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【書評】近代美術の巨匠たち

ジャンルとして、西洋近代絵画を格別好んでいる訳ではない(嫌いな訳でもない)。基本的にはミュージアムや展覧会そのものを愛好している。しかし鑑賞機会という点では、自然と西洋近代絵画に導かれてしまうことが多い。そしてその結果、西洋近代絵画の作品や画家のことが段々と頭の中に蓄積される。ただしパズルの断片的に。


ということで、そろそろ、ミュージアムや展覧会の「外」で西洋近代絵画の全体を手軽におさらいしようかと、手にとった一冊。著者の高階秀爾たかしな しゅうじ国立西洋美術館(nmwa)の元館長で、まさにこのテーマにうってつけ。ただしこの本の元となる記事が美術手帖で連載されたのは1967年で、氏が国立西洋美術館の館長に着任される1992年より遥か以前のこと。


内容はモネからルソー、印象派からエコール・ド・パリまでの13人の「巨匠」の評伝。1人あたりきっちり20頁均等に書き揃えられており、1日1人といった読み進め方が可能。この分量なので、当然1人の作家の生涯が描きつくされたものではなく、印象的なエピソードが中心。展覧会の作品解説・作家解説とは異なるトピック・面白さ・読み易さ。純粋に読み物としても楽しめるが、その後の絵画鑑賞にも深みを与えてくれる。



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以降は個人的な所感や覚書

取り上げられた13人の中で1番好きな作家は、アンリ・ルソー。しかしこの本で語られたルソーは、かなり衝撃的。「素朴派」だけど実は素朴じゃなかった(かも)!みたいな。


ピエール・ボナール / Pierre Bonnardラウル・デュフィ / Raoul Dufy は全く知らなかった画家。試しに確認したところ、nmwaに所蔵はあった。
  国立西洋美術館所蔵作品データベース 〉 所蔵作品検索 〉 作家名索引
  https://collection.nmwa.go.jp/artizeweb/search_1_top.php
なお、上記DBによるとnmwaで所蔵されているデュフィは1点だけ。そしてちょうど現在、常設展で展示中の模様。折角なので忘れないうちに観ておこうかと思う。


「ナビ派」という言葉は以前からチラホラ見聞きしていたものの、興味を持ったのはこの本で。以下、artscapeによる解説。


私が高階秀爾の著作を読んだのは、これがまだ2冊目(読みかけをカウントするなら、3冊目)。1冊目はnmwaのミュージアムショップで出会った『本の遠近法』。その時は氏が何者かすらはっきり知らないまま、読み易そうという程度で気楽に本を開いた。そして、感服した。知識の広さ、優れた洞察力、そして何より卓越した文章表現に。『本の遠近法』は形式としては書評集だが、私的にはこれが書評というものの一つの成熟完成形のように思えた。そのような背景があったため、今回『近代美術の巨匠たち』を読んで抱いた一番の感想は、実は内容に対してではなく文章表現に対してであり、「(この時は、まだ、)若い」というものだった。そして『本の遠近法』で目の当たりにした非凡な文章表現も、弛まず書き続けることで到達された円熟の極みのように思えた(誠に僭越だが)。

読みかけの1冊は三浦篤との共著『西洋美術史ハンドブック』である。他に『名画を見る眼』『続名画を見る眼』も気になっている。次はそのあたりを読み進もうと考えている。

この記事を書いてて知ったことだが、『名画を見る眼』は、来月(2023年5月)にカラーで復刊されるようである。これは、楽しみ。
https://www.iwanami.co.jp/book/b625299.html

#おまけ



以 上

誠にありがとうございます。またこんなトピックで書きますね。