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葦原海「私はないものを数えない。」
凱旋門を背景に、赤いベレー帽に赤いワンピース、堂々と微笑む女性の写真の表紙はとても印象的です。けれど、彼女が座っているのは車椅子、そしてワンピースのスカート部分を見ると、そこにあるはずの足がありません。
だからといって、この本は、障害とどう向き合っていくかについて書かれた本ではありません。ただ、1人の25歳の女性が、どんなふうにこれまでの人生を冒険してきたか、について綴られています。
正確には、自分の目標の見つけ方とか、何かあった時にどう受け止めて生きるか、SNSでどう発信していくか、とか、誰もが気になることについて、書かれているわけなのですが、冒険、という言葉がぴったりな気がしています。
いろんなエピソードがあります。その中の1つに、足を切断し、病院に入院していた時期のこともあります。でも、その期間でさえ、彼女が考えていたのは、早く退院して遊びに行きたいということでした。
でもそのためにリハビリを必死になって頑張る、ということもなく、理学療法士が若い女性だったこともあり、楽しく過ごします。他の人がリハビリで風船バレーをやっているのを見かけたら、
私もやりたい
と言ってメニュー変更してもらいます。
こんな調子で全てがとてもポジティブです。自分がやりたいことを伝え、無理なことはさっとあきらめます。
というか、とにかくかっこいいのです。
退院してからも、行きたいところに行き、大好きなディズニーランドも思い切り楽しみます。まだ専用の車椅子ができないうちに、レンタルの車いすでディズニーランドに行ってしまう、というのもすごいです。
ずっと夢見ていた大道具の仕事も、専門学校に入ろうとしたら、車椅子では「難しい」と言われてしまいます。配線だらけの部屋や、高所作業もあるから。けれど、そこで諦めるわけではなくて、だったら大道具の仕事に役立つかもしれないと、ウェブデザイン系の学校でデザインや色を学ぶことにします。
そうした中で、NHKの番組内で行われるファッションショーへのお誘いが来るのです。出演を決めた理由はこれ。
ショーの収録ということは、憧れのテレビの裏の世界が見られる!
周りの出演者が鏡を見てポージングの練習をしている中、スタッフさんの動きばかり見ていたそうです。けれど収録を終えて振り返った時に感じたのは、障がい者と健常者の間にある壁のようなものでした。
「制作者としては、障がいへの理解をいろんな人に広めて、したしんでもらうのが目的のはず。それなのに、もともと福祉に興味・関心がある人ばっかり見にきている。せっかくのイベントなのに、興味がない人まであんまり届いていないのかも」
そこから自分が何をやりたいか、について深く考え、得られた結論は、
「障がい者と健常者の壁や固定観念を、エンタメの力で壊す」
ということでした。
そこから「みゅう♡足は姫にあげた」というYouTubeを始め、インスタやTikTokで発信して、たくさんのフォロワーがいます。
この本が出版されることについても、YouTubeで配信されています。
実は私は動画を見たのは今回が初めてだったのですが、本を先に読んで、本を作るエピソードについて語られるのを見て、ああ、本当に、考えていた通りの本になったんだな、と思いました。
どこの出版社から、どんな感じで出すか、とたくさん話をして、作り上げられたということなのですが、関わった方たちの思いが、みゅうさんを中心に、一つにまとまっていたからこそ、成し遂げられたことなのだろうなと思います。
写真もたくさん挿入されているのですが、すごく力のある笑顔で、眺めているこちらにまで、その楽しさが伝わってきて、明るい気持ちになります。
彼女だって頑張っているのだから、自分も前向きに生きよう、みたいなそういうのじゃなくて、ただダイレクトに、力をもらえる感じです。
もしかして、これがエンタメの力で障がい者と健常者の壁や固定観念を壊す、ということなのかな、とも思いました。
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