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2. 20-21のイリアス 「飛び級」


飛び級でフベニールAへ

2019年末から報道されていた通り、イリアスは2020年7月6日に無事契約延長して残留が決まった。

そして、新シーズンではフベニールBをスキップして、カデテAからフベニールAへの飛び級を果たす。今季フベニールAに所属している23人のうち、2004年生まれはイリアスと同様に飛び級したアルメイダ(CB)、ガビ(CMF)、アラルコン(左WG)に加えて、ラージョ・バジェカーノから引き抜いてきたルッツィ(CF)の5人だ。

背番号10

そして迎えた9月のプレシーズン、イリアスは背番号10のユニフォームを着ていた。

バルサの男子サッカー部門では、固定背番号制なのはトップチームとバルサBのみで、ラ・マシアは変動背番号制を採用している。つまり、各試合でスタメンの選手が1~11番、ベンチの選手は12番以降を付けることになる。サッカー界にはフォーメーション・ポジションに対応した背番号の慣例があるので、ラマシアの試合はスタメンリストを見るとその日の配置が予測できるのだ。
(一方、変動背番号制のデメリットとして、選手たちの名前・顔・プレースタイルを覚えるまでは、試合を見ていてもその選手が誰なのか分からないことが挙げられる。ある程度覚えるまでは、その日のメンバーリストを見ながら試合観戦するのがおすすめだ。)

背番号10は、4-1-2-3だとインテリオール、4-2-3-1ならトップ下となる。フベニールAでの1年目、イリアスは右WGではなくトップ下で始まることとなった。
なぜ本職で起用されないのか?それには2歳年上のFWジャルディの存在が影響している。昨季からフベニールAで活躍していたジャルディと、飛び級で昇格してきたイリアス。左利きで本職右WGの優秀なアタッカー2人をどう共存させていくのか?これが今季フベニールAの監督だったフランク・アルティガに与えられた課題であった。

いきなりのバルサBデビュー!

10月8日、イリアスは突如バルサBの練習に呼ばれる。

そしてその週末の10日、バルサB最後のプレシーズンマッチ、コルネジャ戦で後半開始から出場する。セグンダBの相手にも堂々とプレーし、存在感を放っていた姿に嬉し涙を流していた。鹿島アントラーズのファンでもあり、安部裕葵のことを鹿島所属当時から好きであった私にとって、2人が両翼で共演した後半45分間は至福の一時であった。このコンビをせめてもう一度見たいものだ。

11月7日、セグンダB第4節(1試合延期のため、シーズン3試合目)アンドラ戦でバルサB公式戦スタメンデビューする。エースでキャプテンのコジャドが昨季末の負傷からまだ復帰できていなかったこともあり、2試合後のオロト戦でもスタメン出場した。

勝利が遠かった2020年

しかし、ここからしばらくイリアスは結果に見放される時期が続く。
2018年にUEFAユースリーグで優勝し、昨季セグンダA(2部)昇格まであと一歩のところまで迫った1999年生まれの選手たちの多くがシーズン前に卒業していき、チームの再構築中だったバルサB。
イリアスとジャルディの共存のため4-2-3-1(文中の順にトップ下、右SH)、中盤ダイヤモンドの3-4-3(右WG、偽9番・トップ下)、4-1-2-3(右WG、偽9番)と次々にフォーメーションを変えて最適解を模索していたフベニールA。
この2チームを行き来するイリアスは、アンドラ戦以降まとまった出場時間を得た試合で6試合連続勝ちなしだった。

12月12日、フベニールAでのコルネジャ戦で今季初アシストを記録し、ようやくチームの勝利に貢献する活躍をした。

だが、続く23日のエスパニョール戦(ミニデルビ)に敗れ、フベニールAは復調の兆しが見えないまま2020年を終えた。

「バルサの」インテリオール

年が明けて2021年、アルティガ監督はフォーメーションをラ・マシアで慣れ親しまれている4-1-2-3に定めた。これによって1月は4戦全勝、得点14・失点2と、ようやく不調を抜け出し、本来の実力を発揮し始めた。

