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田中啓「自治体評価の戦略 有効に機能させるための16の原則」

私たちの周りは評価であふれている。何かを決めるために意識してすることもあれば、無意識に行うこともある。他人に向けられるときもあれば、自分を省みるときもある。何か買い物をしようと思えば、ネットの口コミサイトを見て、どの商品がいいかを考える。値段が同じならどちらの店で買えばよいのか、検討する。もちろん口コミサイトの星の数なんて、それぞれの基準がバラバラだし、客観的とはいいがたいと思いつつも、5に近ければ、みんな満足したんだろうな、という印象を得たりする。あまりによい評価だと、サクラの書き込みなんかじゃないか、と思ったりすることもあるけれど、ちょっとした商品を買おうとするときには参考になる。
子どもが初めて「評価」にさらされるのは通知表だろうか。今も教科ごとに3段階とか5段階の評価かと思いきや、そうではなかった。義務教育における評価って、こんなに進んでいたんだと驚いた。各教科について、その教科の習得に必要な項目(意欲・態度、理解力など)に分けられ、項目ごとに、よくできる、できる、もうすこしに分けられている。一見分かりにくいようで、それぞれの科目について、何が課題なのかが分かるともいえる。本人はよくできたにつけられた〇の数を数えてせっかくの評価を単純化し、前学期と比較して一喜一憂しているけれど。
行政サービスにおいても、評価制度が取り入れられている。投入に対して、どれだけのアウトプットがあったか、アウトカムがあったかについて、指標を設定し、効果を検証する。とはいえ、指標を適切に設定することはとても難しい。
著者は本のタイトル通り、評価制度の構築の段階に応じて16の原則を掲げている。例えばこんな生々しいことも出てくる。

首長(またはトップ)の協力な支持をとりつける。

首長は行政のトップであると同時に、市民の代表であり、政治家である。行政評価は良いこと、という認識はもっていても、次の選挙を見据えて導入しにくいこともあったりする。その他にも、利用場面を想定して「逆算の発想」で制度設計を行うこと、など、考えれば考えるほど陥りがちな誤りを防ぐためのシンプルな原則がそろっている。
最後の章で著者が挙げているのは、現代は、社会課題が複雑化していて、行政だけでは解決できない課題がたくさんある。アメリカのケトルはこのような状況をロケット科学と表現している。つまり、ロケットの打ち上げというプロジェクトを成功に導くために高度な科学技術の粋を集めたプロジェクトであったのと同じように、行政課題を解決するためにも、単独の組織では対応が困難ということになる。そうなるとさらに評価が難しくなる。
学者でありながら、行政の現場にも接していた経験が活かされていて、非常に読みやすかった。当たり前のことだけれど、正解は書かれていなくて、じゃあどうすればいいのか、ということは、自分の組織の中で考えていくしかない。本当ならみんなでこの本を読んで共有できれば一番よいのかもしれないけれど、そこまでしなくても16の原則をルールとするだけでも、効果がのではないかと思った。

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