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ラノベ作家の思い出① ~1匹のワナビが受賞するまで~

渡葉です。普段はゲーム会社でシナリオを書いております。

……が、その前は何をしていたかというと、一般企業に勤めながらラノベ作家をしておりました。いわゆるプロとしての活動を始めたのは、ライトノベル業界が最初だったわけです。

先日、ゲームプランナーさんと雑談していて、その頃の思い出について少し語ったのですが、意外と当時得た知見にも役に立つものがありそうなので、一度、自分とライトノベルにまつわる話をここに残しておこうと思いました。

気が付けば作家時代からけっこう時間がたっていて、過去の話になりつつあるので、そのうち忘れちゃいそうだし。ちょっと話せば長くなりそうですが、今回はとりあえずワナビ時代から受賞するまでの話かな。ではどうぞ。


的外れにもがいていた時代

時は2016年。石川県・金沢の居酒屋にて。オフ会で集まった友人たちに、私は決意を語りました。「俺はいままで、自分の好みだけで書いてきた。次こそは王道でいく。ちゃんとウケそうなもん書いたら、自分がどこまで行けるのか知りてぇんだ」。

金沢でたそがれる筆者(6年前)

作家になりたい。プロのクリエイターになりたい。学生時代からぼんやりと夢を抱き続け、何度か挑戦してきたものの、何の賞にも引っかからなかった。

身内の創作大会では良い結果を残し、「絶対王者」「神」とまで呼ばれながらも、友人たちは先にどんどんデビューを決めていき、ひとり取り残される始末。リアルに涙で枕を濡らしたし、もう半ばヤケクソになっていた。


ちなみにそれまで応募してきた作品はこんな感じだ。

初めて賞に応募したのは2013年の「フォルティティシモ」。自分の経験をもとにした吹奏楽モノで、主人公が大会に挑戦するまでを描くストーリーだが、仲間の部員が魔法少女と宇宙人。山場となる7章では、忍者学園とライバル魔法少女、大怪獣までを巻き込んだ大乱戦が描かれる。

印刷した原稿。当時ネット応募は存在しない

2016年にはカクヨムの第一回コンテストに「女子小学生がロックで一発逆転する方法」で参加。47都道府県の代表バンドが、"富士の樹海"で開かれるロックフェス「ジモトソニック」で対バンして殺し合うという意味がわからなすぎる内容。なお、"富士の樹海"は以下の通り、本当に海である。

 「富士の樹海」は、山梨湾にぐるりと囲まれた小さな内海である。周辺の森林を含めた地域全体をそう呼ぶ事もある。
 周囲の木々が水面に映り、森のように見える事から「樹海」の名がついたと言われているが、あくまで民間伝承であり真偽は不明だった。
 なぜ確証がなかったのか? 答えは単純である。

 その景色を実際に見た者が、誰一人として帰らなかったのだ。

 よってこの『海』は長らく存在自体が疑われており、衛星写真が公開されるまで山梨は内陸の県だと思われていた程である。
 ちなみに存在が証明された今もなお足を踏み入れて帰った者はいないとされており、この秘境は現代に至るまでその神秘性を保ち続けている。

幕間「ビフォア・スーサイド」より

なおバンドものではあるのだが、一番人気のキャラは「私の学説に穴はない。なぜなら今日の星座占いが一位だったからです」と主張するマッドサイエンティストだった。

『本日の一位は~~~? ……ジャン! 双子座~~~~~!! ラッキーアイテムは魚肉ソーセージ!』
 確たる証拠!
 この自信に満ちた女が、演説の冒頭から魚肉ソーセージを齧り続けていたのには、そのような理由があったのだ!

第3話「上限突破の頭脳バトル」より

「十時からの情報バラエティーでは、A型がトップでした。サカキバラ先生はAB型であったはず。情報収集を怠られているのでは?」

 サカキバラはかつて「スイーツは別腹」という理論を証明しようとして学会の場でステーキ2キロとロールケーキ15本をたいらげるも、その後トイレで吐いているところを目撃された事で学会を追放されかけた女なのだ。

同上

一から十まで何を言ってるんだ?

また、同年には同じくカクヨムの、コミカライズ原作コンテストに「PANTS-de-mic(パンデミック)」で参加。「野生化した女性用パンツが群れをなして襲ってくる」世界で、"パンツドランカー"に堕してしまった姉を救うためにパンツと戦う少女の物語。一から十まで何を言ってるんだ?

