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つい使ってしまう言葉たち

Chère Musique

つい使ってしまう言葉たち

音楽のレッスンや普段の生活で音楽の話をする時、つい使ってしまうけれど本当は間違った意味になってしまう言葉、というものがたくさんあります。
生徒さんや一般の方々が使ってしまうなら、しっかり習ったことがなければ当然仕方のないことですが、音楽の先生たちや演奏家の人たちまで(実は私も)、分かっているのについつい使ってしまう言葉もあるのです。

例えば、音程、階名、叩く、蓋、などなど。

音程

歌を歌っている時に「この部分がちょっと音程が上ずっちゃうのよね」。
楽器のアンサンブルをしたり聴いたりする時に「あの楽器、ちょっと音程が低くない?」。
よく聞くセリフです。

これは、その声や楽器の、音の高さについて話しています。
本当は「音の高さ」「音高」、英語で「ピッチ」などというのが正しい言い方。

音程というのは、厳密に言えば、二つの音の高さの差を表す言葉なのです。

正確な「音程」という言葉がまず一番よく使われるのは、ドレミの音名でいくつ離れているか、という話の時。
調や、半音と全音など、細かい前提がありますが、今日はその辺は置いておいて、例えばドとミのように音名で三つ離れている音同士を「三度の音程」と言います。
「この音に対してこの音は音程がいくついくつ低いね」というような意味に使います。

うっかり使ってしまう間違った方の「音程」。
音の高さ、ピッチというのは、ヘルツという単位で数値で表すことができます。
ですが、調律をしている時でもない限り、何ヘルツなどという言い方はしませんね。
普段は漠然と、少し高いとかちょっと低めとか、そんな感じで使うと思います。

「音程が」とみんなが言う中でも、出来るだけ「音の高さが」「ピッチが」と正しく言いたいですね。
ですが私も含め音楽のプロでも、分かっていてもよく「音程が下がるなぁ」などど言ってしまうのです。
これは、二音間の音程が、その二音のそれぞれの音高が正しくないと変に聴こえるから、ということから来ているのかもしれません。

音名と階名

次に「音の名前」と言いたいときの言葉。

小学校の音楽のテストで「難しいなぁ」「混乱する~」と躓いてイヤになってしまうお勉強のひとつに、「この音を階名に直して答えなさい」というものがあります。
大人の皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか。

音名というのはそのままドレミの意味です。
ストレートに考えれば良い。
ですが「階名」という言葉を覚えてしまうと、あれ?どっちだっけ?となるようです。
階名というのは、調とか音階という辺りのことをしっかり理解して、“移動ド唱法”というものを教わってから使えばよいもので、普通に楽しく音楽を習っているだけなら、初めのうちは知らなくて良い言葉です。

ですからここから少しは、読み流してください。
階名をカンタンに解説すると。。。
音階というのは、ドから始まるドレミファソラシドだけではなく、レから始まるレミファソラシドレ、ミから始まるミファソラシドレミ、全部言ったらキリがありませんが、とにかくたくさんあります。
そのどれの話をする時でも全部、始まりの音はド、2番目の音はレと呼んでしまうのが、階名です。
たとえ(始まりの音がレ、2番目の音がミである)レから始まる音階であっても、何でもすべて「ドレミファソラシド」と呼んでしまいます。
なぜこのようなことをするかというと、そうした方が理解しやすい場面が、音楽を習っている時にあるからなのです。
この階名唱を身に付けた方だけができる音楽の勉強方法があります。

私はレッスンで、この混乱を避けるために「音の名前」というようにしていたら、長年の間にこの呼び方がクセになってしまいました。

叩く

次にピアノについての言葉。
「ピアノを叩く」「鍵盤を叩いて音を出す」という言い方をよく耳にします。
これを言うのは皆さん、良い先生にピアノを習ったことのない方だと私は思います。

ピアノの弾き方のなかでも特に、鍵盤への触れ方、押し方、つまりどんなふうに音を出すのかは、「タッチ」と呼ばれるとてもとても大切なこと。
このタッチについて習得すれば、もうどんな音楽でも表現できます。
そのくらい重要で大変で時間がかかる、ですが最高に楽しいアーティスティックなことです。
これぞ「音楽している」という実感を持てるのも、このタッチについてのことを身に付けようとしている時だと思います。

ピアノという楽器を操作しているということだけではなく、自分の体をよく知り、十分に思いどおりにコントロール出来るようになる必要があります。

ですから、良い先生なら、一番やってはいけないことが鍵盤を叩くことだとおっしゃるでしょう。

もうひとつピアノ関連の言葉。
楽器はなんでもそうですが、たくさんの部品でできていて、そのひとつひとつの機構を知ることも楽しいことです。
そんな時に、部品や機構の細かいそれぞれの名前を知ることもあるかもしれません。

その中でも皆さんはあのグランドピアノの大きな蓋を、蓋と呼んでしまっていませんか?
あれは実は「大屋根」と言います。
「ピアノの蓋を開けましょう」ではなく「ピアノの屋根を開けましょう」と言えたら、カッコイイですね。

私の教えている音楽院でも、グランドピアノでレッスン出来ることが多いので、まずは大屋根という名前とそしてその扱い方や意味をお伝えします。
とても重たいものですから迂闊な開け方をすると危ないので、じっくり実地レッスンをするのです。

変調

次は生徒さんからよく出てくる変な言葉について。

調や音階の話をする時に、移動する調と書いて「移調」という言葉と、転回する調と書いて「転調」という言葉を習います。

移調というのは、作曲家自身が指定した元の調を、別の調に変えて演奏することを言い、演奏者が行うことです。
カラオケでキーをプラスマイナスするのと同じことです。

転調というのは、曲の途中で違う調へ変化するように作られている状態のことを言い、作曲家が行うことです。
よくポップスで最後のサビに入る時に、全体の音が高くなったりしますね。あれがそうです。
クラシックではポップスよりももっと頻繁にあることです。

この移調と転調のどちらかの話をするときに、多くの生徒さんが、言葉が思い出せなくて言うのが「変調」。
変化する調と言いたいのでしょうが、音楽用語にはこの言葉はありません。
でも、こうおっしゃる生徒さんが本当に多いです。

リズムとテンポ

最後にオマケのお話をひとつ。

リズムという言葉とテンポという言葉を取り違えてお話しされる方が本当に多いです。
「この曲はリズムが速いから」
「テンポがかっこいいのよね」

完全に逆ですね。
カタカナ三文字という印象のせいでしょうか。


Musique, Elle a des ailes.

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