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失業中年アライさんの日常

『今日は雪が降ってるでアライ!綺麗でアライね!』

 語尾がおかしい失業中年のアライさんが西川口の道の駅に停められた車に積もった雪を写真に撮ってTwitterにあげる。いつものメンバーからいいね!が数個つく。それをアライさんは何より楽しみにしていた。

 アライさんが車上生活をするようになって長い。誰とも話さない日も少なくない。最近は日雇いだって少なくなり、日々の生活は寒さもあってより厳しい。アライさんにとってTwitterだけが社会との接点であり、世の中と繋がっているのだ!けして1人で生きているわけではないのだ!と思えるいわば希望を失わないための生命線であった。

 そんな語尾がおかしい失業中年のアライさんがなるべく毎日かかさずやっていることがある。それは近くにあるコンビニのコーヒー(Sサイズ)を毎朝飲むことだ。…食うに困る日々送ってるのにコーヒー飲んでる場合かよ!と思う人も多いだろう。だがコーヒーの香りはむさ苦しい車の中を文明の香りで満たし、無料のシロップを店員に怒られない程度、なるべくたっぷり入れることでアライさんに元気を与えた。ただ食って寝るだけでは人は人らしさを失ってしまう。アライさんはそれを知っていた。だから1杯のコーヒーを大事にゆっくり味わって飲むのだ。

 そして道の駅の無料のWifiを使って、電話代滞納のため電話出来なくなったスマホでニュースを見る。日を追うごとに日本も、世界もカオスになっていく。共通の敵が出来れば人類は1つになる!ハリウッド映画でよく観た展開だ。だが現実は映画とは違う。2022年にもなろうというのに国同士のいざこざも絶えず、人々の間でも些細なことでいざこざが絶えない。車は空を飛んでないし、銀色の高性能の服だって人々は着ていない。疫病が世界を蝕み続けている。

 『これ以上はニュースを見るのをやめとくでアライ…暗い気持ちになってきたので音楽を聴くでアライ!』

 アライさんはイヤホンを取り出し一番好きなアン真理子さんの歌を聴き始めた。

 『明日という字は明るい日と書くのね~♪』

 そうとも!明日はきっと明るいのだ!!そうアライさんが信じ雪の降り仕切るなか車の暖房をつけた時、ウクライナにはロシアからの砲爆撃の嵐が降り注いでいた。

 

 


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