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i.lab社内R&D 「Voice Mask」プロジェクト:連載⑥ ユーザーインタビューの準備

こんにちは、i.labです。

特許取得を機に活動を再開したi.lab社内の取り組み「Voice Mask」プロジェクト。連載第6回目の今日は、ユーザーインタビューの準備についてです。

前回(既存商品のベンチマーク編)の記事はこちら↓

ユーザーインタビューの概要

ユーザーインタビューの分類
生活者を対象に行うインタビューは、その「目的」(アイデアの気づきを得るものなのか⇔アイデアの完成度を高めるためなのか)と「調査対象者」(一般よりか⇔極端よりか)によって、上図のように4つに大別することができます。

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左下の「既存ユーザーインタビュー」は、既存製品やサービスに対して一般的に感じられている価値や課題を確認するために行います。現在の事業領域や市場の概観、今後の見通しを掴むことができます。

左上の「エクストリームユーザーインタビュー」は、未来の社会課題や機会領域、アイデアの方向性について洞察を得るために行います。極端な生活様式や行動習慣、価値観を持つ対象者との対話から、マクロ調査ではわからない未来の兆しを捉えることができます。

右上の「先端ユーザーインタビュー」は、アイデアの持つ特徴や価値、利用シーンについて、新規性や有効性を確認したり、課題を発見するために行います。新規製品やサービスに対して興味・関心度合いが高く、真っ先に購買/利用する層(=ムーアのキャズム理論で言うイノベーターやアーリーアダプター)が対象です。今回実施するインタビューはこのユーザーインタビューに該当します。

右下の「想定ユーザーインタビュー」は、アイデアの持つ特徴や価値、利用シーンについて、一般的な需要性を確認したり、課題を発見するために行います。

実施時間・方法と対象者の人数

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ユーザーインタビューは、最大90分程度の時間をとって対面で実施します。あらかじめ用意した質問を投げかけてYES/NOの回答をもらうだけならアンケートに答えてもらうだけで事足りてしまいますね。ここでは、仮説をもとに用意した質問をユーザーに投げかけて、実際にプロトタイプを触ってもらいながら双方向の会話をする中で、ユーザーがどんな感情を抱き、どんな背景(ユーザー自身の日常生活や行動習慣、経験など)をもとに発言をしているのか、一つ一つ確かめながら(時には表情の変化も探りながら)言葉の裏にある真意や行間を紐解いていきます。

インタビュー対象者は3〜5人が適切です。6人以上になると情報が発散し改善の方向性を見失ってしまいますし、また3人未満になると大切な点が絞れず改善の方向が見定められなくなってしまいます。

ユーザーインタビューの準備
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ユーザーインタビューに向けて準備することは以下の3つです。Voice Maskを例にして一つ一つ具体的に掘り下げていきましょう!

❶インタビューの検証項目と質問項目出し
❷インタビュー対象者属性と対象者候補探し
❸アイデア説明用のプロトタイプと紙資料の準備

❶インタビューの検証項目と質問項目出し

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写真はオンラインコラボレーションツールのmiroを使って、インタビューの検証項目と質問項目出しのワークを行った結果です。アイデアの完成度を上げる螺旋状プロセス一周目の今回は、ユーザーにとっての提供価値やユーザー自身の具体化をすることに注力することにしました。下記は今回議論した検証項目と質問項目の具体例です。

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現況での行動や感じている課題、大きさ・デザインといったアイデアの細部、それから本アイデアの価値とは一体なんなのかといった質問を、検証したいことを念頭に入れながら書き出していきます。その際はどのような問いかけをすると、どのような回答がもらえるか。それを受けて次にどのような質問をするか。頭のなかで実際のインタビューの流れをシミュレーションしながら項目を書き出していきます。

Voice Maskの提供価値や特徴、購買意欲の検証
・Voice Maskのどんな点が新しいと感じるか。
・Voice Maskの特徴を3つ挙げるとしたらどんな点か。
・完全にノイズキャンセルされる必要があるか。ノイズリダクションでも十分か。
・Voice Maskが発売されたら購入したいか。いくらまでなら出したいと思うか。
など

ユーザー像の具体化と課題・ニーズの検証、利用シーンの検証
・コロナ禍の前後においてどんな働き方の変化があったか。普段どのようにオンラインミーティングを行っているか。
・(自宅やカフェ、大部屋オフィスなどで)オンラインミーティングする際の困りごとは何か。その悩み事を解決するために現在行っていることはあるか。
・自身の行動習慣を振り返ってみて、どんなシーンでVoice Maskを利用したいと思うか。今そのシーンでは何をしているか。
・あなたの身の周りの人でVoice Maskを利用しそうな人はどんな人か。
など

❷インタビュー対象者属性と候補者候補探し

アイデアの完成度を効率的に高めていくためには、ユーザーインタビューの対象者探しは重要なタスクの一つです。では、3〜5人程度と実施できる人数に限りがある中で、どのような人を対象者として選ぶと良いのでしょうか?

