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AZ-1の死亡事故率は本当に高いのか?AZ-1の都市伝説に迫る

マツダから1992年に登場した軽自動車「AZ-1」は、ガルウィングやプラスティックを使った外装といったその特殊性と、生産台数の少なさ(AZ-1、スズキ キャラ※1を合わせて5000台程度)からか、さまざまな都市伝説が生まれました。こうした伝説は90年代はもちろん、現在に至るまで増え続けています。
なかにはAZ-1を事故を起こすと死亡率の高い「走る棺桶」などというものまであります。今回はAZ-1は本当に死亡率が高いのか、詳しく見ていきます。
※1 スズキから「キャラ」と名称でも発売されました。

死亡率が高い「走る棺桶」と言われるAZ-1

AZ-1の死亡率が高いと言われはじめたのは、98年頃ではないかと筆者は記憶しています。当時、保険会社が任意保険料を決めるために作成した資料などとされる資料の一部や、交通事故総合分析センターの資料などをもとにしたのか、とにかく「AZ-1は死亡率が高い」「走る棺桶」などといううわさになり、一気に広まりました。現在でも、SNSなどでAZ-1と聞けば「走る棺桶」などと不謹慎な発言をされる方もいます。
その噂の発端になったと思われる資料では、「1万台あたりの死亡率」といった書き方がされ、AZ-1は統計結果として下限値「4.91台」上限値「17.68台」とあります。当時から「走り屋」に人気であった日産 180SXでは下限値「1.74台」、上限値「2.94台」となっており、ここだけを切り取るとAZ-1が圧倒的に多く見えます。

「1万台あたり」の統計から強引に毎年平均を計算してみる

まず交通事故総合分析センターの資料は概要書によると、94年〜96年を対象にしたデータであり、ほぼ全ての表でこの3年間のデータを元にして計算されているとあります。
これを前提に同表の「車両台数」を確認すると、AZ-1は「11,000台(総生産台数4,500)」とあり、180SXは「252,000台(総生産台数115,000台)」、カプチーノは「64,000台(総生産台数27,000台)」と、すべてにおいて総生産台数を上回った数字が書かれています。これは、3年間それぞれの登録台数を合計しているためです。これを3で割ることにより、各年おおよその登録台数=走行していたであろう実台数がわかります
つぎに1万台あたりの上限値、下限値ですが、この数値をもとに平均を出してみます。データが乏しく強引な方法ですが、「上限値=(平均-下限値)+平均」という式をもとに計算してみると3年間の死亡事故台数(と負傷事故台数)の平均が計算できますから、これを3で割って各年の数字になおし、さらにこの数字は1万台あたりなので、各年の登録台数をもとに、推定される実数に戻すという試みです。

94年〜96年の平均死亡事故台数で見るAZ-1

実際に計算してみた結果が次の表、推定年間平均台数実数が今回計算したものです。(2008年頃ですが…)

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AZ-1は94年〜96年の3年間で毎年1.38台の死亡事故台数、カプチーノが1.44台となりました。今回は6車種を計算していますが、当然のように生産台数が多く、登録台数も多い(=街中を多く走っている)車は、死亡事故台数が多くなっています。たとえばS13シルビアは、この3年間で各年の平均登録台数は27万台、死亡事故台数は13.70台、同様にRX-7(FC3S)は7万台中「6.89台」となりました。
この6車種のなかで、登録台数が桁違いに少ないのがAZ-1で、各年の平均登録台数は3667台です。AZ-1は94年前半には生産が終わっていてこの頃は「限定車」を販売するなど“頑張っていた頃”です。96年頃にはほぼ「新車」という情報もなくなっていましたから、登録台数としては正しく見えます。
そんなAZ-1の死亡事故台数は前述のように「1.38台」となりました。三年間で4台です。

年間1.38台の死亡事故を起こしたAZ-1は死亡率が高いのか

まず生産台数の少ないAZ-1を、生産台数の多い車種と比較するのはそもそも難しいのですが、もともとの表ではこれを他車種と同様に扱ってしまいました。統計を出すのであれば、多くのデータが集まれば集まるほど、しっかりとしたデータが出せるからです。もしこの表に「94年発売、世界限定2台!」といった車種が含まれていたとしましょう。1万台あたりとして計算するため、仮に1台が死亡事故を起こしたとすれば、その年その車種は5000台が死亡事故台数として数えられてしまうからです。
それでは強引な計算とはいえ、見えてきたAZ-1の数字「1.38台/年」をどう考えればいいのでしょうか。毎年3667台中1.38台ですから比率としては他車種よりも実際に多い数字です。また、負傷者台数も、14.26台と少なくはないように思えます。ただ、これを持って「AZ-1は走る棺桶」などと言うのは間違っています。前述のとおり、そもそもの生産台数が少なく、正確なデータが取れていないからです。この3年間で事故が多かったら増えますし、少なかったら減る、そんな数字だということは念頭に置くべきです。

では最後に他車種の数字も見てみましょう。180SXは年間死亡事故台数が「6.55台」で、S13シルビアでは「13.70台」となり、同型とはいえ登録台数の差が顕著に現れています。また、180SXとFC3Sは登録台数も近く、死亡事故台数も近いのですが、180SXのほうが負傷事故台数が多いこともポイントです。

まとめ

AZ-1の94年〜96年の年間平均死亡事故台数(推定)は1.38台でした。これは3年間で4台程度となります。この期間だけの統計かつ、少生産台数のため、単純に他車種との比較はできませんが、筆者の感想は「棺桶といわれるほど多くない」という印象です。あなたはこの数字を見て、どう感じましたか?


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