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あの人が怪しいなら、この人も怪しい。和歌山毒物カレー事件(5)

 事件当初、警察は全く犯人の当てはなく、どうも記者からの情報で林家の夫が昔白アリ駆除業者で、更にヒ素を使った保険金詐欺をしていたため、あれ、こいつら怪しくないか?となった訳だ。
 直接的な証拠が見つからないまま「前もヒ素で悪事を働いてるからきっと今回もやってるだろう」というなんとも頼りない疑惑から始まっている。
 過去の犯罪に関係して嫌疑が濃くなるのであれば、同じ論調で証拠も同じよう過去の犯罪によりに疑われなければ公平性はない筈だ。
 何度も言うが、林容疑者に容疑の目が向けられたのは、ヒ素を使った保険金詐欺事件が発端である。決して直接的な証拠はなかった。
 そしてヒ素の紙コップやプラスチック容器を鑑定した主任研究員だが、他の事件で証拠を捏造していたことが発覚した。
 林容疑者が怪しいなら、この主任研究員も怪しいと言っても何の齟齬もないだろう。 

2010年5月~2012年1月、計6件の事件・事故の証拠品だった繊維片や塗料片などの鑑定時、過去に同じ物質を鑑定した際に使ったデータを流用。(中略)動機について、判決は「上司が嫌がらせで鑑定結果に言いがかりをつけてくると考えた」と指摘した。

朝日新聞2013年6月13日

「上司から、分析データの見栄えが悪いと叱責されるのが嫌だった」と話し、容疑を認めているという。(中略)物質の特性を表す波形図を、過去に同じ物質を調べた際の波形図と取り換えた疑いなどがある。

朝日新聞2012年12月18日

 上司にあれこれ言われるのが嫌で、別のデータを載っけた、と言っている。なんなら、データの見栄えで何か言われるのが嫌だからって、この証拠能力はゼロである。
 この研究員は、事件事故の現場で採取された塗料片や繊維片に赤外線を照射して、物質の特性を示す波形を得る機械を使って分析する仕事を行なっていた。どこかで聞いた覚えのある分析のお仕事である。
 更にこの主任研究員、カレー事件の第二審では以下のようなことを証言している。

中井泉・東京理科大教授に提出したカレーについて「鍋の内側上部から採取した。今思えば、適切な場所とは思えない」と証言した。適切でない理由を聞かれ、「上の方なので、十分に混ざってない場所の可能性がある」とし、「最近になってそう思い始めた」と述べた。

朝日新聞2000年4月27日

 人一人が死刑宣告を受けているのに、「ちゃんと出してなかった気がする」なんて、なかなかすごい話である。特定の人間をバッシングする気ではないのだが、これではあまりにもひどい。更にこう続く。

「県警は公訴時効が過ぎており、立件は見送ったが、1998年から2003年に、覚醒剤取締法違反などの19事件で同様手口の不正があったと明らかにした」
「資料が残っていないため、不正の有無がわからない鑑定もあった」という。

読売新聞2000年12月18日

 開いた口が塞がらない。更に先述した、青酸化合物の鑑定もかなり怪しいフェードアウトをしていったことから考えると、本当に紙コップからヒ素は検出されたのかと思ってしまう。以下は「日刊ゲンダイ」からの引用である。

和歌山カレー事件急展開か
 こうなるとイチから洗い直す必要が出てくるのではないか。「和歌山毒物カレー事件」でヒ素の鑑定に関わっていた和歌山県警の担当者が、昨年暮れにひっそりと県警を辞めていたことが分かった。「問題の人物は科学捜査研究所の主任研究員Aです。
 県警は有印公文書偽造の疑いなどでAを12月17日に書類送検し、Aは直後に依願退職しています。
 昨夏、鑑定書に所長の公印を無断で押していたことが発覚。鑑定結果も捏造(ねつぞう)していました。
 当初、捏造が確認されたのは10年5月から2年間の7件だけでしたが、その後の捜査で98年から03年にかけ、なんと19の事件で捏造していたことが分かりました。ヤバイのは、カレー事件のヒ素も鑑定していることです」(捜査事情通)
<19件の捏造が発覚>
 県警はメディアに対し、「(研究員は)カレー事件に関わったが、捏造はしていない」と“火消し”に躍起だが、この研究員はほかの事件では、ヒ素鑑定を捏造したことを認めているという。カレー事件は状況証拠だけで死刑判決が確定した異例の事件。ヒ素の鑑定結果が疑わしいとなれば、事件は根底からひっくり返る。取材を続けているライターの深笛義也氏が言う。
「判決の決め手になったのは、カレー鍋などに付着していたヒ素と、林真須美の兄が保管していたドラム缶のヒ素が“同一である可能性が極めて高い”という科学鑑定です。
 しかし、ヒ素については、ヒ素の入った箱がキッチンの目立つ場所に置いてあったなど、当初からいくつも不自然な点が指摘されていました。夫の林健治氏が『真須美は金にならんことはやらん』と繰り返し主張しているように、なぜ、殺害したのか動機も解明されていません。科捜研の捏造研究員の退職で、真須美弁護団の再審請求がますます強まるでしょう」
 せめて再鑑定はすべきじゃないか。

