Let it be

夜が好きだ。陽が落ちて、あたりが静寂に満ちる。聞こえるのは、励ますように鳴く虫の声だけ。心が揺れだすのを感じる。

ずっと、朝が好きだと思い込んできた。太陽のように生きなければと思っていたから。世界を明るく照らす太陽のように、人々のくしゃくしゃな笑顔を思わせる太陽のように。

もちろん、朝は好きだ。何もかもが真っ白で、何もかもがまぶしく、何もかもが新しく、すべてに希望が満ちた朝。

それでもわたしの中のそれはどうしようもなく夜を求め、夜はわたしの心をいやおうなく躍らせる。グレーの空に厳かにたたずむ水色の空と、漂白されたようにきっぱりと光る白い雲。突如現れる、真珠のような一番星。わたしは、タバコの灰が落ちるのも構わず、その神聖なたたずまいから目をそらすことができない。

徐々にともされる家々の灯り。どうしようもなく帰りたくなってしまう。あの温かくなつかしい灯り。

わたしは闇の中、孤独に一人たたずむ。ここが、わたしの居場所だ。こここそがわたしの居場所。ここからでないとなにもはじめることができない。わたしの源。わたしの、わたしだけのための深く優しい闇。果てしなく続く静寂と、柔らかく厳しい月の光。

ずっとこのままで。永遠にこのままで。果てしない、わたしの祈り。ひどく傷つき、疲れ果てたわたしの身体。大きな旅を終え、ひとまわりして、やっとここへ帰ってきた。ばらばらだったわたしはようやくひとつになり、光を纏う。闇の中でこそ、それは際立つ。わたしは祈り続ける。罪を償いつづけた過去のわたしを。永遠に赦し続ける慈愛に満ちたこの柔らかな世界を。