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万博ロゴと企業ロゴの役割と効果の違いとは【ILY,Designability cast】

ILY,では「ビジネスにおけるデザインの可能性を探求する」というテーマのもと、podcast配信を始めました。その収録の一部をnoteの記事としても公開していきたいと思います。

2020年8月25日に2025年日本国際博覧会(略称『大阪・関西万博』)のロゴが発表されました。今回の「ILY, Designability cast」では、代表の辻原とPRの服部が、「万博のロゴとは何なのか。ロゴが果たす役割とは」について、改めて考えてみました。

過去の「万博ロゴ」を検証

服部:昨日、2025年大阪・関西万博のロゴが発表されましたね。ロゴの話をする前に、「そもそも万博って何だろう」と。

辻原:私のイメージでは、地球規模の文化祭であり、近未来が展示される場です。映画『アイアンマン2』でも、スターク・エキスポという万博が出てきましたが、最新技術が一同に集まる空間ですよね。

服部:私は、定期的に開催される「オリンピックの技術・文化版」のようなイメージを持っていました。調べてみたら、始まりは1851年にロンドンで開催された博覧会で、今では国際イベントとして5年ごとに開催されています。

辻原:日本開催は1970年の「大阪万博」が最初でしたね。岡本太郎さんの「太陽の塔」が有名です。次が2005年の「愛・地球博」、そして今回ロゴが決まった2025年「大阪・関西万博」。
それにしても、2025年のイベントのロゴをもう決めてしまうのは、すごいですね。5年先のことは、意外に予測できないですから。

服部:そうですよね。今の最新技術が、5年後にはもう当たり前になっていることは、あり得ますもんね。
今回のロゴを検証する前に、まずは直近のロゴから振り返っていきたいと思います。こちらが、今年(2020年)開催予定だったドバイ万博のロゴです。新型コロナウィルスの影響で延期になってしまいましたが。

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辻原:このロゴは、建築感がありますね。

服部:次に2015年のミラノ万博のロゴ。これは、非常にわかりやすいですね。「2015」と「EXPO」を重ねただけで、あまりギミックのようなものは感じられません。

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辻原:確か、この頃に流行ったデザインなのですよね。透明感があるレイヤーを乗算で重ねた、マテリアル系のデザイン。改めて見るとわかりますが、流行がロゴにも反映されているのはおもしろいですね。

服部:なるほど、当時はトレンド感のあるデザインだったのですね。2010年の上海万博はどうでしょう? 人が肩を組んだモチーフで、「みんなで協力してエキスポを作る」というイメージでしょうか。

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辻原:中国らしいですね。「みんなでがんばろう。国全体を押し上げよう」という気概が感じられます。

服部:そして、2005年の「愛・地球博」。ふんわりしたものでしたよね。

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辻原:うーん、ダサい(笑) 24時間テレビみたいですね。あ、でもこれはイベントロゴで、下の緑のサークルが組織ロゴでしょうか。(公式サイトを見ながら)

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服部:この組織ロゴのシンプルさは…何を表現しているんでしょうね。

辻原:緑色は、テーマである「自然」のイメージかなと思いますが、サークルの意味は、何でしょうね。

2025年「大阪・関西万博」のロゴが表すものは!?

服部:では、いよいよ、今回選ばれた大阪・関西万博のロゴを検証してみたいと思います。

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発表によると、デザインコンセプトは、
踊っている。跳ねている。弾んでいる。だから生きている。大阪・関西万博。1970年のデザインエレメントをDNAとして宿したCELLたちが、2025年の夢洲でこれからの未来を共創する。関西とも、大阪府ともとれるフォルムを囲んだメインシンボルだけでなく、CELLたちは、文字や数字を描きだし、キャラクターとしてコミュニケーションする。自由に。有機的に。発展的に。いのちの輝きを表現していく」
だそうです。

辻原:1970年の大阪万博のロゴは、桜がモチーフではありますが、確かに目玉のようにも見えますね。そして、桜の花びらの数と、今回のロゴの目玉の数が一致しています。

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服部:本当だ!言われるまで全く気づきませんでした。やはり今回のロゴは、1970年のロゴからインスパイアされた部分もあるのですね。

辻原:私たちも仕事としてロゴを作ることがありますが、ロゴ単体でのグラフィックはあまり価値がありません。ただ、今回のロゴは、コンセプトの中でロゴがどう使われるか、まで想像されているのはすごいと思います。

服部:発表直後から、ツイッター上では、ロゴをネタにした投稿がたくさんポストされていました。「いのちの輝きくん」と親しみをこめて呼ばれています。既存の何かに似ているために、みんなが拡散したくなる、つぶやきたくなる要素もあって、結果的にお祭り的な盛り上がりが生まれています。ロゴを介して、コミュニケーションが成立しているのがすごいなと思います。

辻原:よく、YouTuberがマクドナルドで遊んでいますけれど、マクドナルドの強みは「いじられ力」があることです。今回のロゴも、ツイッターをはじめとする、いわゆるコンシューマー・ジェネレイテッド・メディアにおいて、いじられやすい、突っ込まれやすいという強みがありますね。