この作品の恐ろしいところは、上記のようなあらすじなのに、復讐もの、バトルものとしては恐ろしく硬派だということだ。先日読み返したのだが、心情描写、全体の構成、集団戦描写などが本格的で、プロとしての今の自分が唸ってしまった。でも題材がパンツだから全然人気は出なかった。


えーと……という、ね。本当に何をやってるんだお前は? カクヨムがライトノベル中心のサイトだってわかってる? これで受賞できるわけないだろ。お前に枕を濡らす資格はねぇよ。

いや、仕方なかったんだ。だって俺はニンジャスレイヤーが書きたかったんだ。具体的には、イカれた世界観で、ツッコミ不在の真面目な物語が書きたかったんだ。こうして振り返ると3年以上も毒されていた事になる。

しかしカクヨムのコンテストは、読者人気がないと一次審査を突破できない。当然の帰結として、落ち続けることになる。


自己改造の決意

もうやってられん。とにかく結果だ。結果が欲しい。そうして私は前述の決意に至ったわけである。

そう、一度性癖を捨てる決意だ。奇抜なものを書くから人気が出ないのだ。友人たちからも「渡葉さんは、創作企画とかだと普通にバトル書いてるんだから、それを書いてよ」「パンツじゃなくて普通に戦うやつが読みたい」と言われていた。

よし、わかった。普通のものを書いてやろうじゃないか。王道を書いてやろうじゃないか。今回は「好み」を排して考えよう。俺の嗜好なんかいらない。自分を改造するんだ。手術するんだ。サイボーグみてえな書き手になってやる。そして俺はこう思った!!

それで、具体的に何を書けばいいんだ……?

題材がクソほど思いつかなかった。そりゃそうだ。特に書きたくないものを書こうとしてるのに、アイデアなんかないのである!!

直後、友人たちを集めて緊急会議が行われた。ただの友人ではない。数年後にはラノベ業界やゲーム業界で活躍するクリエイターの卵が多く集まっていた、創作を趣味とする界隈。後に「きたないトキワ荘」と呼ばれる面々である。

※きたないトキワ荘……全員趣味が偏っており、表通りを歩くような人種ではなかった事から? 多くはラノベ作家デビューしたが、異世界ファンタジーやチートものを正面から書いた人間は皆無である(パロディはある)。

彼らに相談すると、どこからともなく色んなアイデアが出てきた。誰かが「格闘ゲームの話が読みたいなあ」と言った。別の人が言った。「私たちの創作大会って、色んなプレイヤーがいて環境が熱いから、そういう世界を書くのはどうか」「強い人を見つけてきて、擁立して優勝した人がいたじゃん。そういう主人公にすれば」

そこから発想を広げていった。「主人公はプロゲーマーの少年にする」「ヒロインは小動物みたいな素直クールがいい」「主人公がヒロインを一流のゲーマーに育てる」「勝ち上がっていく、スカッとする話」「うっかりヒロインの胸を触れ。必ずだ」

まったく、友人に恵まれすぎていた。原案段階から、作品が成立するまでに15人近くから意見をもらったのだ。これはちょっとすごい。例えば俺は今、チーム体制でゲームを制作しているが、ひとつのストーリーに15人の意見を集めるというのは、さすがに例がない。

そして俺は大半の意見をそのまま取り入れた。それが俺の覚悟だ。「勝つための作品」を作るという覚悟だ。今にして思えば、こうやって自分は書き手としての「器用さ」を鍛えていったのかもしれないなあ。

クリエイターって、インパクトあるアイデアを生み出すSTR型の人が評価されがちで、俺はそういう芸術家肌の天才にずっとコンプレックスがある(今でもそうだ)。でも俺みたいなDEX特化の秀才型にも需要はあるし、実際それで今お仕事がもらえている。

で、意見をもとにキャラを作り、舞台となるゲームの設定を作り、ストーリーを考え、また人に相談し、展開を修正した。

最もエモいと思われるひとつの山場まで書き終えた時。友人の一人が言った。「ちょっと涙出ちゃった。これはいけると思う」。俺は出先で、吹奏楽の練習をしながら(スケジュールがおかしい)、スカイプの画面を見て「よし」と思った。

そうして、2016年12月28日。カクヨムの第2回コンテストに応募する形で、作品は公開された。


そしてこんな作品になった

それがVR格闘ゲーム青春ホビーバトル小説、「暗殺拳はチートに含まれますか?」だ。

VRで戦う格闘ゲームに、本物の暗殺拳を使える少女が挑んだら——?

