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歌解説『赤とんぼ』


Chère Musique


赤とんぼ
作詞:三木露風   作曲:山田耕筰

夕やけ小やけの 赤とんぼ
負われて見たのは いつの日か

山の畑の 桑の実を
小篭に摘んだは まぼろしか

十五で姐やは 嫁に行き
お里のたよりも 絶えはてた

夕やけ小やけの 赤とんぼ
とまっているよ 竿の先


歌曲

歌の分類はいろいろな視点があります。
私は“聴いていただくことを前提に魅力的に歌う時の”発声のレベルの面で、日本歌曲という分類が一番しっくり来ます。
唱歌(小学校教材)でもあるし、日本人が誰でも歌えるくらい馴染んでいるところから、童謡だと思う人も多くいると思います。

発声のチャレンジ

初めの「夕やけ小やけ」で、11度(約1オクターヴ半)。
これをクオリティの高い魅力的な声で響かせるには、ある程度の経験と技術が必要です。
一番初めの低音をよく響かせ、途中の昇りを音程を高めに、最高音でも空に抜けるような透明な響きが必要。
各音域のそれぞれの響かせ方を掴んで、コントロールしないとね。

二行目五文字目に急に高音がある、ここも確かな発声の支えが必要です。

“調”を選ぶ

山田耕筰さんの原調はヘ長調。
前述の「夕やけ小やけ」の「け」=この曲の最高音は「ファ」で、アマチュアには美しく楽に響かせるには上級編。
私の聴いた多くのプロ歌手は、全音下げで変ホ長調に移調している人がとても多いです。
こちらが原調のようになってしまっているくらい。
この場合の最高音は「ミ♭」。
私が高齢者の方々のための練習用としてレコーディングしたのは、思い切って下げてハ長調。
最高音は「ド」。
下げ過ぎたかな〜、、、と思っています。

歌詞の解説

まず、初めの「負われて」を、「追われて」だと思っている人がとっても多いです。
赤とんぼに追いかけられている?
そうではなく「背負われて」。
小さな子どもがおんぶされて赤とんぼを見ている、ということです。

三木露風さんは、5歳の時に両親が離婚して、お祖父さんの家で育ちました。
その家で露風さんの母親代わりとなったのは、少し年上なだけの姐やさん。
この姐やさんにおんぶされている想い出なのです。

一時期、小学校の教科書から、三番の歌詞が消えました。
その当時やたらと取り沙汰された“差別用語”のひとつとして「姐や」があったからです。
その後しばらくして
歌の歌詞というのは文学であり、芸術。
昔の芸術から当時の日本の生活文化を知ることは、意味深いこと。
という真っ当な考えに変わり、三番が復活したそうです。

私はこの歌詞は三番がないと意味がないと思います。
歌全体が、自分を母親がわりに育ててくれた、抱いてくれた背負ってくれた姐やさんへの、愛と郷愁を、想い出を歌っているのですから。

三番は、その人との別れと、子ども心に焼きついた寂寥そのものです。

間奏

山田耕筰さんは特に楽譜に間奏は書いていませんが、私は上記の意味で、三番と四番の間に前奏と同じ音楽を入れています。
一番二番三番と思いがどんどん強くなってゆき、四番でふと我に返って現在の(大人の)自分の視点で歌うからです。
日本歌曲には、このような流れの詩が多いように思います。

ピアノ伴奏

山田耕筰さんはメロディだけではなくピアノにも芸術性を深く込めました。
そういう考えの作曲家が、本物の音楽家だと私は思います。
この曲のピアノは、原調でもとても音域が低い。
爽やかな曲とは言い難く、良いピアニストなら深く重い空間が生まれます。
このピアノの作り方に、この歌詞の深い意味を表しているように感じます。
(それを更に移調して下げてしまったので、私の音源はピアノが低過ぎてちょっと重過ぎになってしまいました)



歌の練習♪『赤とんぼ』
https://youtu.be/4LgwcxU2_ss?feature=shared

この季節に相応しい、日本の宝とも言えるこの歌を、どうぞ楽しんで歌ってください。

Musique, Elle a des ailes.

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