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NISSANロゴリニューアルから見るデザインとビジネスの関係性

Hello, people.

日産自動車がロゴを刷新しましたね。同社のロゴの変更は19年ぶりとのこと。その意図や目的はどのようなものだったのでしょうか。ILY,では、「企業のロゴ変更の意図について、日産自動車の事例から考える」をテーマに、辻原が解説する社内勉強会を実施しました。

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ロゴが変わる3つのタイミングとは?

ロゴは企業の顔であり、シンボルです。そのロゴを変えることは、企業にとって非常に大きな転換ではありますが、ロゴが変更されることは、珍しいことではありません。

たとえばラグジュアリー・ブランドでも、2013年のYves Saint Laurent(イヴ・サンローラン)をはじめ、この数年も、BALENCIAGA(バレンシアガ)、BURBERRY(バーバリー)、CELINE(セリーヌ)など、ここ数年ロゴ変更が相次いでいます。

多くの企業は事業推進において、どのようなタイミングでロゴを刷新するのでしょうか。また、どのようなタイミングで刷新が求められるのでしょうか。一般的には主に下記3つのチェンジがそのタイミングであると考えられます。

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それぞれを詳しくみていきましょう。

1.ターゲットが変わる

まずはターゲットが変わった場合です。当たり前のようですが「男性をターゲットとした商品」「女性をターゲットとした商品」で必要なデザインが違うことはいうまでもありません。ロゴを含むビジュアルデザインは「ターゲット」「消費行動」「金額」など様々な要素で決定されます。

しかしながら、先にあげた高級消費財や今回の日産自動車など、一見ターゲットは変化していないように思われるブランドでロゴの変更が求められるのは「時代によって同じ年齢でもインサイトが違う」ためです。

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たとえばブランドの主力消費者が30代だとして、それ自体は20年前も今も変わらず提供している商品も同じだとします。しかし20年前の30代と、今の30代では、あり方や意識、ライフスタイルがまったく違いますよね。消費行動も「モノ消費」「コト消費」...として時代によって変わり続けています。

つまり、同じ世代を相手にしても時代が変わると、ターゲット(インサイト)が変わるのです。それに合わせて、ブランドロゴも更新していく必要があるというわけです。

2.マーケットが変わる

ロゴを変えるきっかけの2つ目は、マーケットが変わるときです。たとえば商品を百貨店で売る場合とスーパーで売る場合、必要なデザインは異なりますよね?マーケット=販売チャネルが変わる、と考えることができます。

昨今あらゆるモノやサービスを売買するチャネルが、店頭からECにシフトチェンジを起こしています。いうまでもなく自動車業界も例外ではありません。これまでロードサイドショップにショールーム的に車を並べ、展示販売を行ってきましたが「商品を探す・選ぶ」という点においては現代ではすでにインターネットの方が利便性が高い。フィジカルストアとデジタルでは必要なデザインが異なるのは言うまでもありません。

このように、ユーザーの消費購買行動の変化がチャネルシフト+デザインの変更を要することは珍しくありません。代表例として2015年のfacebookのロゴ変更の事例を紹介しましょう。

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デジタル時代のロゴ変更の好例に、facebookがあります。2015年のロゴ変更では、「a」の文字が、2階建てから1階建ての「a」に変わりました。
従来使われていた2階建フォントの「a」がスマートフォンなどの小さい画面で見ると潰れたように見えてしまう、というのが変更の理由でした。

当時のfacebookのユーザーは、PC利用者を主とする40代以降がほとんどでしたが、「若い世代を取り入れたい」という意向のもと、スマートフォンにも対応するロゴに変更したと考えられます。(※同社は2019年にinstagramなど他サービスとの足並みを揃える意図でロゴを変更しています。詳細はこちら

3.事業が変わる

これは説明するまでもありませんが、事業が変わることでデザイン変更が必要なのは理解しやすいと思います。たとえは、コーヒーショップとスイーツショップではターゲットもマーケットも違うため、異なるデザインが必要であるということはイメージしやすいですよね。