万博ロゴの役割とは

服部:一つ話しておきたいなと思ったことがあるんですが、そもそも「企業ロゴと万博ロゴの役割の違い」って何でしょう。

辻原:どちらも、汎用性を持たせること、PRを成立させるためのルールづくりは必要です。その上で、企業ロゴの役割は「人の心を動かすこと」、万博ロゴ、つまりイベントロゴの役割は「足を動かすこと」という違いがあります。動かすものが違うということですね。「愛・地球博」のロゴも、デザインとしてはどうかなと思いますが、イベントロゴとしては成功だったと思いますし。

服部:たしかに。親しみを感じて足を運ばせる、そういう効果はありましたよね。

辻原:万博ロゴは、誰に足を運ばせるかというターゲットを明確にして、そこに刺さるものにする必要があります。足を運んでほしいのは、ファミリーなのか、独身者なのか。愛・地球博とドバイ万博では、明確にターゲットが違うのがわかりますよね。上海万博は、国外の人に働きかけるロゴでした。

服部:今回の大阪・関西万博のロゴは、どちらかというと、国外よりも日本国内に向いている気がしますね。

辻原:そうそう、国外のことは考えていない感じはしますよね。私は見た瞬間に、「タコに似ている」と思ったのですが、タコは海外では「デビルフィッシュ」と呼ばれていたりしますし、見方によっては、ネガティブな捉え方をされるかもしれません。

服部:グロ系、クリーチャー系ですものね。

辻原:万博ロゴは、展示内容の方向性を位置付ける大きな役割もあります。人は視覚によって無意識に行動を制御する傾向があるので、ロゴが、展示について「これはO.K.」「これはダメ」と判断する基準にもなります。
今回のロゴは、ビジュアル的に村上隆さんの作品を想起させる部分があると感じました。もし、万博の出展者がまだ決まっていないとすれば、このロゴに決まったことで、出展者や展示品は、サブカル的なソフトコンテンツが多くなりそうな印象です。日本はそもそもサブカルが強いので、それはそれでいいかもしれませんね。

服部:たしかに。誤解を恐れず言うと、オタク系の人々の心を掴んだというか、サブカルの方向性になった印象はありますね。

辻原: ほかのロゴに決まっていれば、展示内容も変わってくるでしょう。 例えばA案なら、象徴的なパビリオンが建ちそうだなとか、B案は、絵の具が散ったイメージなので、アート系の展示が増えそうだなとか。

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服部:なるほど。そういえば、万博のターゲットは、全世界の人と言えるほど広いのかと思っていましたが、先ほど話でも出たように、それぞれの万博によって、ある程度ターゲットイメージが異なっている、ということなんですね。

辻原:そうですね。たとえば、外貨を稼ぐのか、内地消費を生み出すのかで、ロゴのデザインも変わってきます。ドバイ万博は、完全に外貨を稼ぐインバウンド向けのロゴで、愛・地球博のロゴは、近隣圏から収益を得ようという雰囲気ですよね。

服部:そうですね、愛・地球博は、国外をターゲットにしていない感じはしました。

辻原:上海万博のロゴから伝わるのは「国策ですよ」というメッセージ。ミラノ万博は、ヨーロッパ諸国をターゲットにしつつも、なんとなく、イギリスは除外されていたのでは、という印象も受けます。イギリスを含めると、もう少し違うデザインになっていたのではないでしょうか。
今回のA案からは「外貨を稼ぐぞ」という意気込みが伝わっていましたが、E案は「オレらが楽しむぞ」と思っている感じ。あくまで印象ですけれど、2025年の万博は、地域経済活性化の目的が強い感じがします。 

そもそも、ロゴは公募するべきか?

辻原:実は私は、こうしたイベントのロゴを公募することには、違和感があるんですよね。今回、最終審査まで残ったA案からE案は、方向性がバラバラでしたよね。ターゲットやコンセプトが提示された上でオーダーしたロゴであれば、こうはならなかったと思います。ロゴはまず、「どういう万博にするのか」「集客とコンテンツはどうするのか」など、強いビジョンや明確なコンセプトがあって、そこからオーダーするべきです。もちろん、その選ばれたロゴを起点に、後付けてコンセプトを決めて、足並みを揃えていくという方法もあるかなとは思いますが。

服部:そもそも、まずはロゴを公募するという方法が、あまり適切ではないということですね。

辻原:はい。佐藤可士和さんが「デザインはお医者さん」という表現をしていましたが、デザインは、課題に対して解決策を提案するものです。課題のないロゴの公募は、ロゴを作ることを、絵を描くことと同じように捉えている気がして、イヤだなと感じます。デザインを、ビジネスと関わりのない、ただの表現だと思っているのだとすれば、デザインの軽視でもあります。
とはいえ、今回のロゴの決定の裏に何があったのかはわからないですし、決定したロゴを否定するわけではないのですが。

服部:たしかに、課題のないロゴは、デザイナーとしては、どう作ればいいかわかりませんよね。公募ロゴは、どちらかといえば、アーティストが応募するもの、という位置付けになってしまう気がします。

辻原:選ばれたロゴ自体は、楽しそうでいいなと思います。5年後の万博に、どんなコンテンツが集まってくるのか、どんな万博になるのか楽しみです。

Thank you, we love you!

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