ただ、この上昇気流に乗り切れなかったのが、他ならぬイリアスである。
2002年生まれのCFディエゴ・ロペスが怪我から復帰したことで、偽9番をやることもあったジャルディが右WGへ、右WGだったイリアスが右インテリオールへとポジションを移された。
ドリブル以外にもいいものを持っているとはいえ、イリアスはまずドリブラーである。育成年代といえどもバルサ相手には引いて構えてくるチームも多く、中央から攻撃しようとするとあまりスペースはないし、相手を抜いてもすぐにカバーされてしまうので、ドリブルが有効な局面は少ない。
イリアスがボールをもらうと、1stタッチで足元にボールを置いてドリブルのコースを探すが見つからず、方向転換して、パス。1プレーに3タッチ以上使うことが多く、攻撃のリズムを乱しがちだった。少ないタッチでボールを動かしゲームメイクする「バルサの」インテリオールには向いていない、と思わずにはいられなかった。

スタメン落ちからの…

1月最後の試合、リーグ最下位のビジャカルロス相手に、フベニールAは数人ローテーションして臨んだ。前半だけで5得点と圧倒し、その主役だったジャルディはハットトリックでお役御免となる。代わってイリアスが右WGに入ったが、せっかく本職で起用してもらえたにもかかわらず、ゴールの近くでプレーしようと中央に入り込んでしまうことが多かった。
フベニール1年目ながら中心選手として活躍する同世代のガビやアラルコンの影響か、結果を焦ってイリアス自身の良さを発揮できなくなっていた。

2月7日のダム戦、ついにイリアスがスタメンから外される。
UEFAユースリーグの開幕まで残り1か月を切り、課題だったイリアスとジャルディの共存を諦めて、フベニールA全体での最適解へ仕上げに入ったかに思えた。しかし、前半で0-3と今季最悪の出来で試合を折り返してしまう。ハーフタイム、たまらずアルティガ監督はイリアスを投入した。
そして、待望の瞬間が訪れる。ペナルティエリア外から左足を強振すると、そのミドルシュートが相手DFに当たってコースが変わり、ゴール左下に吸い込まれていった。ラッキーな得点ではあったが、イリアス本人にとって非常に大きな今季初ゴールとなった。

試合はこのまま1-3で敗れてしまったものの、後半の反撃を牽引していたのは間違いなくイリアスであった。

セルジ・ミラとの再会

2月17日、UEFAは今季のユースリーグを中止すると発表した。
するとその影響か、アルティガがシーズン中ながらラ・マシアを去り、UAE U-21代表の監督に就任する決断をする。2月24日、後任のフベニールA監督に、昨季からカデテAを指揮していたセルジ・ミラが昇格した。イリアスなど04世代にとっては、約1年ぶりの再会となる。

ジャルディが怪我で欠場している間に、イリアスは右WGでの出場機会を得た。ダム戦のゴールで余計なプレッシャーから解放されて、1月末とは異なる彼らしいプレーを見せられるようになり、結果もついてきた。

セルジ・ミラ新監督は、ジャルディを右インテリオールに移し、イリアスをそのまま右WGで起用し続けた。ようやくこの2人を共存させる方法に答えが出たようだ。

決戦 vsエスパニョール

ダム戦の敗北に監督交代もあったフベニールAだったが、年明け以降の好調を維持して、とうとう首位エスパニョールと勝ち点で並んだ。そして迎えたサブグループ最終節は、そのエスパニョールをホームに迎えた首位決定戦ミニデルビとなる。
結果は0-4の大敗。ガビの負傷欠場などが響き、新監督にとって非常に痛い初黒星となってしまった。

