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メインコンテンツ:ショートショート、書評、映画評、思索、詩作 (Instagram、フィルマークスなんかの集積場)

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    映画の感想。フィルマークスの転載が多めです。

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    読んだ本の感想を読みやすくネタバレ無しでざっくり書き記しています。

最近の記事

【映画評】TAR

(フィルマークスにて、2023.7.5.) 難解だ。 世代間のギャップ。 自己研鑽すればするほど他者とズレていく。 ズレと苦悩。不安。 革新性を追い求める為の代償は犠牲を伴うのに、ストイックにそれを遂行すればするほど追い求める理想は現実を置いてきぼりにする。 人間のヒューマニズムのダメなところに足を取られ、でもそのヒューマニズムこそが芸術性の肝で、才能の影の側面がフォーカスされがちな昨今、芸術にはつきものとされてきた非人間性的なものも、改めなければならないのだとも思

    • 【映画評】 落下の解剖学

      オチのつけ方素晴らしい。 法と倫理のせめぎあいだし、 結局のところ心一つじゃね? という面では、 形骸化したお役所的お芝居に成り下がるリーガル。 リーサルウェポン息子のスイッチ。 は、じゃあどっちに傾いて、それはなぜ? そしてその解釈は正しい? そこら辺はオープンクロージングで観るものに委ねられてるけど、いやぁ、それはそっち選ばないのはナンセンス。 途中までほんとTwitterのクソリプ合戦で観てられなかったし、そんなクソリプの応酬になるともおもってなかった

      • 【ショートショート】散歩(1907文字)

         画面に向かうと、途端に何も出なくなる、空白なのに、逆に全て埋まっていて余白の無い原稿のような、白色があって、どうして良いかわからなくなる。散歩の時は脳内で誰か分からない人の会話が起こる。書き始まりが10は思いつく。するってぇと何かい、画面に向き合うことは無駄ってことかい、そうではなく、おそらくタイピングスピードが遅いのだ。変換するOSの拙さもある。特にiPadの誤変換はえげつない。ファーストチョイスがそれかよという変換がたびたび起こる。そうはいっても、こんなことを書いている

        • 記号

          雑然と積まれた記号 一、二番目だけが目的の運河に流れ 悟った商人の嘆 慟哭は地べたに圧着する 霧がかる沙羅双樹の裏手で告白するメダカ 対面する雛菊はこともなげに直進し 或る方法論からすれば好手 テールランプの紅がU字を描く ホテルの屋上に根差した ブルックリン流行のロリータスタイル ヘルベチカで綴られた愛も 欺瞞も誓約書の血判も 全て終わりだと笑い 次の台風の名前を予測するゲームに興じる 清浄なる真意さえ コンクリートを揺らす材料にはならず 絶え絶えになった脳裏の近未来が

        【映画評】TAR

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        記事

          【ショートショート】名前

          人間としての生命維持を最小限に配し、 脱資本主義社会の一歩を踏み進めると共に、 物理的には歩を止めている。 精神的自己は電脳に張り巡らされ、 分割された自我は世界を闊歩している故、 決して世界と隔絶されている訳ではなく、 寧ろ積極的に他者と関係性を構築している分、 世間一般的な人間よりコミュニケーション能力や情報伝達力に於いて秀でている。 私は国民という概念に属しておらず、 宇宙生命体の一個体として存在を認識しているから、労働の義務や個を埋没させる歯車や潤滑油のような

          【ショートショート】名前

          ワールズエンドクラブを一度プレイしてみてほしいって話。

          極限脱出シリーズ、ever17などインフィニティシリーズの打越鋼太郎と、 ダンガンロンパシリーズの小高和剛がタッグを組んだアドベンチャーゲーム。 インフィニティシリーズ、特にever17にやられた人間にとって、このゲームの冒頭の舞台である海底遊園地を見ると、期待せずにはいられない。あの時の衝撃の追体験を。 そんな消費者心理を突くように、そしてその思惑の斜め上にストーリー展開する肩透かしからの引き込みに、結局またぐんぐんドツボにハマる。 リリース当初、小学生がデスゲ

          ワールズエンドクラブを一度プレイしてみてほしいって話。

          【ショートショート】彼方此方(1148文字)

          冬になった。葉も急いて紅を脱ぎ落とし、空中は乾燥した冷気を張り付かせ、その前の長引く残暑からのだらだらした季節移しの怠慢を取り戻すかのような帳尻合わせの冬の上を、僕に歩かせる。 どこともなく彷徨う歩幅はしかし一定で、目的地が決まっているようなリズムを刻みながら、家の近所を、見知った街並みを、電波が弱く遅延する動画のように歩く。 「キミはあちらにいなさい」という教授の言葉がリフレインしていて、先程からの耳の悴んでいるのが、気温に対する肉体の反応か、言葉による精神的反応かはわから

          【ショートショート】彼方此方(1148文字)

          構造と力

          #構造と力 #浅田彰 結論から言うと、思考停止の予定調和のパラノイアックなクラインの壷には入るな、コンフォートゾーンから抜け出せ。というのが言いたかったのでしょうか。 序文のノリつつシラけ、シラけつつノル。 というのは、常識(象徴秩序=構造、コード)を理解した上で、非常識な行動選択をしてこうぜーという啓蒙か。 現代は簡単にいえば、 コード化→超コード化→脱コード化→脱脱コード化と言ったところか。 SDG'sはこの脱コード化にネガティヴプロンプト(やってはいけ

