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物語

忙しさにかまけて忘れてしまっているものが
いくつかあってそういう時に何らかのサインを
送ってくれる神さまにひたすら頭を下げる。

エンジン警告灯がぽつんとついて慌ててガソリンスタンドに駆け込む。
真っ黒に汚れた手で鳴り続ける電話を取りながらひとり忙しく駆け回っている整備士のおじさんの微笑みがあたたかい。
すいませんね。ちょっと待っててね。
今私一人しかいなくてね。

自動販売機を見つめながら椅子に座り
待つこと30分。

あぁこれはオイル交換した方がいいですね。
あと、もうすぐ車検切れますよ。
え?え?
すっかり忘れていた。危ない危ない。

あ、ちょっとすいませんね。
うん、どうした?
電話を取った整備士のおじさんが呟く。
救急車?救急車呼んだのか?
後でまたかけ直すから。

この人にも帰りを待つ家族がいるのだ。
生活があるのだ。
暮れてゆく空を眺めながら繰り返される彼の
日常に想いを馳せる。

断ることもできただろうに。
最初に向かったガソリンスタンドでは
ただ一言わかりませんと言われただけだった。
この人は空に星が輝く頃に家路に着くのだろう。

とりあえず警告灯は消しましたから。
オイル入れたんでしばらくは大丈夫。
びっくりしたでしょう?大丈夫ですよ。
車検は来週で入れときますね。

待ち時間にこっそり買った缶コーヒーを
そっとテーブルに置いた。
お忙しいのにありがとうございました。
あぁ、いいのに。

毎日って、けっこうドラマだ。



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