前秦野市長 古谷よしゆき著「異議アリ! 市民本位の改革を断行した、商人市長の12年」

神奈川県秦野市は、公共施設やインフラについて、いち早く現状を明らかにして、今後のあり方について検討し、住民に丁寧な説明をしつつ理解を得て、先進的に取り組んできた自治体。

学校はもちろん義務教育だから、施設の利用に関しては利用者の負担は生じないし、公民館なども、維持管理費とは全く無関係の安い価格で使用できる。でも実際には膨大な維持管理費がかかっている。さらに、多くの施設が高度成長期以降にできたため、今後40年の間に一斉に更新時期を迎え、大規模改修に多額の費用を要することになる。一方で、今後現役世代の人口が減る見込みで、税収が増える見込みは薄い。今のままの施設を維持しようとすると、どうにもならなくなることが目に見えている。お金が足りなくなるのはもちろんのこと、苦し紛れに経費節減して、施設の安全性が重視されなくなる可能性もある。このため秦野市は公共施設の総床面積を30%減とする目標を掲げた。統廃合する以外にも空きスペースに郵便局やコンビニを誘致したり、使用料を見直したり、収支バランスの改善に取り組んでいる。

この本では、こういう形になった舞台裏について書かれている。市長の意気込み、それに応じる職員、特に志村氏の覚悟は半端ない。このままでは立ち行かなくなる、未来のために今どうにかしなければいけないという思いがひしひしと伝わってくる。とはいえ、スムーズに行ったわけではない。恥ずかしいような、行政あるあるも出てくる。役所内外に反対意見もあった。恨まれたりすることもあったという。けれどそれにひるまなかった。

実は志村氏は、研修でお話しを伺ったことがあった。自分の認識の甘さへの反省と、秦野市だけでなく、全国的に同じ状況だから、早くどこも認識して手を打ってもらうために伝えなければならないという使命感が強く感じられて、話を聞きながら何度も目頭を押さえてしまった。そんな泣いてる場合じゃないと思いながら。

公共施設の今後に興味のある方、行政に携わる人は、もちろん読むと広く理解できるし、それほど興味のない方でも、市長の12年間の改革ストーリーと読むこともできて、手にとりやすいかもしれない。



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