「大地と火山の力」西酒造・御岳蒸留所(鹿児島県日置市)訪問記
2024年9月15日16日で西酒造&御岳蒸留所に訪問して来ました。
日本で3番目に活火山が多い県、鹿児島。
九州の南端に位置し、東西約270km、南北約600kmに広がり総面積は9,187㎢。薩摩、大隅の二大半島からなる県本土と、甑島、種子島、屋久島、トカラ列島、奄美群島など200有余の島々からなります。温帯気候帯から亜熱帯気候帯まで広範囲に及び、年平均気温は15℃から23℃まで温度差があるが南国的な気候を持つ県です。
鹿児島県のシンボルである中心街の背後にそびえる桜島。現在でも定期的に小規模な噴火を繰り返す活火山で噴火がなくても火山灰が降ることがあると。
降水量は地域によって大きな差があり屋久島の山岳地帯では年間10,000mmにも及びます。2,000mmから3,000mmの降雨地帯にあり、梅雨期から夏にかけて全降水量の半分が集中。また鹿児島は全国屈指の温泉県でもあり、源泉の総数は全国2位を誇ります。
鹿児島の食文化
農畜産が盛んで、黒毛和牛・鹿児島黒牛、かごしま黒豚、黒さつま鶏が有名、黒マグロの養殖は国内生産の半分を占めます。さつまいも、そら豆、さやえんどうは全国一位、茶も有名で静岡に次ぐ第二位、と広い面積から様々な恵みが生まれています。味付けは醤油からのわかる通り、全体的に濃く甘い味付けが多い為、糖分のない焼酎が相性が良いのです◎
焼酎ブーム
過去3回起こったと言われる焼酎ブーム。第三回目のピークは2003年。この年の焼酎全体の出荷量は約50年ぶりに日本酒を上回ったほど。
それまで焼酎といえば「いいちこ」「二階堂」などクセの無い麦焼酎が中心だったが、健康志向に絡めて糖質・プリン体ゼロ、血糖値を下げる効果があるとメディアが「芋焼酎」を取り上げたことで本格焼酎ブームが起こりました。結果、酎ハイのベースとして認識されていた焼酎が味わいを楽しむ飲み物として広がったのです。
ブームの火付け役ともなったのが、西酒造の富乃宝山。黄麹・吟醸酵母を用いて食用だった黄金千貫を低温熟成させ、吟醸香のする醪を育て、その香りを抽出するために常圧から減圧に切り替える蒸留方法で芋焼酎とは思えないフルーティさで大ブレイクを果たしました。今では考えられないが当時は「お一人様一本限り」と本数制限をしながら扱う限定品扱いだったと・・・
西酒造の素晴らしさは、そのまま少量生産の「レア焼酎」の路線に走ることなく、高品質・安定供給にシフトしたことと言えます。それで助けられた酒屋さんや飲食店さんも多かったと思います。
今や年間出荷量5万石を誇り、焼酎のみならず日本酒蔵、ウイスキー蔵、ニュージーランド北島のURLARを買収、総合種類メーカーとなりました。
山の上に位置する西酒造
薩摩半島のほぼ中心、日置市吹上町に位置する創業1845年の西酒造。大量生産の大手蔵ほどの生産量はなく、鹿児島の焼酎蔵としては中規模の蔵。
しかし西酒造はプレミアム商品を狙った少量生産ではなく、市場への安定供給を目指した焼酎であること、徹底した原材料管理と品質保持、焼酎の製造技術の確立、焼酎造りに適した原材料の開発にこだわる蔵として名を馳せています。
薩摩半島高峰水系が染み込んだ地層から汲み上げた水を使い、原料は鹿児島県産。農業法人として原料を作り、ワインのようにドメーヌとして芋畑を想像できるように農業から携わっています。蔵人は農作業から焼酎造りまで1年を通して焼酎造りに関わっています。
木桶タイプの蒸留器が吉兆宝山、白天宝山、金属タイプが富乃宝山の蒸留器。蒸留するもろみによって圧力や温度を変える必要があり、そのデータはこれまでの研究実績によりパターン化され管理。富乃宝山のみ圧力可変式蒸留を行い、吉兆宝山と白天宝山は甕で仕込まれています。
