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「エマニュエル・トッドの思考地図」は...

「思考地図」ちがい

「思考地図」と検索してみると、大半は「エマニュエル・トッドの思考地図」がヒットします。2020年12月に刊行されている翻訳本で、35年前から思考地図と呼称してきた私としては、思考地図と書かれているからには読まないわけに行かないので、当時早速買って、ざっと目を通しました。
今回改めて目を通してみて解ったこと、そしてこのブログで扱っている思考地図との違いを解説していきたいと思います。

「エマニュエル・トッドの思考地図」の原題は”La Carte Intellectuelle d'Emmanuel Tod”で、英語に訳すと”The Intellectual Map”、日本語だと「知的地図」となります。ちなみに私が使っている「思考地図」の英語名は"Think Map"で、ネイティブ英国の英語教師の方に承認を得た呼称です。そして、その「思考地図」の呼称は、1994年のヒューマンインタフェース学会(当時部会)の研究会で、その後2010年、2012年にも学会シンポジウムで「思考地図」の論文発表をしています。何が言いたいかというと、私がこのNoteで発表している「思考地図」は、エマニュエル・トッドの思考地図から拝借したものではありません、ということ、そして(大げさに言うほどのことではありませんが)一応、学会シンポジウムでの発表用論文としてそれなりの考察はしたものです、ということを、この機会に記しておきたいと思います。

「思考の見取り図」

さてその「エマニュエル・トッドの思考地図」に書かれている中身はと言いますと、下図のような「思考の見取り図」と称して、思考プロセスの俯瞰図が冒頭に記載されています。基本的に思考プロセスと各プロセスにおけるエマニュエル・トッド流の学習内容、分析方法、推理方法などが整理されています。

著作権侵害にならないよう、ぼかしています。

「思考の見取り図」という表現は、この書籍を通読してみた印象と一致します。すなわち、基本的に思考のプロセスを紹介した書籍だと言えます。

このように、エマニュエル・トッドの思考地図は、大きな歴史の未来予測を言い当ててきた思考方法には、従来になかった思考の仕掛けが有るのではないか、との出版社の思惑から書籍化された、ということが分かります。エマニュエル・トッドが、歴史学者として従来の学者とは異なる思考で心掛けてきたこと、そしてそのユニークな思考の行程:プロセスが紹介されています。

「思考地図」の概念について

折角ここに同じ文字なのに異なる「思考地図」が2つ登場しましたので、その概念の違いについて考察しておきたいと思います。

上記に書きましたように「エマニュアル・トッドの思考地図」では、思考の仕方、それも思考プロセスの取り方を紹介していて、その俯瞰図を「思考の見取り図」と称しています。見取り図というのは、物や空間などを描く時のパースペクティブ表現を指しますが、ここでは上図にあるような左から右へのプロセス俯瞰のことを指していると考えれば良いのでしょう。すなわち左から右への流れがある、という意味での地図:空間的な広がりと流れ、が込められている、と解釈できます。

それに対してこのブログで扱っている「思考地図」は、2軸座標を持つ概念操作ツールのことです。対をなす言葉の2軸を直交した空間に、両軸との関連性を吟味した言葉やイメージをプロットするフレームツールです。

前者は、思考プロセスのフレームに対して、後者は思考スペースのフレームと対比できます。プロセスは行程ですので能動的な動きが大事で、スペースは空間ですので位置関係が大事となります。

「思考地図」のジレンマ

「思考地図」という呼称は、一般的言葉ですので著作権や商標登録の対象とはなりません。しかし、だからといって単なる文字の並びだけではない、思考していく時の概念ツールであり、思考のためのフレームなのです。そうした思考のためのツールの操り方やフレームとしてできあがったサンプルを紹介する機会が、これまでに何度かありました。そして、古くからお付き合いしていただいたクライアントの方々からは、早く本にして下さい、と言われてきました。がしかし、エマニュエル・トッドも書籍の最後に書いているのですが、実際に思考している最中はその思考していることは仮設であって、現実の世界に反映されてその実績が出てからでないと、正しかったのかどうかが解らない、そして正しい、間違いが解った時には、そのクリエイティブな思考はどんなだったかが曖昧な記憶になってしまっている、というクリエイティブのジレンマがありました。

それなりの規模のプロジェクトで思考地図を操るクリエイティブを実践し、デザイン事務所の経営をしながら、書籍の執筆をするという力量は私にはありませんでした。しかしようやく現役のマウンドから降りた現在、書き散らして膨れ上がった思考地図のファイルを紐解き、散り散りになった思考地図の体験を、なんとかブログに再構築しておきたいと思っている次第です。


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