          構造と力

          あぶくの城 ~フィリップ・K・ディックの研究読本~

          #あぶくの城 フィリップ・K・ディックの研究読本 北宋社/83年 SFの巨頭が亡くなって1年後に刊行された本書。 ブレードランナー放映の熱冷めやらぬうちを縫って、 氏の全著を哲学、社会学、宗教学、形而上学、心理学、神学、科学とあらゆる見地から解剖していき、 現実と照らし合わせている。 実はディック作品を読んだことがなく、 映画とドラマをちょろっと観たくらいのくそにわかのまま研究本を読むのはどうなんだろうか? いや、逆に一切の予備知識を持たぬまま(厳密に言う

          あぶくの城 ~フィリップ・K・ディックの研究読本~

          書評 世界はなぜ地獄になるのか

          #世界はなぜ地獄になるのか #橘玲 ドリルを売りたいなら穴を売れ。 免罪符を売りたいなら地獄を売れ。 世界はなぜ地獄になるのかを知りたいなら、この本を買え。 地獄とは、全人類に高理解度を要する社会主義の軋轢なのかもしれず、一歩踏み違えると大衆の狂気から成る怒涛のキャンセルという地雷を踏む可能性を孕んだ現代の一側面ではある。 しかしその地獄ゲームを敷いているのも人間で、そこから逃れる為のリテラシー(免罪符)もまた、人間によって用意されている。 それは結局資本主

          書評 世界はなぜ地獄になるのか

          【映画感想】ジョーカー2の本質考察

          「アーサー、ジョーカーやめるってよ」 ダークカルトヒーローとして、 熱狂乱巻き起こす教祖的偶像的道化ではなく、 赤スーツとピエロの化粧を置く山口百恵で、 その先に巻き起こる現実。 殺人を犯した重犯罪者という厳然たる事実に直面し、 裁きを受ける、というあまりにアンドラマなシリアスを真っ向から打ち、 ジョーカーがジョーカーを俯瞰し、メタ構造を作る。 一人の男として、一人のジョーカーファンの女を愛し、 ロマンチシズムのシロップ漬けに耽溺し、 悪の華の香りに偽られた自己評価と他

          【映画感想】ジョーカー2の本質考察

          〈映画評論〉ナミビアの砂漠

          うーちょっとグロい。 わかりみ深過ぎて、と書くと何を分かっているのか、本当のところ何も分かっていないのではないか、わかるわからんとか二元論じゃなくて、ふけーふけー深淵なのか、ただのあるあるのクソ怠惰なリアリズムなのか。 それか、それの"定点観測"に過ぎないのか。 映画として提示されているのは、 タイトル通りの目論見なのだと思うし、 そこにかんして、ナラティブの文脈には無く、徹底的な俯瞰、三人称視点のドライな目。 ただ在る感情と行為と多層的レイヤーによる現代人のペルソナ

          〈映画評論〉ナミビアの砂漠

          〈書評〉シュルレアリスム宣言

          「感想」 刊行100周年とどっかのネット記事で見かけて、積読していた本書を手に取る。 ライフワークとしてシュルレアリスムに関して調べていて、いつかは読まなければ、が今に至る。 訳者解説にもあるが、シュルレアリスム宣言自体は、もともと溶ける魚の序文としてあった。 溶ける魚の執筆(編纂)後に、宣言として立ち変わった。 訳者曰く、シュルレアリスムは、「非理性主義あるいは非合理主義ではない。むしろ偏狭な「絶対的合理主義」にうちかとうとする「運動」なのだ。」とある。 既知を用い

          〈書評〉シュルレアリスム宣言

          〈書評〉成瀬は天下を取りに行く

          Score(0.1~5):3.7 —————— thoughts : 一言で言えば「天才というポジショニングからみた凡人の貴重さ」 M-1出場.西武閉店残り30日毎日テレビ出演.マジック.東大オープンキャンパス.かるた部入部で快挙...etc... 圧倒的主人公感を、その人以外の視点から照らして、ラスト、その人本人の視点で語られる。 そのギャップにシビれる憧れるーが、 そのまた逆にはシビれて憧れてしまう。 詰まる所、人間というものの良し悪しなんてものはプラマイゼロで、長

          〈書評〉成瀬は天下を取りに行く

          〈書評〉若山牧水歌集

          Score(0.1~5):3.4 —————— thoughts : 恋の歌、酒の歌、旅の歌、 息子に旅人とつけるくらいだから、きっと旅は氏にとって思い入れの強い事柄なのだろう。 解説の中で、良い短歌とはなにか? という問いに対し、誰しもの共通項になり得る共感力の高い歌が良い歌、そしてさらに、 そこに深い洞察、示唆、訓示のようなものがあればなお良し、ということが言われていた。 禿同。 個人的にはそこに加えて、31文字の中に、 ・一眼レフで撮った20MBほどのraw規格の写真

          〈書評〉若山牧水歌集

          〈書評〉みどりいせき

          Score(0.1~5):3.9 —————— thoughts : フィクションと言い切って仕舞えば、 ブリってる描写も表現の自由に守られて、 でも主人公は知らずかかずったわけで、なんていう倫理的守り。 ジュブナイル、現代版不良遊び。 世のティーンのリアルか言われたら、 嘘と言いたい。 でも一方で、こんな事だってある。 起こりうる。 タコピーの原罪や、チェンソーマン的時代性の切り取り、冷えた目、生活、学校、外、大人、幼馴染、野球、青春、裏っ側のどんつき、が同居する学校、

          〈書評〉みどりいせき