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歌解説『ジングルベル』


Chère Musique

『Jingle Bells』

Dashing through the snow,
In a one horse Open sleigh,
O’er the fields we go,
Laughing all the way;
Bell’s on the bobtail ring,
Making spirits bright;
What fun it to ride and sing
a sleighing song tonight!

Jingle, bells! Jingle, bells! Jingle all the way!
Oh, what fun it is to ride,
In a One horse open sleigh!
Jingle, bells! Jingle, bells! Jingle all the way!
Oh, what fun it is to ride,
In a one horse open sleigh!


「クリスマスの歌」と言って一番最初に口をついて出てくる歌ではないでしょうか。
『きよしこの夜』と共に、二大クリスマスソングと言ってもいいでしょう。

クリスマスの音楽の種類

毎年この時期になると、当たり前ですが、話題の中にクリスマスの音楽についてがよく出てきます。
でも、日本人にとっての『クリスマスの音楽』はとっても意味が広くて、何を指しているのかを見定めないと会話が成り立たないことが多いのです。

いわゆる『クリスマスソング』とみんなが言うものにも、賛美歌、外国のポップス、J-POP、童謡、ゴスペル、歌曲と、たくさん混ざってます。
例えば、二大有名クリスマスソングのもうひとつ『きよしこの夜』は、オーストリアで生まれた賛美歌。
そして例えば『もみの木』はドイツ民謡。
『あわてんぼうのサンタクロース』は、日本の童謡です。

日本の街中のBGMやコンサートの演目では、讃美歌の『The First Noel』もポップスの『I’m dreaming of a white Christmas』も全部一緒くた。

歌以外の器楽の音楽でも、ピアノやオーケストラなどで奏でるクリスマスに因んだ作品は、クラシックや映画音楽やミュージカルにも結構あります。

こう言われると、「では私の好きなこの曲は、その中のどれに当てはまるの?」と調べたくなりますね。

ジングルベルはどの種類?

ではこの『ジングルベル』はどれなのかというと、1857年にアメリカのボストンで生まれた、ポップス?なのかな?
作ったのは、詞も曲もボストンのとある教会の牧師さんであったジェームズ・ロード・ピアポント。
自分の勤める教会の感謝祭(サンクスギビング)で歌うために作りました。
讃美歌にしようと思ったけれど、陽気な牧師さんでノリノリになってしまった?ということかしら。

でもここで、え?と思いませんか?
サンクスギビングは11月ですよね?

実はクリスマスではない

実はこの歌は、特にクリスマスのために作ったのでもクリスマスのことを歌ったのでもない歌なのです。

元のタイトルは
『One Horse Open Sleigh(一頭立ての橇)』
初めて教会で歌われたときに、あまりにも参列者に好評で、皆さんが歌い続けて、クリスマスでもみんなで歌い、その後何年かかけてアメリカ中に広まっていきました。
広まっていく途中でいつの間にかタイトルも『ジングルベル』に変わって行ったそうです。

歌詞にも、宗教的な意味もクリスマスという言葉すらもまったく無く、英語の原詞は「若者たちのそりあそびの中で起こるちょっとした恋愛劇」です。
もっとはっきり言ってしまうと、“ナンパ”のお話。
ソリのスピードを上げて走り、「きゃ~」と怖がる女の子をどうやって誘惑するか。
今歌われている歌詞からは流石に消されてしまった本当の元の歌詞の中には、健全な年配の信者の中が「これを教会で歌うの?」と顔をしかめた文もあったそうです。
このピアポントという人は、何かといろいろな評判のある牧師さんだったようですね。

広めた音楽家

このような歌がここまで世界中で歌われるクリスマスソングになったのは、音楽史に名を残すような素晴らしいミュージシャンたちが歌い継いで行ったからです。
ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、
デューク・エリントン、カウント・ベイシー、
エラ・フィッツジェラルド、
デイヴ・ブルーベック、
ルイ・アームストロング、ビートルズ。
そして今でも毎年のように、活躍中のアーティストたちが自分のクリスマスアルバムの中にオリジナルアレンジで取り上げています。