「日刊ゲンダイ」2013年1月4日

 和歌山県警科学捜査研究所の男性主任研究員(49)による証拠品の鑑定結果捏造疑惑で、和歌山県警は、捏造が判明した8件について、研究員を虚偽公文書作成・同行使と有印公文書偽造・同行使の疑いで書類送検する方針を固めた。
 研究員は「見栄えのよい資料にしたかった」と容疑を認めているという。
 また、研究員は、1998年に和歌山市で発生した毒物カレー事件の鑑定にも関わっていたが、県警は調査の結果、同事件に関する不正はなかったと結論付けた。
 捜査関係者らによると、研究員は2010年5月~12年6月に担当した交通事故や無理心中、変死など7件の鑑定について、上司への説明資料を作成する際、過去の別事件のデータを流用した疑い。さらに、別の交通事故の鑑定に関わる書類1件について、無断で所長の公印を押して決裁済みを装った疑い。いずれも裁判の証拠には採用されなかったという。

「読売新聞」2012年8月21日

<再審請求の行方はどうなる>
 和歌山県警に激震が走っている。捜査で押収した証拠品を分析する県警科学捜査研究所(科捜研)で、男性主任研究員(49)による鑑定結果の捏造(ねつぞう)が発覚したからだ。主任研究員は、別の事件の鑑定データを流用したり、鑑定書に所長の公印を勝手に押したりする手口で鑑定結果をデッチ上げた。県警の捜査で、10年5月~12年6月の間に少なくとも計8回の捏造が確認されたという。
 捏造鑑定書が作られていたのは、交通事故や無理心中、変死などの事件。虚偽公文書作成・同行使容疑で捜査している県警は、これらの鑑定書について「内部の説明資料」「鑑定自体には問題なし」と平静を装っているが、とんでもない話である。「科捜研の鑑定結果は、裁判で有罪、無罪を判断するキメ手となる“超一級の証拠”です。その証拠を捏造なんて前代未聞。郵便不正事件や小沢事件で発覚した検察の捏造調書と同じか、それ以上にタチが悪い。主任研究員は『見栄えのよい資料を作りたかった』と出来心を強調しているが、証拠品に対する意識が低過ぎる。主任がこんな認識では、組織全体で捏造が常態化していたとみられても仕方ありませんよ」(元検事の弁護士)
 問題なのは、この捏造発覚が過去の重大事件にも影響を及ぼしかねないことだ。和歌山といえば、思い出すのは、98年7月の「和歌山毒カレー事件」だ。この事件では和歌山県警科捜研が当初、原因毒物を「青酸化合物」と誤鑑定する“大失態”を起こしていた。
「『ヒ素』と特定したのは、警察庁科学警察研究所(科警研)で、事件発生から9日後でした。この初動捜査の遅れが事件解明を困難にさせ、捜査の迷走を招いたのは間違いないでしょう。そのうえ、公判では、弁護人が『鑑定資料の収集、保管の過程がズサンで不透明』『保管や受け渡しの際の状況が、写真などの客観的証拠で保全されていない』と科捜研の不手際を批判しました。結局、事件は09年5月に最高裁で林真須美の死刑が確定=再審請求中=しましたが、状況証拠だけで死刑判決となった異例の事件だけに、今回の科捜研の捏造事件はカレー事件にも波紋が広がるかもしれません」(司法ジャーナリスト)
 問題の主任研究員は、85年に技術職員として採用されたというから、カレー事件当時も在籍していたことになる。今回の捏造発覚で、林真須美の弁護団は再審請求の攻勢を増すだろう。今ごろ、和歌山県警は頭を抱えているんじゃないか。

「日刊ゲンダイ」2012年8月17日

 もう、取り付く島もない。必ず証拠品の再分析を含めた再審を行う必要がある。

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