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原産地規則エッセイ集「八丁堀梁山泊」

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2017年から6年にわたってJASTPRO月刊誌・ウェブサイトに連載したエッセイ・小論を、独立(2022年4月「今川ROOコンサルティング」設立)を機に2本のマガジンに集約しまし…
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原産地オタク達の 八丁堀梁山泊 目次

統合版の配信開始 原産地規則便利ノート第1部 原産地規則とは 第2部 EPAによる節税: 「原産品」の見分け方      : 輸入材料を使用しても原産品になる方法 - 実質的変更基準            : 規則の適用と救済規定の利用          第3部 EPAによる節税のための手続き      : 産品が原産品であることを輸入国税関に示す書類      : 輸入国税関による産品の原産資格保持の確認 第4部 一般特恵制度(GSP)      :GSP創設の背景

経済安全保障における原産地規則の役割(総論)

 実務者向け原産地規則講座(有料マガジン)に連載していた標記関連記事を総論(第1章から第6章まで)として冊子にまとめました。 (注)表現が適切でない部分(3~4ページ)を修文しました。2024年5月16日

第5部 非特恵原産地規則: 消費者保護を主目的とした「国産品」と知的財産権の一分野としての「地理的表示」

 前々回( 「特恵関税と関係がない原産地規則」)で詳しく述べたとおり、WTO原産地規則に関する協定 (以下「原産地規則協定」)の定義に従うと、非特恵原産地規則とは、「最恵国原則が適用されない特恵関税の適用のための原産地規則を除いた、通商目的に適用される全ての原産地規則」であるといえます。一方、物品の輸出入手続きとは直接関係のない分野においても原産地を決めるルールが存在します。例えば、原産地規則協定第2条(d) 及び第3 条 (c))では、 としていることから、貿易手続上の原

第5部 非特恵原産地規則: 日・米・欧の非特恵原産地規則の概要

 前回は、物品の輸入通関に際しての最恵国税率適用の是非若しくは物品の原産地表示の適否を決める関税関係法規としての非特恵原産地規則、又は物品の輸出入を規律する通商法規の一部としての非特恵原産地規則などについて、WTO協定附属書A (物品の貿易に関する多角的協定) に含まれる原産地規則に関する協定 (以下「原産地規則協定」) 第1条1の定義に基づいて、策定される予定であった 「WTO調和非特恵原産地規則」(以下「調和規則」)との比較を含めて全体像を説明しました。今回は、日本、米国

第5部 非特恵原産地規則:「特恵関税と関係がない原産地規則」とは

 前回まで、産品を輸入する時に課せられる関税を軽減又は免除する特恵関税制度において、その条件としての「産品の原産資格」を定める規則 (特恵原産地規則) を説明してきました。今回から3回にわたって非特恵原産地規則を取り上げます。今回は、物品の輸入通関に際しての最恵国税率適用の是非若しくは物品の原産地表示の適否を決める関税関係法規としての非特恵原産地規則、又は物品の輸出入を規律する通商法規の一部としての非特恵原産地規則などについて、WTO協定附属書A (物品の貿易に関する多角的

第4部 一般特恵制度(GSP):   GSP原産地規則の創設時からの変遷

 前回は、一般特恵制度 (Generalized System of Preferences: GSP) が実施されるに至った歴史的な背景と制度の概要について述べました。今回は、GSP創設時の原産地規則がどのように変遷していったのか、またその理由などについて解説していきます。 1. はじめに 本稿では、UNCTAD事務局がGSP技術協力プロジェクト用に編集した「Generalized System of Preferences - Digest of Rules of O

第4部 一般特恵制度(GSP):GSP創設の背景と制度の概要

 今回と次回の2回に分けて一般特恵制度 (Generalized System of Preferences: GSP) を取り上げます。今回はGSPが実施されるに至った歴史的な背景と制度の概要について、次回は主要供与国で実施されているGSP原産地規則などについて述べていきます。 1. GSPとは何か GSPは、開発途上国の輸出所得の増大、工業化と経済発展の促進を図るため、開発途上国から輸入される特定の産品に対し、最恵国税率 (一般に適用されるWTO税率又は暫定税率) より

