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『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』と『2001年宇宙の旅』の共通点

映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が公開され、各所では考察などがヒートアップしており、その勢いは衰えを知りません。

それどころか先日公開されたNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で総監督の庵野秀明さんが取り上げられたことでより一層エヴァ熱が過熱している気がします。

終わるの?終わらないの?
多くの人生に影響を与えたこの作品はTV版を含めると約25年。

当時のオタクたちだけではなく、その枠組みを超えて一般人も虜にしたビッグコンテンツの終焉はやはり注目の的となっています。

声優陣を交えた24年ぶりの舞台あいさつも行われ、いかに今作の注目度や待遇が異例なのかということが伺えます。


シン・エヴァンゲリオンのDパート演出技法はどこから来ているのか?

『シン・エヴァンゲリオン』Dパートは碇シンジが乗る初号機と碇ゲンドウが乗る13号機が闘い、ミサトさんがアディショナルインパクト阻止のために「ガイウスの槍」をシンジくんに託すあたりで始まります。

次々と場面が切り替わり、巨大ロボット同士がアパート内で戦かったかと思えば次のシーンには映画スタジオで綾波レイと話をしていたり。

映画終盤のこの突拍子もない演出に驚かれた人が多いと思いますが、実は庵野さんのことを調べるとこれらは彼がインプットしてきた知見の集約だということがわかります。

例①「ミニチュアで見る昭和平成の技」

多くの人が知る通り、庵野秀明さんの原点は『鉄人28号』や『ウルトラマン』などの数多くのアニメ・特撮作品、そして古いハリウッド映画だとされています。

『シン・エヴァンゲリオン』を含めて過去作品にはそういった特撮作品のオマージュが散見されており、学生時代のDAICON FILM活動時には既に『海底軍艦』の轟天号を登場させています。

一説には『不思議の海のナディア』におけるノーチラス号、『シン・エヴァンゲリオン』のAAAヴンダーの原型ともいわれていますね。
(宇宙戦艦ヤマトの要素もプラスされていると思いますが)

余談ですが、AAAヴンダーやその周りを飛ぶ戦艦はピアノ線で釣ってあります。古きよき昭和の特撮を完全に意識してます。

そんな庵野さんは特撮に対する愛が非常に大きく、アニメと特撮の文化を後世に遺すために、特定非営利活動法人「アニメ特撮アーカイブ機構」を立ち上げたことは有名です。

その特撮への恩返しのために2012年には展覧会「館長 庵野秀明特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」のプロデュースを担当し、会場で上映された短編特撮映画『巨神兵東京に現わる』の脚本などを手がけました。

この『巨神兵東京に現わる』がきっかけで『シン・ゴジラ』を監督することになりました。

さて、この『ミニチュアで見る昭和平成の技』、どこか見覚えがありませんか?

そう『シン・エヴァンゲリオン』で第13号機と初号機が最初に闘った場所です。

初見だと無機質で粗い背景CGにとても驚かれたと思いますが、実は特撮セットだったというオチ。


例②『シン・ゴジラ』などを撮影した東宝スタジオ

『シン・エヴァンゲリオン』の終盤は碇シンジが登場キャラ達と対話し、彼らが抱えてきた問題を終わらせて救うことに費やされます。

その中で印象的だったのが綾波レイと対話した映画スタジオ。

これは成城学園前にある東宝スタジオが元ネタだとされており、『シン・ゴジラ』で東宝と距離が近くなった庵野さんだから使えた案だと思います。

この東宝スタジオは先述した『プロフェッショナル 仕事の流儀』でモーションキャプチャーを活用したアングル決めのくだりでも登場しました。

こうやって彼が訪れた場所、経験した場所を活用することによって、物語の終盤がより魅力的になっていると感じます。


例③『2001年 宇宙の旅』の第三幕

そもそも終盤における、場所や対峙している人間が急にスイッチする発想はどこからくるのか?

カギはキューブリックの名作『2001年 宇宙の旅』にあります。

『2001年 宇宙の旅』の終盤は、宇宙船が木星の衛星軌道付近に到達すると、そこに浮かぶ巨大モノリスを発見します。

宇宙飛行士がポッドに乗って接近すると、巨大モノリスは漆黒の闇に消え、空間から発した光の奔流がポッドを呑み込み、めくるめく異次元の光景が次から次へと押し寄せてきます。

そして木星にいたはずの宇宙飛行士は気が付くと閉鎖された白い部屋にポッドごと到着します。そこで彼は年老いて行く自分自身を順々に発見するという、よくわからない展開です。

この木星に浮かぶモノリス。
これはまさにゲンドウがアディショナルインパクトに使ったゴルゴダオブジェクトの元ネタではないのでしょうか。

『2001年宇宙の旅』も『シン・エヴァンゲリオン』も、その人知を超えた物質に触れることでエンディングへと突き進みます。

前後のつながりがない場所やシーンが目まぐるしく変わっていき、文脈もかなりむちゃくちゃな両作品。


2018年、僕が「国立映画アーカイブ」にて70mmニュープリントの『2001年宇宙の旅』を観に行った際、偶然にも庵野監督と樋口監督が同席してました。

当時はまだ『シン・エヴァンゲリオン』の制作途中で終盤の脚本もまだ固まってない状況だったと推察されるので、庵野さんは『2001年宇宙の旅』から着想を得ようとしたのではないでしょうか。

なんにせよ、庵野さんと同じ空間で同じ作品を観て、それがエヴァに反映されていたのであれば感無量です。

こうして、数々のインプットを庵野さんが再構築して出来上がった『シン・エヴァンゲリオン』。

個人的にはどこからどうみても完璧な155分のエヴァンゲリオン。

とても素晴らしい作品ですので今後も白熱した議論などは継続されるでしょう。
コンテンツとしては非常に幸せなことですね。

制作に関わった全ての皆様。
本当にありがとうございました。




※補足
調べてみると過去のエヴァ作も『2001年 宇宙の旅』に似ているという記事があるのでぜひチェックしてみてください。


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