ほとんどの焼酎蔵は大きなドラムタイプの製麹機により自動で麹を仕込むが、西酒造の吉兆宝山、白天宝山に関してはクラシックスタイルの造りをコンセプトとしているため、「甕仕込み、麹室での麹造り、木製の蒸留器での蒸留」を行っています。
蔵に隣接した研究センターでは1フロアでミディアムスケールに蔵を再現し、さらに小さいスモールスケールでフラスコや試験管で蔵を再現。
新商品はスモールスケールで焼酎造りを行い、分析と官能検査を通れば、ミディアムスケールでさらに検査され、最終的に本蔵での焼酎造り、商品化というステップを踏みます。 またこの研究施設では数十種類の芋から試験的に焼酎を造り「酒造好適品種」の研究も行っています。
自前の分析器がある為、外部の分析業者を介さずに品質検査を行うことができるのも強み。
自社畑では鹿児島県の農業センターに保存してある、数十種類もの品種の芋の苗を育てています。黄金千貫が多く使用されているが、酒造好適品種というものはまだ判明していないそうです。西酒造では芋焼酎の酒造好適品種を発見する為古くから存在している品種を苗から育て増やし、試験的な焼酎造りを繰り返しています。
焼酎はまだ180年程の歴史しかないので、ワイン、日本酒に比べまだまだ未開の領域が多いとのこと。そのため品種の研究を日々続けています。
御岳蒸留所 ウイスキー
2023年末に念願のファーストエディションがリリースされた御岳蒸留所。
西酒造が所有するゴルフ場の上に位置する御岳蒸留所はまるで高級リゾートホテルのような外観。桜島も錦江湾望める景色は圧巻です。
御岳蒸留所は、錦江湾と御岳(桜島)を望む丘の上に位置し、毎分1,000ℓ以上の天然軟水が湧き上がる場所にあります。この豊富な水と焼酎造りで培ってきたオリジナル酵母によって王道のジャパニーズウィスキーを目指しています。
御岳蒸留所の蒸留釜は初留、再留ともにラインアームの角度を上向きに設計。これは、重たい香味成分を落としスチル上部まで辿り着いた「フルーティで深みのある香味成分」だけを抽出するためです。
出来上がったニューポットをテイスティングすると、とてもニューポットとは思えないほど芳醇で滑らかな完成された味わいに仕上がっていました。
原酒がこれだけ高品質ならば熟成にも期待ができる。
蔵内はまだ出来たばかりの美しさがあり、フロアは焼酎蔵と同じくフローリングですぐに清掃できるようになっています。有馬さん曰く、長年焼酎を手掛けてきた身からすると、ウイスキーを醸造、蒸留するのは簡単だ、と。芋焼酎の方が原料処理から麹造りなど気を使う部分が多い中、ウイスキーは麦芽を糖化、発酵させ蒸留して樽で寝かせるシンプルな工程だからと説明を受けました。
圧巻、シェリー樽の凄さ
西酒造の凄さはこの熟成庫を見れば一目瞭然。
今日本のウイスキー蒸留所が喉から手が出るほど欲しくても全く手に入らないシェリー樽がここにはずらりと並んでいるのです。
今、日本のウイスキー蔵は基本的にバーボン樽をメインで回しています。バーボンはホワイトオークの新樽を用いる為、古樽が出回りやすいのです。
では、何故西酒造(御岳蒸留所)はシェリー樽をここまで手に入れることが出来たのか?
それは「天使の誘惑」があったから。
先駆けて焼酎の熟成にシェリー樽を購入していたことがここで繋がります。他の蒸留所は買えないが西酒造ではシェリー樽は不自由なく購入することが出来るのです。
これは確実に御岳蒸留所の唯一無二の個性。
オールシェリー樽のジャパニーズウイスキー「御岳蒸留所」に今後も期待でいっぱいです。