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【小説】贋作・人魚姫


この物語は実在する作品と一切関係・関連がありません。
また後味が悪い話になります。ご注意ください。


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【小説】贋作・人魚姫


あるところに青く透き通る海に囲まれた港のある国がありました。この国はとりたて平和でしたが、あまり外界との交流も少ない国でもありました。

国の中心地で一番高い建物は王の一族が住まう城でした。その建物のてっぺんからやっと目を凝らしたら見える遠くに、人が近寄らぬ山岳地帯があります。その聳え立つ山の先は越えてはならない禁足地とされており、その場所について長年、伝説とされる噂がありました。

あの先にある国には魂のない魔物の部族が暮らしている。しかし魔物の血には不死身になれる力が宿っている。その血を浴びれば世界をその手に収める事すら可能になろうと。


ところでこの国の王の子供は、娘ばかりが六人もおりました。娘たちはそれぞれ自由に育ち、昼夜問わずハープを奏でている娘も居れば、一方で政治に携わるような娘もいました。

六番目の末娘である勇敢な姫は、戦士として軍事に従事していました。そして一五歳になったある日、王に向かって申し立てるのです。
「自分が魔物の血を浴び、国一番の戦士となり陛下に尽くしてみせましょう」
王はこれを快諾し、戦士である娘を旅に出させました。


こうして姫でありながら勇敢なる戦士は、魂のない魔物を探すべく旅に出ました。戦士は道の途中で金色の美しい髪の毛を交換し、馬という足を手に入れたりしました。

そうしてようやく山を越えしばらく進み霧がかった大地を抜けていくと、三百年人の通ったことのない、すっかり蔦で覆われた、かつて修道院だった建物がある場所へと辿り着きます。

ぼんやりとした霞の先に、うっすらと人の大きさほどの影のようなものが見え、戦士は身構えます。


初めて見る魂のない敵はまるで人間でした。しかし伝説を信じる戦士は後には引けません。相手を倒し、己が目的を果たすまでの長い死闘が続きました。

やがて力が尽き隙が生まれ、戦士は魔物の攻撃を受けてしまいました。対して間合いを詰めてきた魔物に対しても致命傷に近い打撃を与えることに成功しました。

瀕死に近い魔物は戦士に近づき、虚ろな表情のまま呟くのです。
「人魚の肉を食べれば不老不死の力を得られる。これで国一番の戦士となり王に尽くすことが出来るはずなのだ。」

目的を果たした二人には、もう互いに力は残っていません。そしてその力も得ることなく、大地に沈んでいく体は雨の泡と消えていくのでした。


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