見出し画像

言うほど東京は特別な街じゃない

もう擦られすぎて擦り切れてペラッペラになってそうな話題で恐縮なんですが、東京がテーマとかモチーフとかになっている歌って結構あるじゃないですか。

ところがどっこい。
なにしろ私は東京生まれ東京育ちなもので「東京に行ってあなたは変わった」とか「東京は冷たい街」とかいう類の歌詞って、ちゃんと咀嚼しないとピンとこない時があります。

私にも進学の関係で関西に行った同級生と久しぶりに会ったらバリバリの関西弁になっていたことがあって、それこそ「京都に行ってあなたは変わった」ってなったという経験がありまして。それを考えると、単に住むところが変われば人は変わるって話じゃないのかなぁなんていう思いもあります。

もちろんライフステージの変化でいわゆる「上京」をするという人が多くて、その結果そういう経験を東京でする人が多いわけで、だから広く共感を得るのだ、ということは承知の上で言っているわけなんですけども。

ちょっとまだ色々まとまりきってはいなんですが、なんだかみんなで共有している「TOKYO」という概念の街があるような気がするんだよなぁって話をさせてください。


■東京にも田んぼはある

恐らく東京出身以外の方からすると、東京と言われてイメージするのっていわゆる山手線の方とかの、すごく都会的で先進的な地域だと思うんですよね。

でも東京といっても23区外となるとめちゃくちゃ普通に超住宅街、がっつりベッドタウンなので、下手すると商業施設どころかコンビニすら意外と見つからなかったりするし、なんならここホントに東京?ってくらい田んぼだったり山だったりする地域もあります。

ちなみに高尾山も御岳山も東京の山ですけど、ケーブルカーや登山道が用意できる程度にはちゃんと山です。
そもそも都心と郊外とでかなりの気温差があったりもします。新宿は雨だけど八王子は雪ですねみたいなこともあります。

というか私自身がそっち側エリアの出身なもので、やっぱりスカイツリーとか見ると「はえーこいつぁすげぇや」ってなるんですよね。
もう永田町の方とかになってくると人が住むところでは無い感もあったりして、もはや同じ東京って感覚でも無いっていうか。

新宿に行っては人の多さに辟易して、六本木に行っては空の狭さに息がし辛くなって、恵比寿のお酒に酔わされて。
渋谷のスクランブル交差点を眺めていてなんだかセンチメンタルな気分になったりももちろんします。
ていうかマジで普通にめっちゃ疲れる。都会すぎて。

進学先や就職先がいわゆる都心エリアだったので、都会で疲れた心が地元周りの一軒家の明かりや夕飯の匂いで癒されたりもしました。
だから東京がテーマの歌がはらむノスタルジックな感情とか、変化への焦りや不安、寂しさみたいなものも程度は違えど実感はあるし、想像もつきます。
でもそれは実家を離れるタイミングなどで大なり小なりみんな抱く感覚なわけで、「東京だから」特別そう感じるわけではないはずじゃないのか?とどうしても思ってしまうんですよね。

と言いつつも。
東京がモチーフに使われがちなこととか、それに反発を覚えると同時に東京というモチーフが持っている要素を理解できるという矛盾が自分でも面白いと思うし。
こうなってくると感覚と実感がズレちゃってもう歌やゲームや漫画アニメに出てくる東京ってもはや本当の東京じゃなくて「TOKYO」なんじゃない?なんてことを考えたりする訳です。

■歌われる街

とりあえず具体的に東京を歌っている歌を挙げながら考えていきたいと思います。

・新宿の女

とりあえず椎名林檎が新宿のパブリックイメージに少なからぬ影響を与えているのは間違いないはず。
『歌舞伎町の女王』は言わずもがな。

同じく椎名林檎がボーカルを務めるバンド・東京事変の『群青日和』も新宿は豪雨、の歌い出しでおなじみ。
歌詞にある<突き刺す十二月と伊勢丹の息>なんかもう、めちゃくちゃ新宿三丁目だなぁと思います。
冬の新宿伊勢丹てとても華やかで、でも不思議と寂しさをまとう気がします。

椎名林檎の歌だけでイメージするとなんか新宿がとんでもなく大人な街みたいですけど、普通に高校とかありますし、でっかい公園もありますからね。そもそも都庁方面とかバリバリのオフィス街だし。別に街全部が歓楽街では無い。

言うほど爛れた街でも無いし、かといって確かにまともな街でも無い。
単に色んな顔がある街なんですけど、やっぱり夜の街的な、歌舞伎町の女王的なイメージは根強い気がします。
(『龍が如く』も大概そういうイメージを広めていると思うんですけど、今回は歌の話なので割愛します)

