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メンヘラ的お土産選び

 時々お会いして、ちょっと挨拶を交わすような仲の殿方がいる。お目にかかるのはせいぜい月3回程度だが、彼は根っからの人たらしらしく、会う度に何か面白いことを言っては笑わせて下さる。彼の中で私の顔と名前が一致しているかさえ非常に怪しいモノなのだが、私は彼が大好きである。

 彼と会うであろう日を計算し、ネイルの予約を入れる。スクエアにしたりポインテッドにしたり、ネイリストさんに嫌がられるほど注文をつけながら色を混ぜてもらっている。洋服は職場で褒められたことのあるものしか着ない。バレンタインにはチョコレート選びに夢中になって、仕事がお留守になった。お返しはもらえなかったが満足だった。彼が忙しくて、目の前にいるのに話しかけてもらえなかった時はキラキラのネイルを施した指で涙を拭った。30代も後半になって恋に恋する乙女を抜け出せない。

 そんな彼に海外旅行に行く話を聞いてもらった。そうしたら彼がこう言ったのである。

「お土産期待してる」

 あ、あ、あ…それメンヘラの恋する乙女に言っちゃいけない言葉です…

 そこから「脈アリ?好きな人がお土産をねだるワケ!言ってきた彼の気持ち6つ!」とかいうどうでもいい記事を食い入るように読み、お土産関連のネット記事をずっと読んでいた。ちなみに「お土産よろしく、って言われるのウザいです。何であんなこと言うんでしょうか?」みたいな話が多くて全然参考にならなかった。

 ネットがあてにならない時はリアルなお友だちの出番である。しかしみんな言うことがバラバラである(当たり前)。
「食べ物は消えてなくなるから、何か彼の手元に残るものがいい」
「彼の記憶に残る味の食べ物がいい」
「お土産話で十分じゃないの」
 各々真剣に考えてくれたのが嬉しい。

 一緒に旅行へ行く貴族に「機内販売の森伊蔵どうかなぁ?」と聞いたところ「ビジネスクラス以上に乗らなきゃ買えないぞ」と言われた。飛行機とは驚くべき差別的乗り物である。
 貴族は「彼をよく観察すれば、最適解が見つかるはずだ」と言うのだが、私は彼のことをほとんど知らない。ただの一目惚れの延長みたいな感じで彼が好きなだけなのだ(自他共に認める惚れっぽいタイプであの人も好きー、この人も好きーとその時々推しが変わります。すみません。あ、お付き合いしている男性がいる時は一途ですよ!)。

 こうやってあれこれ考える。ものすごく楽しい。そうか、「お土産期待してる」って言うのは一流の人たらしからのお餞別だったんだなー。

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