イリアス個人としての出来は良かった。
ドリブルで相手を抜き去り、ボールを前進させる。1対1の局面では高確率で勝利してくれるので、イリアスにボールを預ければ、チーム全体が身体的にも精神的にも前を向くことができる。この試合やダム戦のように、イリアスはチームが苦しい時こそ真価を発揮できる選手である。

とはいえ、チームの結果にはつながっていない。イリアスとジャルディの共存が本当にフベニールAの最適解なのか、未だ答えの出ないままシーズン終盤へと突入することになってしまった。

試合後の出来事にも触れなければならない。この試合から、家族・親戚に限り育成年代の試合を観戦することが許可された。だが、もう勝敗は決した試合終盤にもかかわらず、不利な判定に対して口汚い野次が飛んだ。イリアスは試合が終わってからスタンドへと歩いて向かっていき、審判に敬意を払うよう観客に求めたそうだ。

悔しい敗戦の中でも、ピッチ内外で中心選手としての振る舞いを見せたイリアスだった。

20-21シーズンのリーグ戦大会方式

今季のバルサBやフベニールAのシーズンは3段階に分かれている。
約20チームで構成されるグループが、セグンダBでは5つ、Division de Honor Juvenil(フベニール年代のトップリーグ)では7つある。そのグループをさらに2つに分けて、10チームほどのサブグループの中でホーム&アウェイのリーグ戦を行った。これがもうすでに終了済みの第1フェーズである。

サブグループでの順位によって、グループ全体での順位決定戦の組分けが行われた。
グループ3-Aで2位のバルサBは、3-Bの1~3位とホーム&アウェイで6試合戦う。
同じくグループ3-Aで2位のフベニールAは、3-Bの1~5位と1周総当たりで5試合戦う。これが現在開催中の第2フェーズである。

第1フェーズの成績に第2フェーズの成績が加算されて、最終的なグループ全体での順位が決まる。
セグンダBは、各グループ1~3位+4位の5チーム中一番成績の良かったチームの16チームによる昇格プレーオフで、2部行きの切符4枚を懸けて争う。
Division de Honor Juvenilは、各グループ1位の7チームでCopa de Campeonesを行い、優勝チームを決める。
今季を笑顔で終えられるかの分かれ目となる、一発勝負のトーナメント戦だ。

第2フェーズ、そしてその先へ

フベニールAでの第1フェーズを終えたイリアスは、第2フェーズが始まるまでの間バルサBに招集され、サブグループ最終節バダロナ戦で4か月ぶりの出場を果たす。

バルサBの第2フェーズが一足先に始まり、先週もバルサBの練習に留まっていたので、シーズン終盤にして本格的にバルサBの一員となるのかと思われた。だが結局、週末になるとフベニールAの第2フェーズ初戦に合流した。

セグンダBグループ3は、昨季バルサトップチームとコパ・デル・レイで対戦したイビサが首位を独走している。現在2試合を終えてバルサBは3位で、3-Aだった3チームが勝ち点37で並んでいる。


フベニールAはエブロ相手に第2フェーズを白星発進した一方で、エスパニョールは敗れた。それにより、直接対決で開いてしまった勝ち点差3が再び0になった。その後ろを3位サラゴサが勝ち点差2、4位タラゴナが勝ち点差3で追ってきている。

次のステップに進めるのか、どちらも最後まで分からない僅差の戦いになりそうだ。

4月16日

公開日4月16日は、シーズン終盤のまだ結果が出ていない時期であり、今後「今季のイリアス」を書いていくにあたって都合が悪い気もする。それをポジティブに捉えるなら、この記事をきっかけとしてイリアスが所属するチームの結末に興味を持ってもらえるととても嬉しい。

まずは、今季バルサBとフベニールAの結末はどうなるのか?
そして、来季イリアスはバルサBにどれくらい絡んでいけるのか?
さらに、ユースリーグで欧州全土にその名を轟かすことはできるのか?
このあたりを楽しみにしながら、そろそろ筆を置くことにしよう。

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