・TOKYOの夜はエモ

東京の夜の街イメージの歌も結構多いですよね。

例えばVaundyの『東京フラッシュ』とか。これはさすがにオシャレ感が現実を通り越している気がする。東京ってこういうイメージあるよなぁを煮詰めた感じ。

そんなオシャレな夜って本当にここらに転がってるのかしら。実家の方の夜は田んぼでカエルが大合唱してるし家の裏でコオロギ鳴いてますけどねぇ。

KOTORIの『トーキョーナイトダイブ』もありますね。夜にふっと寂しくなって、地元だったらすぐ友だちんとこ行けたのにみたいな感じ。
いや東京でも、むしろ東京だからこそ何時でもどこにでも行けるだろって思いますけど。終電遅いしいつまでもタクシー走ってるし。
という、心の距離と身体の距離の話。

yama『春を告げる』も東京の夜の歌と言っていいんじゃないでしょうか。まぁ夜と言いつつ、なんか意味も無く徹夜しちゃったときの早朝みたいな怠さがある歌だよねとかも思ったり。
なんか大人になる直前の、モラトリアムの終わりを迎えようとしているときの価値を見出せない夜明けのイメージなんですけど、あるよねそういう夜。でもどこでだってそんな夜があるはずなんだよな。
でもその舞台が東京の六畳半だと確かにより気怠さが増すし、めちゃくちゃ憂鬱で、なのになんだか仕方ない希望がある。めっちゃ不思議じゃないですか。

メレンゲの『東京』はちょっと毛色は違うけれど、東京の夜をふらふらと迷子になっているようなイメージ。夜の高速ってなんか変な感じになりますよね。
ちゃんと立って歩いてるのに足元がおぼつかないみたいな。電灯で酔っ払ったみたいな感じ。

こういう人工的な灯りを感じる歌ってある程度の都会感あるんだよなと思ったり。地方とか行くと街灯が無さすぎてめちゃくちゃ怖いので絶対夜に出歩けないなって思うんですけど、そういう話をすると大抵の場合「都会っ子だねぇ」的なことを言われます。確かに私は真っ暗な夜を知らないのかもしれない。

・勝手に変わったんだろ

東京に行って変わっちまった系だと『木綿のハンカチーフ』をあげたいところですが、ここは一つ鉄風東京の『東京』なんかいかがでしょう。
ただまぁこれも<手に届く人肌に溺れてる>のは、ここが東京だからなのかい?とか思ったりなんかしちゃうんですけどね。

多分地元にいたって漫画や映画みたいに大切に初体験を重ねていくような友情を育むことや恋愛をすることって意外と難しくて。周りの波に流されてふわっと色んな経験をして、なんだこんなもんかっていうところを経て、その上で経験を重ねることでやっと1つ1つを大切に思えるようになっていくってことの方が多い気がします。

plentyの『東京』は聞いていて苦しくなります。
そうだよ、この街はそんな大した街じゃないんだよって。街があなたを変えてくれるわけじゃないし、あなたが大したことないわけじゃないよって。
そんなことで苦しまなくていいのにって、すごく胸が痛い。

なんかこっち系の歌を聴くと、東京が何かを変えてくれるんじゃないかって無責任な期待を抱かせる街になってしまっている気がしてくるんですよね。
多分、日々を過ごすうちに東京で暮らすことが当たり前になるだけなんですけど。

・ここでも人が生きている

割としっくりきた東京の歌といえばきのこ帝国の『東京』があります。
私の日々は間違いなくここにあって。大切な人に明日の朝もおはようって言いたいし、帰ってきたらおかえりって言いたいし、夜眠るときにおやすみって言いたいって願う毎日が確かにここで繰り返されている。
あなたに出会ったのがこの街だっただけ。ただこの街の名前が東京だっただけ。
そんな歌です。

そしてパブリックイメージとしての東京と、自分が住む東京との乖離に息苦しさを感じていたときに救われたのがBUMP OF CHICKENの『東京讃歌』でした。
この歌に出会ってから東京で生きることが少し楽になった気がします。

なんとなくずっと故郷が無いっていう感覚や、東京で生まれたことへの罪悪感や後ろめたさみたいなものを抱えていたんですけど、東京だってただの街なんだって思えるようになりました。

■体感は嘘をつけない

本当はもっともっとたくさん挙げてたんですが、下書きからかなり削りました。それくらい、とにかく東京が出てくる歌は多い。

それらは当然いい歌だなぁと思うけど、それをどれくらい実感を持って聴けているのかと言われるとやっぱり自信は無くて。
結局それも分かったフリしてる気がして、そんなつまらない自分に劣等感を覚えたりもして。

だからこういう歌に素直に共感できることや、そもそもそういう歌を作れることに羨ましさというか、尊敬みたいなものを募らせてしまうんですよね。
そういうのがその人の強みとか深みみたいなものを形作って、それが魅力として表に出てくるし。
やっぱり経験が物を言うんだよなーーーーー。人生って。

■普通の街、東京

東京は特別な街なんかじゃなくて、何かを変えてくれる街でも無くて。
でも確かに人と機会と選択肢が多い街です。それが強みの、ただの街です。

自分がどうなりたいのか、何がしたいのか、何を得たいのか。
そういうことを深く考えて決めることを求められるから、不安になったり寂しくなったりしてエモい夜を過ごすことになって、そしてこういう歌がたくさん生まれるのかもしれない。

まぁとにかく私が言いたいことは、東京もただ人々が日々の営みを繰り返しているただの街だよってことです。

多分最初はすごく刺激的で、東京に来なかったらできない経験もあって、その便利さに感動して。見たことないもの、今まで周りにいたことのない人に出会って色んな経験をして。
でもそれもいつかは当たり前の日々になる。

「TOKYO」ではなくて「東京」を受け入れてくれる人が増えたらいいなぁというところで、ちょっとオチが弱いですけど一旦この辺で。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?