い戻しを受けることができる制度(ドローバック)の下で、輸入コルクをビール瓶のコルク栓に加工して再輸出した際にドローバックが適用できるかについて、本件は新たな物品の製造に当たらないとしたものでした。アンハイザー・ブッシュ判決に引用されている1886年の最高裁判決(Hartranft v. Wiegmann)は関税分類に係るもので、輸入された貝殻が洗浄され研磨されたものであるかを争点とし、その結果によって適用される関税率が35%か無税かというものでした (注2)。

《米国税関による判断事例》 (米国税関のオンライン検索システム「CROSS」から引用)

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