【ショートショート】彼方此方(1148文字)
冬になった。葉も急いて紅を脱ぎ落とし、空中は乾燥した冷気を張り付かせ、その前の長引く残暑からのだらだらした季節移しの怠慢を取り戻すかのような帳尻合わせの冬の上を、僕に歩かせる。
どこともなく彷徨う歩幅はしかし一定で、目的地が決まっているようなリズムを刻みながら、家の近所を、見知った街並みを、電波が弱く遅延する動画のように歩く。
「キミはあちらにいなさい」という教授の言葉がリフレインしていて、先程からの耳の悴んでいるのが、気温に対する肉体の反応か、言葉による精神的反応かはわから