ピアポント牧師は1893年に亡くなっていて、こんな怪物的ヒット曲になるとは知らずに、牧師業とピアノ先生業で、慎ましく生涯を終わりました。

歌の中の雪

クリスマスに演奏される曲で実はクリスマスの歌ではなかった、という例は他にもあります。 筆頭は、ルロイ・アンダーソンの『ソリすべり』や、バーナードの『ウィンターワンダーランド』などではないでしょうか。

これらの曲に共通する要素として、歌詞やタイトルがどれも雪の中で遊ぶシーンであるということが言えると思います。

ジングルベルの日本語詞の代表的なものは、現代の子どもに合わせた当たり障りない内容ですね。

私たち日本人が、クリスマスの歌、冬の歌としてよく接する外国の歌というのは、アメリカの北の方と、ヨーロッパの北の方、そしてロシア、そういう土地の歌がほとんどでしょう。

そこで歌われている雪というのは、その土地で冬を過ごした人にしかわからない、日本のそれも都会で暮らす人には到底想像もつかないような、物凄い豪雪です。
日本の山岳地帯の湿った重たい雪とも少し感覚が違い、人がたくさん生活している都会自体が、そのなかなか降り止まない豪雪の中に埋もれるのです。

私も実際に体験したことはありませんが、それらの土地のたくさんの本を読み、たくさんの映像を見て、演奏に役立つくらいの想像はすることができるようになりました。

敢えて明るく歌い飛ばす

この歌詞のように橇自体にまたソリを引く馬になぜ鈴をつけるかというと、この鈴は車でいうクラクションの役目なのです。
数メートル先も見えないような吹雪や霧の中でソリを進めるには、安全上絶対に不可欠なものです。

そのように、吹雪、寒さ、危険、と言ったネガティブな感覚を、せめて歌の中では楽しく笑っていようという、明るい楽しい歌が多いですね。

ロシアの名曲『トロイカ』、皆さんご存知でしょうか?
物流トラックやバスの役目を果たしているロシア独特のそりであるトロイカ。
あれが走っている状況は、とても過酷なものです。
でもそれをあの歌は、切ない恋愛を歌っているのです。

歌詞を三種類

それではここで、『ジングルベル』の日本語の歌詞についてのお話。

(音羽たかし)
雪を蹴り 野山越えて 滑りゆく 軽いそり
歌声も 高らかに 心も勇むよ そりの遊び
ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る
今日も楽しい そりの遊び オー!
ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る
さあさ 行こうよ そりの遊び

(宮沢章二)
走れそりよ 風のように
雪の中を 軽く早く
笑い声を 雪にまけば
明るいひかりの 花になるよ
ジングルベル ジングルベル
鈴が鳴る
鈴のリズムに 光の輪が舞う
ジングルベル ジングルベル
鈴が鳴る
森に林に 響きながら

(堀内敬三)
野を越えて 丘を越え
雪を浴び そりは走る
高らかに 声あわせ
歌えや楽しい そりの歌
ジングルベル ジングルベル
鈴が鳴る
そりを飛ばせて 歌えや歌え
ジングルベル ジングルベル
鈴が鳴る
馬を飛ばせて いざ歌え

日本にこの歌が入ってきたのは、1914年。
以来とてもたくさんの訳詞によって歌われてきました。
私もとても覚えきれませんが、ポップス歌手によるものや、映画やアニメや舞台のためのオリジナル詞なども含めると、今ではどうも日本語詞は10種類以上になっているようです。

今歌われているものでは、上の二種類が定番のようです。
ちなみに私が子どもの頃に歌っていたのは、音羽たかし訳です。
最近の幼稚園、保育園、小学校では、宮沢訳の方で、レッスンで子どもたちと歌う時には毎回、改めて確かめなければなりません。
私の親くらいの世代になると、この堀内敬三さんの詞のようです。

選ぶ詞によってメロディのリズムが異なってきます。
この歌のメロディはアウフタクトのつけ方に特徴があるからです。
例えば、出だしの「走れそりよ」と「雪をけり」の違いのようなこと。
二行目などはその違いが大きいですね。
「雪の中を」と「すべりゆく」、「軽く早く」と「軽いそり」。

エンディング

いろいろな資料を読んで聞いて、経験を合わせてまとめてみました。
歌う時にはいろいろと気持ちが広がりそうです。


Musique, Elle a des ailes.

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