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夏目浩次「温めれば、何度だってやり直せる チョコレートが変える『働く』と『稼ぐ』の未来」

この本が届いたのはバレンタインデーの日でした。その数日前にスマホの中に流れてきたこの記事を見つけて、記事だけでは読み足らなくて、すぐに注文したからです。

この記事と、あともう一つ。

これを読んでもらえれば、久遠チョコレートがどんな場なのか、ということが分かりますが、身体や心や発達の障害を抱えている方が全体の6割を占めているということです。夏目氏は、最初から、障害のある人も「稼げる場」を作りたいと考えていたといいます。そしてそれ以外にも引きこもりだった人や、LGBTQ、子育て中で3時には帰らなければいけないママなど、様々な人が働いています。本の中では、そこまでに至る経過についても、丁寧に綴られています。

特に小さいころからこういう会社を作りたかった、とイメージしていたわけではなく、色んなことが積み重なって、ここにたどりついたという感じです。でも、事業を興す時に最初に考えたこと、

居場所のない人、生きづらさを抱えている人にも、活動できる場を用意する

このために久遠チョコレートを作ったということからはブレずにいます。

後半、久遠チョコレートで働いている様々な人の採用の際やその後のエピソードが紹介されます。俗に障害がないと分類されている人の個性にだって、悩まされないことはありません。私も自分自身の融通のきかないところなどに困惑することがあります。そのはずなのですが、障害があると、障害そのものの特性により、何かをすることが難しくなってしまうことがある上に、無理なのかな、とすぐに障害のせいにして片付けてしまいがちなのかもしれません。
けれど夏目氏は、そこであきらめたりしない。2つ目の現代ビジネスの記事の中でも紹介されているYさんの件は、本の中にも詳細が書かれています。

「できない」という思い込みを外すだけで、どれだけの可能性が生まれるかということを、Yさんは改めて僕らに教えてくれたのだった。

表面的にはYさんの活躍の場を作ってあげたということになるのかもしれませんが、夏目氏はそうは捉えていません。根底に、様々な人が活躍できる社会を目指さなければいけない、という強い信念があるからなのだと思います。

僕ば障がい者や性的マイノリティなど多様な人たちを受け入れるのは、彼らを「救いたい」と思っているからではない。彼らの「居場所」を作ってあげたいからでもない。社会貢献でも何でもない。企業や組織、あるいはこの社会が成長していくためい必要なアクションの一つだと本気で考えているからだ。
十人十色という言葉があるように、人はそれぞれ違っていて当たり前。空にかかる虹が、紫や青から赤に向かってキレイなグラデーションを描くように、みんないろいろな色合い(個性)を持っているもの。その個性をパズルのように組み合わせたら、新しい価値がどんどん生まれる。白と黒しかないよりも、カラフルな色が混じり合っているほうが、遥かに楽しいし、豊かな社会だ。僕はそう信じている。

福祉ではなく、仕事を切り出しているのでもなく、価値を作っているということなのだと思います。

就労移行支援事業をやっている方が、こんなことをおっしゃっていました。

以前は「作業工程にひと手間加えて仕事を作り出してあげている」という『あげて(やって)いる』という意識が少なからずありましたが、今はひと手間かけることで『(商品の質を)あげている』という意識で考えるようにしています。

夏目氏の話の中にも、こういうエピソードが出てきています。先ほどのYさんの話なのですが、毎日、石臼で茶葉を粉にする仕事をしています。一日中根気よく粉にするというのは、誰にでもできる仕事ではありません。他方、それまで機械で粉末にしていたのを石臼を利用することによって、熱で失われていた風味などをそのままチョコに活かすことができるということもあったのです。

ショコラのイベントに出展する際、ショコラティエやパティシエたちに交じって、夏目氏は自分の肩書をどうするか、という時に、「コンダクター(指揮者)」という言葉を選んだそうです。それは、久遠チョコレートにいる人たち一人ひとりの色をしっかりと見ているから、どう色を出してもらうか、ということを考えているのだということなのでしょう。
夏目氏の指揮によって生まれたチョコレート、私も食べてみたくなりました(しっかりとしたお値段なところも、大事なことだと思います)。

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