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【金盞香】きんせんかさく『音読なんて大嫌い!だったハズ』立冬/末候🍀


生まれてから1度も切らずに伸ばしていた髪を、幼稚園の時に切った。
後ろの席の男の子に、毎日髪を引っ張られたからだ。
今の私なら、バン!と机を叩いて立ち上がり
「オラオラ、何するんじゃ!」
なんてことは言わないが
「やめて!」のひと言くらいは言える。


小学校になっても、声を発する事が苦手だった私。
手を上げてのひと言ふた事の発表さえ嫌だったか、特に嫌いだったのは音読。
たった数行でも、立ち上がって読んでいる間中、声は震える、足は震える、教科書を持つ手も震える。


「声小さくて聞こえませ〜ん」
なんて言われることもあった。
それに、ちょっと訛っていた。
おばあちゃん子だった私、関西生まれのおばあちゃんに育てられたからか、イントネーションがちょっと変。
北陸は語尾が下がるが、私はいろんな言葉の語尾が上がっていた。
例えば雨、アメ⤴や足、アシ⤴などなど。
笑われるのが嫌だったし悲しかった。


でも、自分の声も好きじゃなかった。
自分が聞こえている声は、みんなが聞いている声じゃないよ、って教えて貰った時、エッ、そうなの?って、ちょっと嬉しくなった。
でも、当時流行ったテープレコーダーで録音して自分の声を聞いた時、もっとがっかりした。
変な声‥‥


大人になって、同人誌に出会った。
その会の催しで、他県の同人誌の方も招待しての二日間通しのフォーラムを開催することとなった。
同期の友人は、何事にも動じないタイプで立派に進行役をつとめた。
分科会も無事に終わり、最後にホールに全員集合、参加頂いた先生方に対する質問コーナーで締めくくり。
進行役の彼女から「誰も挙手してくれない時は頼んだよ」と。
エッ!?
案の定、誰からも質問が出ないシーンとする会場。
彼女から1番後ろの席に座る私に視線ビーム!!


深いため息とともに、仕方なくそっと手を上げる私。
先生にひと言だけ質問するつもりが、私の口が勝手に話しだした。
「私は先生のこの詩が好きです。朗読させて頂きます」
エーッ!何言ってるんだ私、誰か止めて、私の口、勝手に動くな!


嘘みたいだけど、本当に心と行動が見事にズレた。
自分のことを、もうひとりの自分が分析している感じで、ちょっと離れた場所で見守っていた。
「人間って、こんなことが起こるんだ。残念だけど、もう止められないわぁ」


足も手も声も相変わらず震えていたが、最後まで朗読を終え、遠く北海道からお越し頂いた先生にも、自分の気持ちをちゃんと伝える事が出来た。
その時、皆さん安心したのか、あっちこっちから手が上がった。


会が無事に終わり、後片付けの時、同人誌の先輩から言って頂いた言葉が本当に嬉しかった。
「朗読、良かったよぉ。わたし、ナツメちゃんの声好きだよ」
大きな勇気を頂いた瞬間だった。
自分の欠点だと思っていた声を誉められるなんて信じられなかった。


それからかも知れない。
誰かの素敵を見つけると、ちゃんと声に出して伝えて上げたくなる。
「いいね、それ素敵だね。わたし好きだな」
って。



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