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i.labでは、1)アイデアの先端ユーザーになりそうな属性かつ、2)言語化能力の高い人(自分の価値観や感覚的に感じたことなどを言葉にして適切に他人に伝えることができる人)、つまり上図の右上の象限に当てはまる人を探すように心がけています。限られた人数、限られた時間の中で、アイデアに対するフィードバックを効率的に得るための工夫の一つです。

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Voice Maskの先端ユーザーの属性と対象者候補についても、miroを使って議論しました。

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属性1をクローズアップ

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属性2をクローズアップ

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属性3をクローズアップ

上のmiroを拡大したイメージをご覧ください。最初は、在宅ワークの人、営業の人といったざっくりとした属性からイメージします。次に、その人の具体的な生活シーンを想像しながら、「具体的な課題やニーズ」を書き出していき、アイデアが真に必要とされる利用シーンをイメージしていきます。

例えば、在宅ワークという属性の人から「共働きの夫婦が二人同時にオンラインミーティングすると、大変そうだなあ」とか、「在宅ワーク時に部下を叱責するときはどうするんだろう、会社での顔を家族に見せたくないだろうなあ」といった具体的な課題・ニーズの仮説が浮かび上がってきます。それらを通じでインタビュー対象者属性を具体的にしていきます。

以下順番に各属性について議論したことを共有していきます。

属性1:大部屋オフィスでオンラインミーティングしづらい人

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普段の生活、行動習慣
・コロナ禍の今でも出社する頻度が高いビジネスパーソン。
・オフィスは大部屋レイアウトになっており、日常的に社内外の人とオンラインミーティングを行う。
・壁で区切られた個室のないシェアオフィスで働く。

課題・ニーズ
・周りの会話が気になると同時に、自分の会話が周りに聞こえている/聞こえすぎているのではと心配になる。
・同僚のオンラインミーティングの声がうるさいと感じている。消音でなくても声量が小さくなればいいなと感じている。
・同僚とオンラインミーティングが重複した時に、声が入り込んでくる/ハウリングする。
・会議室の場所確保が必要だが、いつも空いている訳ではなく、仕方なく次席でオンラインミーティングすることも多い。

属性2:コロナ禍で在宅ワークが主流になった共働き家庭(子どもあり)

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普段の生活、行動習慣
・コロナ禍において在宅ワークが主流になったビジネスパーソン。
・夫婦で共に在宅ワークをしている。
・自宅に書斎スペースがない。または、あるにはあるが閉空間ではない。
・ダイニングテーブルなど、家庭内の共有空間で仕事をしている。

課題・ニーズ
・自宅でオンラインミーティングすることが、他の家族の迷惑になると感じている。夫婦共働きのため、オンラインミーティングが重なると大変。話し声に反応して子どもがフレームインしてくることもある。
・自宅で家族に家族に仕事上の話を聞かれたくない(仕事の話を聞かれたくない/仕事の顔と家族への顔にギャップがあり、それを家族には見せたくない)
・仕事以外でも家族にあまり聞かれたくない会話がある(オンライン英会話、オンラインゲーム/飲み会、長電話等)

属性3:外出/出張が多く、出先で打ち合わせ場所が必要な人

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普段の生活、行動習慣
・オフィスはあるが外出時間の多いビジネスパーソン(営業職や顧客とのミーティングが多い、出張が多い)
・フリーランスなど仕事場を選べる働き方をしている。カフェやコワーキングスペースで仕事をすることが多い。
・外で働く際の機密性は一応気にしていて、ラップトップのスクリーンフィルターを利用している。公共の場で話しにくいことは、一旦席を外して静かで周りに人がいない場所で電話することが多い。

課題・ニーズ
・公共の場で機密性の高いオンラインミーティングをすることに躊躇いがある。
・オンラインミーティングのための場所探しに奔走することが多い。そのためにわざわざ会社や自宅に戻りたくない。新幹線やタクシーなどの移動時間にミーティングをしたいなと感じている。

❸アイデア説明用のプロトタイプと紙資料の準備

i.labが実施するユーザーインタビューでは、短時間でもユーザーが十分にアイデアの内容を理解できるように、プロトタイプに加えて、アイデア説明用の紙資料を用意します。この紙資料の特徴は、パッとみて理解してもらうために、無駄を一切省いた端的なテキスト情報と視覚的に製品や利用シーンをイメージしてもらうための写真や絵です。インタビューの検証項目や質問項目、対象者属性について議論している時の仮説をもとに、適切かつ端的に伝えられる言葉やビジュアルイメージを厳選していきます。プロトタイプも含めてどのような順番で伝えるかもこの時一緒に考えます。

以下はVoice Mask用に作成したアイデア紹介資料です。

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いかがでしたでしょうか?本エントリーでは、ユーザーインタビューの準備についてお話しました。次回はいよいよユーザーインタビューの実施、およびその結果についてです。次回の更新もぜひお楽しみに!

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i.labでは、Voice Maskの実現に向けて一緒に協業していただける技術者や研究者、企業を募集しています。ご興味がある方は以下までお問い合わせください!

問い合わせ先
メール:h-suzuki<at>ilab-inc.jp
担当者:i.lab ビジネスデザイナー 鈴木斉