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中田華寿子「10万人に愛されるブランドを作る!」

10万人に愛されるなんて。
数字の大きさに圧倒されそうになったけれど、よく考えてみたら、既に私たちのお客さまは27万人もいるわけなのです。私の仕事は自治体の仕事、なので、そこに住んでいる人の全て、関わってくれる人の全てがお客さまです。でもここに住んでいて楽しそうにしている人のはごく一部なんじゃないか、と思わざるを得ないのは、かなり深刻な状況だと思います。
中田氏はスターバックスの日本進出を成功させた方。その後別会社を経て、ライフネット生命保険にマーケティング部長として入社し、開業3年で株式上場、民間生保支持率1位を達成させた方です。
ライフネット生命のマーケティング部長に就任した時、株主から、コーヒーを売るのと保険を売るのとでは違うのでは、という発言があったそうです。でも中田氏は、そもそも、スターバックスに入社した際もコーヒーのプロではなかったと言います。その職責は何だったのか。

認知度や予算がなくても、大手競合がいても、その中で
人々から愛されるブランドを構築するための、マーケティングの舵を取ること。

彼女がスターバックスで、ライフネット生命で手掛けてきたことはこれで、結果として、スターバックスは日本に浸透し、ライフネット生命は開業3年半で保有契約件数が10万件を突破したりしたということなのです。
そのためにどうすればよいのか、ということが、この本には書かれています。

コーヒーと生命保険が異なるのと同じように、行政サービスもまたそのいずれとも異なります。もっとも行政サービスと一括りに言ってしまうと、どちらともかけ離れているような気がしますが、実は、サードプレイスを提供するという理念を掲げているスターバックスは、人が集まる場、コミュニティを提供する公共施設と少し通じるところがある気がします。また、生命保険も、医療保険や介護保険、社会全体で見ると生活保護などの福祉もセーフティネットであるという点においては近いようにも見えます。
でも結局は、どちらに似ているかではなくて、やはり行政においても、人々から愛されるブランドになるというか、共感される理念を表現していくことが大事なのではないかと感じました。

愛されるブランドの人格として、中田氏は4つを挙げています。

①「理念」がある
②「顔が見える」
③「正直」である
④「No」と言える

この中で、行政が一番苦手なところは、4番目の「No」と言える、というところではないかと思いました。モノを選ぶのと同じように自治体を選ぶことができない以上、なぜ自分はサービスが受けられないのか、という質問に対して強く出ることができないからです。とはいえ、あらゆる行政サービスを全ての人が享受できるわけではありません。また所得制限があったりするサービスもあり、平等の前提となる考え方があり、それでNoと言わなければいけない時もあります。そして、現在のように、財源が限られていて、かつ、社会課題がたくさんあるときには、どこかで線を引かなければいけません。だから苦手ではあるけれど、「No」と言わなければいけないところもあります。
ライフネット生命の場合、申し込みをネットからしかできないようにしていました。それにより、コスト削減をすることで、保険を安くするという理念を実現していたからです。対面で説明しながら紙の申し込みも受け付けるとしたら、人件費や紙の処理コストを価格に上乗せせざるを得なくなり、理念に反してしまうことになります。開業当初は1件でも契約を取りたくて、何度も紙でも受け付けたらどうか、という意見が出て、議論が繰り返されたそうですが、理念を全うするために「No」といったそうです。
ここで「No」と言えたのは、理念が十分に明確だったからなのだと思います。しっかりとした理念があれば、何が違うか、が分かるのです。
行政を振り返ってみると、このような強い理念を掲げるのはとても難しくて、「No」が言えるほどの明確さが持てないような気がしています。やっぱり、なぜ自分はサービスを受けられないのか、という質問が来ることを最初から想定して、あれもこれも、になってしまいがちだからです。

ですが、行政においてもブランディングにおいてまで、誰一人取り残さない、とか、平等に、みたいなことはいらないのかもしれません。サービスは平等でなければいけない。でも、誰に何を訴えるのか、ということくらいは、ターゲットを明確に絞って、その人たちに合うものを発信していくことが大事なのかもしれません。
本の中ではライフネット生命で実際に行われたことを例示しながら、ノウハウについても記載されています。例えば、ハトが選んだ金額の保険に入る(1,000万、2,000万、3,000万と書いた紙を貼り、3種類の豆を置いた皿を河川敷に置き、野生のハトが食べた皿の金額の保険に、企画したデイリーポータルZの社長が入るというもの)というものにも、面白がってライフネット生命の社長自らが立ち会ったといいます。
いろいろとノウハウはあるにしても、一番大事なのは、この4つをゆるがないものにすること、それが土台になるのだと感じました。

ハトが選んだ生命保険に入る :: デイリーポータルZ (dailyportalz.jp)

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