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橋本之克「世界最前線の研究でわかる!スゴい!行動経済学」

この本のすごさは、名前だけ聞くと遠い存在にしか思えない学術研究が、すごく身近な例を用いて解説されていることで、分かりやすく、役に立つものだということが感じられることだ。各節のタイトルはこんな感じだ。

なぜ人はソーシャルゲームにハマってしまうのか?

コンビニの数は美容院や歯医者の数よりも、なぜか多いと思ってしまう不思議

そうだよな、と思いながら、じゃあどうして、と言われるとなぜかうまく説明できないところを、研究者たちの理論を使ってうまく説明してくれる。私たちがいかに、直観で動いてしまうか、そしてその直感はどういう性質を持っているのかということを理解させてくれる。
そして、自分でも、いろいろ考えてみたいな、という気持ちにさせてくれるのだ。

早速、昨今のコロナウィルス感染症の問題で、私たちがどんな風に行動してしまっているかについて、行動経済学にあてはめて考えてみた。もちろんこれは専門家のアドバイスをいただいたものではなく、私が導入書を読んで勝手に考えてみたことであることをご理解いただきたい。
2月下旬にトイレットペーパーなどが店頭から一気になくなったこと。これは、「同調効果」によるものだと思う。同調効果とは、個人が無意識に人と同じ行動をとってしまう現象で、集団と同じ行動を取ることで安心を得ようとする群衆心理によるものだという。イェール大学のスタンリー・ミルグラムが、実験によって実証している。ニューヨークの街中で冬の午後、実験者が歩道に立ち、通りの向かい側にあるビルの6回の窓を60秒間見上げ、立ち去る。この人数を変えて、見た人の反応を比較するという実験だった。つられて窓を見上げた人は1人の時は43%だったのに対し、15人の時は86%だったという。
もちろんみんなが買ってしまえば、次いつ入荷するか分からなくて、十分な買い置きがないと思えば焦ってしまう。実際私も半月程度の買い置きしかなかったこともあり、近所のドラッグストアから出てくる人がみんなトイレットペーパーを持っているのを見て慌てて購入し、1袋だけでは安心できなくて、他の店も探してしまった。
その他、芸能人のコロナウィルスの感染がメディアで取り上げられているけれど、これも必要以上にコロナウィルスへの恐怖を感じさせることにつながる可能性がある。オレゴン大学のポール・スロヴィックは「実際以上にリスクを過大に評価してしまう要素」として、18のリストを挙げている。コロナウィルスは、その中で、「馴染み:よく知らないリスクは高く感じる」、「理解:仕組みがわからないと危機意識が高まる」、「メディア:メディアで多く取り上げられると、余計に心配になる」、「個人による制御:被害が自分で制御できるレベルを超えたと思うと高リスクに感じる」、「個人的なリスク:自分自身を危うくするものは高リスクに感じる」といったことがあてはまると思われる。さらに加えて、芸能人の感染は「犠牲者の身元:抽象的でなく身元の分かる犠牲者だと危機意識が高まる」ことにつながる。
また、アフターコロナという言葉もよく訊かれるが、アフターコロナに、これまで通りの日常を求めてしまうのは、「現状維持バイアス」によるものだと思われる。現状維持バイアスとは、未知なもの、未体験のものを受け入れず、現状のままでいたいとする心理的バイアスのことである。もちろんコロナウィルス問題が解決するに越したことはないけれど、昨年度の台風被害といい、様々な事象によって、生活を変えなければならないこともあるような気がする。働き方改革とか、オンラインの活用とか、やむを得ず始めたことのメリットを感じて、日常化してみるのは、悪いことではないと思う。

著者はあとがきの中で書いている。行動経済学は社会全体の幸福のために、あるいはより良い社会作りのために活用されるケースが増えている、と。ソーシャルデザインとか、仕掛とか、そういうところにも応用できそうで、他の本もいろいろ読んでみたい。

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