「これは……人を殺すための技だから」
彼女との出会いは、容赦ない目潰しから始まった。
高校生プロゲーマー、鋭一が学校で出会った少女……葵。
彼女は歴史の闇に埋もれた暗殺拳「墨式」を受け継ぐ者だった。

その驚異的な運動能力に惚れ込んだ鋭一は、葵をバーチャル空間で戦うVR格闘ゲーム「プラネット」に招待する。

ここでは目を潰してもいいし、首を折ってもいい。
どこにも振るわれる事なく秘匿されてきた殺人拳が……いま、活躍の場を得て覚醒《アウェイク》する!

カクヨム版あらすじ

見てください、この普通のあらすじを。まあ、今の時代にこれを王道と言われると首をかしげる人も多いだろうけど。これまでの奇天烈な作品群と比べると、なんとマトモなことか!!

王道というとボーイミーツガールをせにゃならん、と俺は考えた。そして明るい話にせねばならぬと考えた。主人公に地を這わせたりしてはいけないのである。なるべく「楽しさ」以外の要素を排除した。

 A1は立ち上がり、再び構えた。アオイもまた自然体で立ち、用心深くA1を見ている。一瞬たりとも警戒は切らせない。アオイはいつ、突然のタイミングでアクセルを踏み込んでくるかわからない相手だ。
 相手の呼吸を読む。吸う。吐く。吸う。吐く。吸う。吐く。吸

 アオイが動いた。

Battle3「平田鋭一と、一色葵」より

「…………鋭一」

 若干震えて、かすれた少女の声。
 今度は左からだ。アオイは一度離れ、助走をつけてからの飛び蹴りを繰り出す。
 A1は手を抜かず<フラッシュ>。
 閃光の中から、迫る蹴りとともに、声が続く。

「楽しい……」
 掌打でアオイの蹴りを横から打ち、狙いをずらす。
「どうしよう……わたし、今、楽しいよ…………!」

同上

キャラクターも個性は出すようにしつつ、自分の暗い情念が入り込まないように注意した。なんか、みんな生きてて楽しそうな連中なのだ。

「じゃあ早速ランキング戦いってみましょう! 今日はレベルB、420Pからスタートで~す」

「初戦突破~! ボールの上でズッコケてるだけに見えても計算通りだったりするんだよね! これで蹴りが決まると爽快だな~~」
「あっ、惜しい! やっぱパワー0だと重い一撃は出せないんで、手数で攻めるしかなくなりますね。うーん困ったぞ」
(中略)
「あー! あの、ちょっとわかってきたんですけど!」
「……これ! 弱いですね!」

動画配信者「百道」

「一つ教えておいてやるとな」
 彼は相手のパンチを見切り、その腕を捕まえながら言った。
「今くらいの動きができる奴は、こっちにもいる。スキルを使わなくてもだ。大晦日にテレビでも見てみるといい」

総合格闘家「山本道則」

 天野あかりは他人に憧れない。
 彼女が憧れるのは――「理想のアカリ」に対してだけだ。

 憧れは、人を自らの上に置く行為だ。そんな事をしていては、あかりは「アカリ」に辿り着けない。どれほど素晴らしい存在が目の前に出てきたとしても、一番上は「アカリ」だ。
 だから、彼女も認める尊敬すべき他人が現れた場合は。

 ……全て「ライバル」ということになる。

ネットアイドル「AKARI」

「くそっ、やっぱ俺ってキャラ薄いのかな。1位のオーラ? みたいなの? 無いみたいだし……nozomiさんはいいよな、ファンクラブとかあるんだもんな」
「元気出せよ安田ー」

 客席から野次が飛ぶ。

「うるせーよ! ホラ今日もこんな扱いだし。お前ら、俺が出てきた時なんつった? 『ああ……』っつったよな。それチャンピオンに対するリアクションじゃなくない? どうなの?」

誰からも尊敬されないチャンピォン「安田」

で、これがまあウケた。ちょっと今までとは規模が違うレベルで。コンテスト中にサイト内ランキングで1位になった事もあるくらいだ。「これが受賞しないようなら審査基準そのものがおかしい」という声まで上がっていた。