第3部 EPAによる節税のための手続き - 輸入国税関による産品の原産資格保持の確認

 前回、開発途上国又はEPA輸出締約国で生産された産品が一般特恵 (GSP) 又はEPA特恵関税制度上の原産品であることを保証する制度として、政府機関ほかの第三者機関が原産地証明書を発給する方法 (第三者証明制度) と輸出者などの事業者が協定で定められた申告文などをインボイス等の商業書類に自ら記載する方法 (自己申告制度) の二つが存在すること、前者の原産地証明書は、標準様式としてGSPに使用されるForm Aを除いて、EPA協定でそれぞれの様式又は記載事項が個別に指定されて

第3部 EPAによる節税のための手続き: 産品が原産品であることを輸入国税関に示す書類

 第3部は、輸入国でEPA税率の適用を受けるために必要な原産地手続きについて述べていきます。EPA協定の原産地手続きは締約国が従うべき大枠を定め、実施に係る細目を国内法令に委ねているので、各締約国においては自国の関税制度、輸出入通関手続きに沿った規則を定め、実施しています。第1部及び第2部で述べたように、EPA税率の適用を受けるためには輸入締約国でEPA税率の設定(EPA協定上の関税譲許)があり、輸出締約国で生産された産品が原産品であり、積送要件などの協定上の他の要件を満たし

第2部 EPAによる節税:      規則の適用と救済規定の利用  

 第2部は「EPAによる節税」と題して、特恵制度のうちEPA (経済連携協定) によってどのような節税が可能になるかについて、輸入品に適用される税率には様々な種類があること、EPA特恵制度を利用することでより低い税率の適用が可能であること、EPA特恵税率を適用するためには輸入される産品が原産品であること、産品の素材構成から見た原産資格要件が完全生産品定義と実質的変更基準から成り立っていることなどについて述べてきました。特に、グローバル化した世界では生産工程が細分化され、工程の

第2部 EPAによる節税:      輸入材料を使用しても原産品になる方法 - 実質的変更基準

 前回まで、輸入品に適用される税率には様々な種類があること、EPA特恵制度を利用することでより低い税率の適用が可能であること、EPA特恵税率を適用するためには輸入される産品が原産品であること、原産品として認められる資格要件は主に次の三つの基準から構成されていることなど、特恵制度全般について解説してきました。   (i)  完全生産品定義   (ii)  実質的変更基準   (iii)  原産材料のみから生産される産品  完全生産品定義は、農水産品、天然資源などの未加工分野

第2部 EPAによる節税:「原産品」の見分け方

 前回、「原産地規則とは」と題して原産地規則が存在する意味及び特恵貿易制度などについて概略をお話ししました。特恵貿易制度とは、簡単にいうと物品を輸入する時に支払う関税を無税にすること、割安にしたりすることができる制度ですが、今回から3回に分けて、特恵制度のうち経済連携協定(Economic Partnership Agreement: EPA)によりどのような節税が可能となるのかについてお話を進めます。関税の節税は、簡単にできる場合とそうでない場合があるので、まず特恵制度を活

原産地規則便利ノート

 今回から「原産地規則便利ノート」と題して、原産地規則に接したことがない方、何となく知っているという方に、原産地規則に親近感を持っていただけるような入門書となるよう、原産地規則の「あるある」、今更聞けない原産地規則用語などを解説すべく連載します。本連載で原産地規則に興味を持たれた方で、もう少し深いところまで原産地規則に通じてみたいと思われる方は、有料サイト「実務者向け原産地規則講座」で同時連載している「原産地規則基礎講座」に進んでください。「原産地規則のトリビア」コラムなどを

第7話 原産地手続きにおける日欧文化の衝突

(2019年4月5日、第29話として公開。2021年12月9日、note に再掲。)  本年(2019年)2月1日に日EU・EPAが発効し、さっそくEPA特恵税率での輸入が開始されました。また、これまでMFN税率一本であった欧州への輸出は、EPAによって即時撤廃された品目も多く、これまでに例を見ないEPAへの関心の高まりが見られます。TPPが米国の離脱で今一つ盛り上がりに欠ける中で、さすがに「メガ協定」であることを実感させられます。  EPAの立ち上がりには、その規模の大