事業推進においてロゴが変わるタイミングは、おおよそ上記の3つであると説明することができます。

そのほか、会社の代表が変わるときや、主戦商品が変わるとき、事業拡大のタイミングなど...これらもロゴ変更のタイミングになることがあります。ちなみに、こうしたタイミングでロゴを変えることは社員のモチベーションがあがるというメリットもあります。

自動車業界の変化について考える

今回の日産自動車のロゴ変更はマーケット全体のインサイトの変化、チャネルのシフト、事業自体の変化など上記3つをすべて網羅するタイミングだったと考えることができます。

またさらに自動車業界に視野を広げると、より多くのことが見えてくると思います。

自動車業界の秩序が変わる前触れか? テスラ、時価総額でトヨタ超えの理由

このコロナ禍において、時価総額においてテスラがトヨタを超えたというニュースがありました。テスラという2003年に創立されたベンチャー企業が、新規参入が最も難しいと言われてきた自動車業界を変えようとしています。

ソニー初の自動車『VISION-S』、2020年度中の公道走行テストを目指す

またさらに、ソニーがCES 2020で世界を驚かせたのは他業界からの自動車業界への参入であり、モビリティシフトからの業界変革の可能性でした。同じく他業界のGoogleが自動運転車の開発を発表したのは2019年でしたが、googleの参入とSONYの参入では異なる意味の脅威を業界にもたらしたと考えられます。

BMW、ブランドロゴ変更。2次元で透明な新ロゴデザイン採用

自動車業界では2020年3月にBMWがブランドロゴを変更したことも、大きなインパクトを持って世界に迎えられたと思います。3D的なロゴから2Dへの変化は「製造業からデジタルへのシフト」を強く印象付けました。自動車というハードウェアプロダクトの提供から、自動車を通じたフィジカル-デジタルを問わないシームレスな体験の提供へ。そういった強い意思を感じさせる刷新でした。

現在日産の国内シェアは トヨタ、ホンダ、スズキ、ダイハツに続く国内5位です。高級車のイメージが強いトヨタ、軽自動車にフォーカスしているスズキ...などなど、他社が明確な市場優位性を持つ中で明確な差別化を求められているのかもしれません。日産自動車は新型クロスオーバーEV「アリア」を発表し、今後は、EV(電気自動車)に強みを見出す姿勢を見せていたり、EVからのデジタルを通じたサービス業への参入など、事業の多角化を目指していくのかもしれません。ほかにも、2019年に退任したゴーン氏によるイメージ低迷を払拭したいという気持ちもあるかもしれませんね。

日産自動車のロゴで変わったもとの、変わらないもの

では、NISSANのロゴはどのように変更されたのでしょう?

日産自動車のロゴには、創業者・鮎川義介氏の信念である「至誠天日を貫く(強い信念があればその想いは太陽をも貫く、必ず道は開ける)」が反映されており、この意匠は1988年以降守り続けられていることがわかります。変更前のロゴを抽象的なイメージに直し、今回リニューアルされたロゴを見ればその意図がよく理解できます。

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一方で今後、EVに力を入れていくことによりデジタル体験の強化も求められます。そのためBMWの変更と同じくロゴにもデジタルへの対応が求められます。今回の変更では3次元の製造業然としたロゴから、2次元のフラットなものになりましたね。また、体験をベースとしたサービスを提供する会社らしい軽やかさも出ました。

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また個人的に勉強になるな、と感じたのはこのディティールへのこだわりです。新しいロゴはこの部分が少し細くなっていますね。ここをすべて同じ太さにすると、野暮ったくなり硬い印象が残ります。細く繊細な処理を加えることですっきりとした印象や軽やかさ、未来への広がりも感じさせます。
こうした小さなこだわりが企業やブランドイメージを左右するものになります。さらに個人的な感想ですが、水平線から太陽が昇る姿とも重なり、新しい時代の始まりをも感じさせます。

企業のロゴからは、さまざまなことが読み取れます。今回のように、有名な企業やサービスのロゴが変更されたときに、何を変え、何を変えなかったのか....その時の時代や事業の状況と照らし合わせて分析してみると面白いですね!

Thank you, we love you!

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