2017年に入り、コンテスト期間が終了しても、作品のWEB連載は続けた。コンテストの結果が出るまでは暇だったし、何より、自分の作品でTLが盛り上がっているという景色が最高だったのだ。「勇者のクズ」の盛り上がりを横目で見ながらハンカチを噛んでいた自分が、いま中心にいる。

キャラクター人気投票を自分で企画したりもした。週1更新でトーナメント編をやっていたため、ジャンプ漫画と言われたりもした。楽しかった。

ファンアートもたくさん貰った


結果……

コンテスト期間の終わりごろ。俺は会社のトイレで頭を抱えていた。なぜだろうか。ランキング1位だったのではないのか? 手ごたえがあったのではないのか? 受賞を確信していたのでは?

実は、まっっっったく受賞を確信していなかった。

コンテスト後半になるとランキングは常に2位だった。1位には別の作品がおり、これも知り合いの作品だったのだが、フォロワーの多い友人とタッグを組んで宣伝していたため、かなり人気があったのだ。とても泣ける作品らしい。

同じ界隈の作者だったため、友人たちの票も二分されてしまっており、当時の自分は人間不信に陥っていた。もう誰が敵で誰が味方かわからん。実際には友人たちは両方の味方だったと思うのだが、創作者なんてナーバスになるのも仕事みたいなもんである。

半分うつ病みたいな状態になって、死ぬほど悩みながら暮らしていた。自分の好みを捨てて、イチから鍛えなおして、ようやく掴んだチャンスでこれなのか。結局自分は、満たされずに嫉妬を抱え続けるしかない人生なのか。

そうして時は経ち、スーツを着て望まぬ仕事をし、会社の飲み会を「ウンコフェスティバル」と名付け、Twitterで愚痴を垂れ流し、泣きながら暮らしていた2017年の春。1通のメールが届いた。

受賞の通知である。

俺はそれをまたしても会社のトイレで見た。現実逃避はトイレに限る。そこで、ガッツポーズをした。それから昼休みに、高田馬場のバーガーキングで高めのハンバーガーを食べたのを鮮明に覚えている。

結果は「大賞」だった。賞金100万円である。後に聞いた話だが、人気は最終まで2位だったものの、ライトノベルとして読者層に合う内容だったのがやはり決め手だったようだ。カドカワ系列の3つのレーベルから出版オファーがあり、そこから1つを選んで、デビューが決定した。


なぜ渡葉はデビューできたのか?

長くなったけど、最後に軽くまとめておきたい。結局なぜプロになれたのか? 自分の場合に限っては、それは「コンセプトをきちんと定めた」上で「コンセプトが読者のほうを向いていた」からだと思う。

最近になってアマチュア時代の過去作を読み返したが、ハッキリ言ってクオリティはプロレベルと言ってまったく問題ない。内容を忘れていた今の(プロの)自分が見てそう思うのだから、たぶん間違いない。ていうか何だったら、文章力に関しては当時のほうが間違いなく高い。

でもそれじゃデビューは出来ない。あまりにも内容が独りよがりすぎた。作家はこの世の全てを相手にモノを書く仕事だ。

友達のアイデアでデビューしたくせに偉そうに、って? 今すぐ腹を切って死ぬべき? 溶岩に投げ落としてやる? 溶けた鉄に沈めたい? まあ気持ちはわかる。8割方、友人のおかげだと思う。でも残りの2割を用意できるか、って大事なことだ。

15人からもらったアイデアを、素直に受け入れられるか。受け入れた上で「王道の楽しい作品にする」というコンセプトがブレないように制御して、実際の文章にできるか。それは作者本人にしかできないことだ。

だからまあ、他の人にも当てはまるか分かんないし、当たり前のこと言うなよって感じかもしれないけど、「読む人のことを考えようね」ってマジで忘れちゃいけないんだ。難しいんだけど。

こういう心意気って、すぐに曇る。本当にすぐに。デビューしてからも幾度となく曇ってきた。作品にリビドーが乗ったとたんに暴走したり、そもそも疲れてて冷静じゃなかったり、目の前の締切を守るためにコンセプトなんか気にしてる場合じゃなかったり。

なんかこれ書いてて、もう一度、心を締めなおして頑張ろうって思ったよ。またでかいシナリオも控えてることだしな。


というわけでデビューまでの話はおしまい。また次回、気が向いたら「デビュー作を出版するぞ編」をやるかもしれません。またね。

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マシュマロ頂いても反応します。

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