短編映画『Digital Tattoo | デジタルタトゥー』について
短編映画『Digital Tattoo』とは
過去のSNS投稿が、思い出からトラブルへ変わる。
自分ではない他人が何気なくSNSに投稿したものが、意図しないかたちで未来の自分を脅かすかもしれない――。 無自覚な”デジタルタトゥー”を問う近未来を舞台にした社会派SF映画として制作された本作。2018年から構想を練り始め、2019年に5日間の撮影を行い、2020年の10月に完成した22分の短編映画です。
本作品への理解をより深めていただきたく、このnoteでは監督である私の視点から『デジタルタトゥー』の制作意図などに触れたいと思います。
映画は、社会課題を伝える知ってもらう手法のひとつ
映画はストーリー、映像、音を合体させることで、社会課題などのテーマをオーディエンスに伝える表現手法です。複数の分野の芸術の混交によって創造される総合芸術の頂点であり、ゲームと並んでコンテンツキング、あるいは第七芸術とも称される映画。
監督やプロデューサーによってその表現の方法は様々です。アクションを重視することによってアトラクションのような娯楽体験を提供する方法もあれば、作家性を重視することでアート寄りに制作する方法もあります。
今回の『デジタルタトゥー』は後者寄りで、少なくとも映画を観終わったあとの読後感と学びを重要視しています。多くの観客に映画内で描くストーリーを通じて社会課題を知ってもらい、考えてもらい、これから生きていく上でのちょっとした支えにしてもらえることを目的にしております。
"デジタルタトゥー"は他人事ではない。
構想を練り始めた当時、2013年ごろから徐々に顕在化した「バカッター」や「バイトテロ」と呼ばれる現象が社会問題化していました。スマートフォンが普及し、インスタやツイッターなどのSNSが主流化し、TikTokがちょうど流行し始めた時代。
YouTubeでは炎上YouTuberなどが再生数稼ぎのために奔走し、2013年のバカッターブームを知らない学生たちが、問題視されるような発信を新たにしてしまうことで、ネットは常に炎上ネタで溢れていました。
一度インターネットにアップロードされた画像や動画、文章はなかなか簡単に消すことはできず、海外では刺青に例えて"デジタルタトゥー"という言葉で表現されることも。
炎上した人のSNSは直接関係のない過去の発言や経歴などを連日のように検索され、当時とは”別の時代”の価値観で判断されたり、リンチのように断罪されたりします。その波紋は当事者だけではなく、家族、友人、そして暮らす街などにも広がっていきます。
デジタルタトゥーは文字通り、私たちの人生の大きな傷となる可能性があります。
これはSNSと密接に暮らしている"普通"の私たちも他人事ではありません。
可愛い子供の写真を、モザイクなしでインスタなどに投稿する親。*
友達との悪ふざけを面白いから投稿する学生。
TikTokにダンス動画をアップする配信者。
普段投稿している何気ないツイートや写真が、価値観の異なるコミュニティのなかで、あるいは、価値観の異なる時代において、自身の意図とはまったく異なる受け取り方・解釈をされる可能性があります。
自分だけではなく家族や子孫にも大きなダメージをもたらす時限爆弾になるかもしれません。
本作はそんな誰しもが共感できる、2020年代ならではの社会課題である"デジタルタトゥー"をテーマに据えることで、観客にこの問題を認知してもらい、デジタル社会との共存方法を考えるきっかけとなれることを意識しました。
ただ、ここではSNSにアップする=悪、ということを伝えたいわけではありません。SNSはとても便利で素晴らしいツールです。だからこそ、しっかりと向き合ってほしいという思いがあります。
*オーストリアでは幼少期の恥ずかしい写真をSNSにアップされたとして、娘が親を提訴したという事件も。
複数の映画祭で取り上げていただきました。
2021年〜2022年には国内外の様々な映画祭で今作を取り上げていただき、上映会などの機会をいただくことができました。
上映記録:
Shenzhen International Film Festival
*Best on a Small Budget賞の受賞東京神田ファンタスティックフィルムコンペティション
*BSFFF賞の受賞
今後どうしていきたいのか?
元々、本作はSNSの勉強会やセミナーなどで活用ができる一種の教材映画という側面を意識して制作を進めておりました。親和性の高い場で上映し、討議する。しかし、コロナ禍でオフラインイベントの開催が困難となり、そういった場での上映は実現に至っておりません。
2022年3月に行われた28thキネコ国際映画祭ではティーンズ部門 - 現役中学生たちが審査員として印象に残った最優秀作品を選ぶ部門 - の候補に選ばれ、3日間の上映機会をいただきました。
2日目の上映後には6名の審査員がそれぞれ印象に残った作品と感想を述べる機会があり、内2名がデジタルタトゥーを選ぶなど、意図したターゲット層へのメッセージ訴求が達成できていたことに感動をしました。
今後は引き続きSNS関連のイベントでの上映は模索しつつ、学校での上映や教育教材としての活動も検討をしていきたいと思います。
呂
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