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【本の紹介】『貧乏の神様』(柳美里著)と『蜥蜴(二十歳の火影)』(宮本輝著)

芥川賞作家の柳美里が困窮生活だなんてどういうことだ、と興味本位で手に取ってしまいました。

『貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記』

本気の困窮生活でした。

水道代が払えないほどの困窮でした。

なぜそんなことになっているのかというと、パートナーだった人の医療費、葬儀代、お墓代が必要で、莫大な借金を抱えていたために、芥川賞で得た6千万円も、その返済に消えてしまったのでした。

そもそも柳美里さん、貯金というものをされない性格のようで。

実は、この本の内容自体にはあまりひかれなかったのですが、次の一文は頭に残りました。

終わらせることを始めなければ、何もかもが手遅れになるというのに、大多数の人は、終わらせることよりも続けることを選んでしまうのです。

『貧乏の神様(柳美里著)より

それそれ!

各地で起こっている紛争、戦争、虐殺

環境破壊

日本の男性中心社会

自民党の裏金問題

…思い浮かぶことは山のようにありますよね

旧ジャニーズや宝塚歌劇団は「終わらせること」を始めたのかな?

ファンのためとか、良い作品を作るためとか、儲けるため(?)とか、そういうことはいったん横に置いて、長く続いた悪習を断ち切らなければ始まらないのに。

長く続いた悪習というのは、もう「身」と一体化しているために、断ち切るのは簡単ではありません。それこそ身を切らなければできません。

というようなことを思っていると、宮本輝氏の短編集「二十歳の火影」に収録されている、「蜥蜴」という掌編を思い出しました。

高校の国語の教科書に載っていたような記憶があります。
簡単にあらすじを書きますと

 引っ越しのとき、木の棚を取り外そうとすると、そこに、棚と壁との間に挟まれた1匹のトカゲがいて、太い釘で貫かれていた。なんと、トカゲは生きていた。

3年前に棚を取り付けたとき、どうやらトカゲに気づかず釘を打ったらしい。

さあ、どうするか。釘は打たれて3年経つ。すでにトカゲの一部になっているはず。

釘を抜いたら死んでしまうか、死ぬほどの痛みを伴うであろう。

悩んだ末、思い切って釘を抜いた。

すると、トカゲは右往左往しながらも草むらの中に去っていった。

そして、主人公の心に残ったのは…

(以下引用)
 もしかしたら私の中にも、死ぬほどの苦しみを味わってでも引き抜いてしまわなければならない太い錆びた釘が刺さっているのかもしれぬという思いなのである。
 釘を引き抜かれた瞬間のトカゲの激痛を思うと、自分は波風を立てずにこのままそっと生きていようかと考えたりする。だが人生には、きっと一度はそうした荒療治を加えなければならぬ節が、誰人にも待ち構えているような気もするのである。

『蜥蜴(二十歳の火影)』宮本輝より

私自身にもそのような錆びた釘が、還暦を迎える今もまだ刺さっています。



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