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うどんの特異点

うどんや素麺は太さで区別されていると聞いた。調べてみると確かに、規格上は乾麺の直径が1.3mm未満のものを「素麺」、1.3mm以上1.7mm未満のものを「ひやむぎ」、1.7mm以上のものを「うどん」と呼ぶらしい。

知らなかった。てっきり「油揚げとの相性の良さ」が基準だと思っていた。まさか太さだったとは。今度丸亀製麺の店員に教えてやろう。太さだぞって。

しかし太さという観点で考えると、うどんの凄さに気付かされる。なにせうどんの太さは1.7mm以上⚫︎ ⚫︎なのだ。細い方から「素麺」「ひやむぎ」と来て、1.7mm以上は問答無用で「うどん」にしてしまう。なんという守備範囲の広さ!

(材料が合っていれば)1.7mm以上ならどれだけ太かろうと「うどん」だ。逆に、それを「うどん」と呼ぶならその麺は1.7mm以上の太さを有するとも言える。あるいはうどんの太さ X は無限に大きな値をとることができるとも言える。

故に「うどん」より上の階級は存在しない。「ヘビー級」や「震度7」と同じだ。「うどん」もまた無限の大きさを司る。「饂飩(うどん)」という漢字がどことなく混沌として禍々しい雰囲気を称えているのもそのためだろう。

時々テレビで、切るのが面倒だからそうしているとしか思えないほどの極太うどんが紹介されたりする。我々が日常的に食べる太さ3~5mmくらいのうどんとはまるで異なる見た目だ。食べたことはないが、恐らく味も食感も食後の胃もたれ感も少なからず違うと思う。

にもかかわらず、店側はそれを「うどん」として提供できるし、客もそれを一応は「うどん」として認識することができる。これが可能なのも「うどん」というカテゴリーが無限の太さに対応しているからだと、僕はようやく気が付くことができた。

やはりうどんは凄い。うどんってこんなに優れた食べ物だったのか。油揚げとの相性だけじゃない。うどんの守備範囲は偉大だ。ますますうどんのことが好きになった!うどん大好き!うどん食べたい!I want to eat udon!

でも実をいうと、うどんに対して一つだけ疑念も浮かんだ。

たしかに理論上はうどんの太さは無限だ。正しい材料で作られた1.7mm以上のあらゆる太さの麺を「うどん」と呼ぶ権利を誰もが有している。

しかし常識を超えて太すぎるうどんが実際に現れたとき、我々は本当にそれを「うどん」と認識することができるのだろうか。あくまで仮説だが、うどんがうどんでなくなる太さの特異点=シンギュラリティが何処かに存在するのではないか、と僕は思う。

例えばこれからの時代、インスタ映えを意識した超極太うどんを出そうという奴がいてもおかしくない。インフルエンサーがSNSに投稿して瞬く間に話題になり、超極太うどんブームが到来することもあり得る。そうなれば、さながら冷戦時代のアメリカとソ連のように各うどん店が競って超極太うどん開発に乗り出し、うどんは際限なく太くなっていくだろう。

その時我々は、いつまでそれを「うどん」と認識し続けられるだろうか。だんだん気が付くのではないだろうか。うどんじゃないかもしれない、と。

それでもうどんは太くなり続ける。まるで狂ったモンスターみたいに。うどん業界の好景気を維持したい政府は「規格上はうどんだ」の一点張りで相手にしてくれない。

やがてうどんの太さが許容範囲を逸脱したとき、人々の疑念は確信に変わる。

これはうどんではない ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎

それがシンギュラリティだ。

シンギュラリティのその先で、我々はうどんをうどんとして認識できなくなる。うどんは、うどんではない何かになる。それは一体何なのか。理性でそれを認識できるのか、できないのか。それは人類を脅かすのか、脅かさないのか。美味しいのか、美味しくないのか。仮説とわかっていても、ゾッとしてしまう。

考え過ぎだといいのだが……。


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