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大いなる手のひらの中〜Amazing Graceはどうして生まれたか


Chère Musique


“日本語訳詞”という活動を、もう何年もしています。
自己流ですのであまり公言はしていませんが、最近の自分のコンサートでは必ず一曲以上、自分で訳した外国の歌を歌います。



『Amazing Grace』の訳詞を、もう10年以上前になりますが、作ってみました。

あの素晴らしい英語の原詞は、きっとこんな想いから生まれたのではないかしら。。。と思いながら。

『風が吹いて花は揺れ』


風が吹いて花は揺れ
雨に濡れて弱く
穢れ負った魂を
守り生きる日々

この身に向かい問うてみる
生かされてこそと
許し与う大いなる
手のひらの中

生きることを許された
あまりにも弱い
小さな命、どれほどの
愛を持てるだろう




原詞の作者 John NEWTON (ジョン・ニュートン)、1725年イギリス生まれ。
その人生を辿ってみて、彼自身が想っていたのはこんなことなのではないか、と想像しました。
原詞の直訳ではなく、彼のその内心を、日本語詞に創ったつもりです。

驚くばかりの神の恵み

歴史的に、そういう時代だったのです。奴隷制度が、社会の構造として成り立っていた時代。
なんの疑問も持たずに、父親の後を継いで、アフリカの黒人を貨物として運んでいた船の会社を運営し、自身も乗船して働いていたイギリス人の若者が、

1748年5月10日、22歳の時、もう絶対に助からないと覚悟を決めたくらいの、ものすごい大嵐に逢い、、、、奇跡的に助かりました。


もうダメだ!と覚悟した瞬間に、子どものころ口にして以来忘れ去っていた、神への祈りの言葉が、無意識に口をついて出て、本人も周りの人々も、とても驚いたそうです。

そして、、「生きている」と自覚した瞬間に、
彼は目が覚めたように現実を直視しました。


「私は、たくさんの『命』を運び、売っていた。。。」


その頃の奴隷運搬船では、目的地にたどり着くまでに、長時間に渡る貨物部屋での生活環境が原因で、到着した時には出航時から約半分に人数が減っているなどということは、あたりまえな状況だったそうです。


一度死の淵まで行って帰ってきたジョンは、人格が変わったようにすべての真理を見渡すことが出来るようになっていました。



社会的な立場に縛られ、すぐには人生を立て直すことができなかったけれど、
1755年、30歳の時、やっと、船を完全に下りました。


「こんな自分が生きる」ことを許してくれた神への感謝に一生を捧げる僧職につくための勉強をして、1764年39歳で牧師になり、その世界ではたくさんの偉業を成しました。
そして1772年47才で、この詩を創りました。
去年は『Amazing Grace』の詩が生まれて、ちょうど250年だったのです。


Amazing grace!
How sweet the sound
That saved a wretch like me
I once was lost, but now am found
Was blind, but now I see.

驚くばかりの神の恵み
何と美しい響きでしょうか
私のようなどうしようもない者まで、救ってくださる
生きる道を踏み外していた私を、見出してくださった
以前は見えなかった神の愛が、今の私にはわかるのです

「wretsh」という単語が詩の中に使われていることはあまりないそうです。
それほどに酷く人を貶す言葉を、彼はこの詩の中で自分に対して言っています。



奴隷貿易の深い後悔、赦しを与えた神の愛に対する深い感謝を胸に、1807年12月21日に、ジョン・ニュートンは、この世を去りました。
亡くなる時、意識が朦朧とする中で最後に言った言葉が記録されています。

"My memory is nearly gone,
but I remember two things,
that I am a great sinner,
and that Christ is a great Saviour"

「私の思い出はもうほとんど何もない
しかし二つのことだけは覚えている
私がとんでもない罪人であったこと
キリストはまこと偉大な救い主であること」

想像から生まれた新詞

『Amazing Grace』の私の訳詞は、『風が吹いて花は揺れ』 というタイトルです。

初めに書いたように、原詞の内容をそのまま日本語にしたものではありません。
ジョン・ニュートンの人生とその心の中を想像して、そしてこの原詞が生まれた経緯を思って、それを原詞の内容に加えて混ぜて、この訳詞になりました。


一番は現実を見据えて、淡々と。
二番は不思議な力に感謝して、豊かな声で。
三番は謙虚な気持ちで、静かに。


この歌のピアノパートの編曲と演奏は、YouTube Podcast番組『音楽のひとしずく』テーマ音楽の作者である東谷悠子さんです。
私の書いたこの訳詞をじっくり解釈して、言葉に託した想いに寄り添うように音を作ってくださいました。


歌の練習♪『風が吹いて花は揺れ』
https://youtu.be/uIeACNusiL0?feature=shared



終わりに

この歌の日本語訳詞は、とても有名なものから、ちょっと意外なものまで、たくさんあります。

変わり種で私が大好きなのは、石垣島の宮良牧子さんが沖縄口(ウチナーグチ)で歌っている『世願ぇ~姉妹神ぬ祈り(ゆーにげぇ~うないかみぬいのり)』。
世界の平和を願っている歌詞。
宮良さんの2ndアルバム『マブイウタ』に収録されています。



原詞の方は、先ほどは一番だけ書きましたが、私が知っている詞は六番まであります。

ちなみにこの曲の原詞であると言われているものは、数パターンが広まっています。
昔々の詩なので、どれが本当なのかはもう分からないのでしょう。

今回私が書いたものが、皆さまが覚えていらっしゃるものと少し違うかもしれませんが、ご了承ください。



ジョン・ニュートンのお話も、私なりに省略してドラマチックに書いてみました。
現実には、この大筋の中に、キリスト教としても歴史としても、細かい経緯がたくさんあり、ニュートンの生涯とその宗教活動についてはとてもたくさんの資料が残っているようです。

興味があったらお調べになってみてください。



Musique, Elle a des ailes.

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