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小野和俊「その仕事、全部やめてみよう 1%の本質をつかむ『シンプルな考え方』」

この本を読むには、それなりの舞台装置が必要だと思う。今日みたいな連休の中日というのは良いタイミングだと思われる。ぜいたくを言えば、旅行先で、できればオールインクルーシブのホテルに泊まり、誰にも気兼ねすることなく好きなように時間を使える状況だったら最高だろう。そんな夢のようなことが無理なら、久しぶりに帰った実家で上げ膳据え膳のもてなしを受けている状況でもいいだろう。いや、私にとってはそれさえも無理だ。とはいえ、次々と話しかけてくる子供たちを交わしながら、一昨日までがっつり仕事をしていて、あと2日休んだら仕事のこと忘れちゃうんじゃないか、みたいな気分で、家事の合間を縫って時間を見つけて読むという状況も、それなりに合っていたかもしれない。
つまり、どっぷりと仕事のことを考えられる状況で読んだとしても、なかなか内容が入ってこないような気がする。やらなければいけないと思い込んで、仕事をしているからだ。少し離れたところから振り返ってみないと、この本に書かれていることは、遠い国の話のように思われて、自分の行動に落とし込むことはできないような気がするのだ。それくらい、何が大事で、何がそうでないかを見分けるのは難しい。
著者はすごく切羽詰まった状況の時にリゾート地に誘われた。環境だけ変えて仕事をするのかと思いきや、そんなことは許されずホテルに着くや否や「ここで選択肢がある。1つは、いまからスキーをすることだ。もう一つはスノーボードをすることだ」と言われる。ひとしきりスノーボードをした後、休憩することになり、今度こそ仕事ができるかと思いきや、「選択肢は2つある。ビールを飲むか、ワインを飲むかだ」と言われる。結果として「スノーボードをしたり、ビールやワインを飲んだりしたりしていると、心も身体もリラックスして、仕事が一気にはかどった」という。
自分の仕事と、ここに書かれている大企業やITベンチャーでの仕事は、遠くかけ離れているようにも思えたけれど、これは、こういう状況に似ているな、などといろいろと想像できるような部分があった。多分、それは私の仕事だけではないだろう。あらゆる仕事で、この考え方を活かすことができるのではないか。なぜなら、どんな仕事にも、何のためにやっているのか、誰のためにやっているのか、ということがあるはずだからだ。それを見失ってしまうと、意味のない仕事を疑問も持たずにやらなければいけないことになってしまう。それでは、限られた時間と能力がただすり減らされていくだけになってしまう。その大切な資源をどう仕事に振り分けていくか、その考え方がここには書かれている。
そしてもう一つ大事なのが、色々なことを変えていくことはとても難しいことだ。スムーズに変えていくために、どのようなことが必要か、というヒントもたくさん書かれている。正しいからといって、突き進めていけばよいということではないのだ。全部ひとりでできるわけではない、チームで、組織で仕事を作り上げていかなければいけない以上、周りの理解と協力を得てしなければいけないのだ。
この本の面白いところは、書かれている内容だけでなくて、その言葉の使い方にもあると思う。例えば、「職場は『猛獣園』である」とか。私も間違いなく、猛獣の一人だ。「『俺がやったほうが早い病」の治し方」とか。これは要領の悪い私は完全に違うけれど、ちょっと何人かの顔を思い浮かべて笑ってしまう。

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