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佐藤直子「女性公務員のリアルーなぜ彼女は『昇進』できないのかー」

先月末、ひなまつりの日に発売されるというこの本のタイトルを見た時に、絶対ヤバイ本だ、と思った。間違いなく、自分の仕事に不満を持っていた時のことを思い出して、気持ちが落ち込むだろう。しばらく様子を見よう、と思って予約はしなかった。
ひなまつりを過ぎて、早々に購入して読んだ方たちの感想が目に入ってきた。もやもやを言語化してくれた、とか、必読書だとか。それは分かっている。正直なところ、今の自分の仕事には、特に不満はないから、余計なことは考えたくない、という気持ちがあった。だから、読みたくなかった。
でも、短期的には今の状態が良かったとしても、長期的には考えなければいけないことであるとも思っていた。経験年数などを勘案すると、私は女性としては昇進が遅れている方ではない、というか、同期の女性の中では一番早く、だから私がこのポジションでどうふるまったかが、後輩たちのキャリアにも影響する可能性がある、ということは思っていた。だから女性公務員のキャリアについて考えるのは、自分だけの問題じゃなくて、私にとって避けて通れない道なのだ、くらいの自負もあった。

今から5年前、私は、自分がこれまでの職務経験の中で庶務事務ばかりやってきたことへの不満を、なるべく前向きな表現で書いて、HOLGという自治体職員オンラインサロンに投稿してみた。こんなもやもやを載せてもらえるだろうかと思ったけれど、ただ載せてもらうだけでなく、HOLGの代表の加藤さんがコメントもつけてくれて、それがとても嬉しかった。
要は庶務事務はなぜか女性ばかりがあてがわれ、定型が多くてつまらないけれど、役に立つこともあるし、庁内全体の流れを知ることができるから、係長になるまでにみんな経験すべきではないか、という思いを書いたものだった。

その翌年に、庁内調整を多く必要とし、新しいことに取り組まなければいけない公共資産マネジメントの部署に異動した。低未利用の公共資産の利活用の事務を担当することになり、初めてのことがたくさんだった。不安でたまらなかったけれど、たくさん周りに助けてもらった。そして、過去に少しだけ経験した計画策定事務とか、講習会などで参加者を増やすための取り組みとか、企業誘致の部署で門前の小僧的な感じだったことで培ったノウハウを総動員しつつ、初めて経験する事務を自分なりに解釈できて、どうにか1年目の責務を果たすことができた。
正直もっともっと、色んなことを経験できていたとしたら、もっとスムーズにできていただろうと思うこともあった。けれども、周りの人が経験していないけれどこの観点は私が貢献できるかも、ということがあったから、分からないことを恥ずかしいと思わず訊くことができたのだろうなと思う。あとついでにいえば、母親の経験があるのは私だけ、ということも、自信につながった。というのは、子育て世代に刺さる、というのも仕事の上で大事な観点であったからだ。これだってデータや前例だけを参照すればよいという人たちだけであったら居心地が悪かったと思う。肌感覚を持つ私の意見を大事にしてくれようという雰囲気があったのが、ありがたかった。
要は、上席の方たちのマネジメント能力が良かったことに助けられたと思う。

佐藤氏の本では、庶務事務や窓口部門しか経験しなかった職員が急に調整が必要となる部署に行ったり、未経験な部署で管理職になったりすることの難しさが記載されていた。わずかであっても、経験があったかどうか、が重要になるのだと思う。
また、窓口部門しか経験しないことに関しては、人事部門の考え方が要因だけれど、庶務事務ばかり経験することになるかどうかは、誰に何を担当してもらうかは課内で決めるので、所属内の考え方次第ということになる。とはいっても、庶務事務はミスがなくて当たり前みたいに考えられがちなので、どうしても庶務事務を経験した人がいると、ちょうどよかった、と思われがちで、またその人にやってもらえればいいということになるのだ。その人のキャリアのためにここでどういう経験をしてもらうか、なんていうことは考えてもらえない。ただ課を回すのに一番問題がないように、となれば、当然、経験者にやってもらうのがよいことになる。
こうした感覚的に感じていたことが、この本には、様々なヒアリングを通じてエビデンスとして書かれていて、どこの自治体でも似た状況なのだと感じる。
本の中では言及されていなかった気がするけれど、個人的に思うのは、マネジメント能力に関して、本来はいるメンバーの全ての能力を最大限に活かすことが目的なのではないかということ。だとすると、子育て中の女性がいるなら、その良さをどう活かすかを考えなければいけない。育休から復帰したばかりだったり、時短の職員は、不規則に休まざるを得ないので大変だけれど、本人が努力して急に休んでも大丈夫なようにある程度工夫することもできるので、その部分をきちんと考慮に入れるべきだと思う。
さらに、どの自治体も子育て施策に力を入れようとしているけれど、だとしたら、子育て中の職員の肌感覚をもっと大切にすべきだと思う。育休中にも子育て世代のニーズを考えながら、というわけにはいかないけれど、戻ってきたときに、平日昼間の子連れがどんな行動をしているか、ということは当たり前のように分かるわけで、これを活用しない手はない。
公マネ時代の特に最初の上司は、子育て中ということを色んな意味で意識してくれたので、こういう考え方もあるはず、と思えるようになった。

再び本に戻ると、現実には、上席のマネジメントに期待するなんていうのは難しい、となると、自分でできるだけ若いうちから能力を身につけなければいけないのだ。待っているだけではダメで、積極的にアピールしていかないといけない。
また、説明力、資料作成力、会議力といったことは、仕事以外でも身につける方法はあるし、調整力、判断力についても、先輩を見ながら自分ならどうするか考えてみることで、身につけられることもあるという。男性だけがいろいろ経験させてもらえることでこうした能力を身につけられて、女性は難しい、というのは不公平だけれど、現状がそうである以上、何とかしたければ自分で努力するしかない。

本当ならこうした話題をざっくばらんに色んな人と話してみたいとも思う。けれども、この問題の難しさは、個人の考え方が色々だということだ。力をふるいたい、という人もいれば、家庭優先にしたいという人もいる。女性の中でも考え方はいろいろで、状況や昇進の仕方もばらつきがあるから、なかなか悩みを誰かと共有しにくいという問題もある。探りながらになってしまう。
でも実はこれは男性職員も同じなのかもしれない。母集団が多い分、少しだけ似た境遇で似た考え方の人がいるかもしれないけれど、仕事やキャリアに関する考え方は、人それぞれなのだと思う。

とはいえ。

とはいえ、やはり女性の方が、限定的にされてきた感じが否めない。そして公務員というのは、行政の事務を担う仕事、社会に与える影響も大きく、その現場の中心にいるのが男性ばかり、というのは、やはり日本社会が他の国よりもジェンダー問題で遅れていることと相関があると思わざるを得ない。卵が先か鶏が先か、の話になりそうだけれど、どこかから変えていかなくてはいけなくて、その一つのチャレンジを、私たち女性公務員ができるのではないか、というメッセージを私は受け取った。
5日後の3月8日の女性国際デーの日ではなくて、3月3日のひなまつりの日に出たこの本、女性公務員の地位向上ではなく、女性たちが自分らしく生きることで得られる幸せを、社会全体に広げたいということだったのかもしれない。


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